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「人工知能が浸透する社会を、異分野の研究者たちとともに考える」江間有沙さんインタビュー

2015年08月27日 22時07分 JST | 更新 2016年08月26日 18時12分 JST

「人工知能」ブームだ。「人工知能」という単語をニュース記事で見ない日がないというほどバズワード化し、また実際に人工知能自体が社会の中で使われるようになってきた。

一方、人工知能というテクノロジーと社会との関係は複雑になり、問題も起きつつある。例えば昨年の人工知能学会誌「人工知能」1月号の「表紙問題」では、表紙イラストで女性型ロボットが掃除をしている姿が、差別だなどとしてネットで批判された。その「表紙問題」をきっかけに、若手研究者らによる研究会Acceptable Intelligence with Responsibility (AIR)が昨年、始まった。人工知能の研究者と人文・社会学の研究者がともに、「人工知能が浸透する社会を考える」をテーマに活動を進めている。

その中心メンバーのひとりが、科学技術社会論(STS)が専門で東京大学特任講師の江間有沙さんだ。江間さんはAIRをはじめ、理系文系問わず異分野の研究者やステークホルダーをつなぎ、社会や科学技術の課題に取り組むプロジェクトを進めている。AIRについて、また江間さん自身が考える異分野連携研究のあり方について聞いた。

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今年6月に函館で開催された人工知能学会で発表をする江間さん

異分野の研究者が集まった


ーーAIRは、「人工知能が浸透する社会を考える」をテーマに活動に取り組まれています。もともとは「表紙問題」をきっかけに始まったということですが、分野の異なる研究者たちが、どのように集まり、どのように始まったのでしょうか?

表紙問題があった2014年1月は、京都大学の情報学研究科の石田(亨)研究室に籍を置かせて頂いていて(2015年3月まで京都大学白眉センター特定助教)、当時同じ研究室だった服部(宏充)さん(マルチエージェントシステムが専門で現在は立命館大学准教授)に「これ江間さんの研究分野の話ですよね?」と廊下で話しかけられたところから始まりました。私も表紙問題の展開は気になっていたので、何かお役にたてることがあれば、ぜひお声掛けくださいとお返事しました。

5月に入って、「人工知能学会誌で小特集が組まれるのですが、AI研究者に考えてもらいたいことを書いていただけるような倫理とか哲学の研究者をご存知でしょうか?」と服部さんに聞かれたんです。実は偶然ですが、これにアテがあって(笑)。ちょっと前の2月のある研究会で大家(慎也)さん(テクノロジーの政治・倫理が専門の神戸大学博士課程)に会って、懇親会で人工知能の表紙問題の話になったところ、「ぼくロボットの応用哲学を考える研究会にはいっているんですよ」と。「なにそれおもしろい!今度じゃあそれ関係でお話聞かせてください」と名刺交換してたんです。

大家さんにつないでいただいて、6月に服部さんと一緒に京大の北部キャンパスで大家さん、神崎(宣次)さん(倫理学が専門で滋賀大学准教授)、久木田(水生)さん(哲学が専門で名古屋大学准教授)、西條(玲奈)さん(分析哲学が専門で北海道大学特別研究員)と本田(康二郎)さん(現象学が専門で金沢医科大学講師)とお話しして、大家さんと神崎さんに寄稿いただけることになりました。また、もともとの知り合いネットワークで久保(明教)さん(人類学が専門で一橋大学専任講師)と八代(嘉美)さん(科学技術社会論が専門で京都大学准教授)にも原稿をお願いして、「人工知能技術が浸透する社会を考える」特集が出ました。 

そういう特集号の原稿依頼が一段落した6月だったかな、当時京大のiCeMSにいた秋谷(直矩)さん(エスノメソドロジーが専門で現山口大学助教)との雑談でその話をしたら、「実は僕も昔ロボット研究にかかわっていたんですよ」と。彼もまた別のネットワークから問い合わせがあって、「表紙問題について何かできることがないかと考えている」というので、「じゃあ秋谷さんと服部さんつなげちゃえばいいじゃん」と思いついたんです。それが実現したのが7月末。3人で話しているうちに、やっぱりこれは一時的な問題じゃないよね、もうちょっと腰を落ち着けて、特集号に原稿を書いてくれた人もお呼びして9月にワークショップをやってみようという話になりました。者我々と問題意識を共有してくれ方お呼びしましたたとえばヒューマンエージェントインタラクションが専門でるから、とか。

 

でもワークショップで人をお呼びするにはお金がいる。どうしようかとなったときに、これまたアテがあって(笑)。京都大学の学際融合教育研究推進センターが当時、分野横断プラットフォーム構築企画(百家争鳴)というワークショップ支援プログラムを行っていたんです。ということで服部さん、秋谷さんと私の3人で、あーでもないこーでもないと議論を重ねて8月に企画書を書きました。センター准教授(で学問論が専門)の宮野(公樹)さんにもアドバイスとご支援いただいて、9月12日に京大の白眉センターで「人工知能が浸透する社会を考える」ワークショップを開催しました。

思い返せば、全部細いつながりをたどって始まったプロジェクトです(笑)。実際、AIRが始まる前は、私、どの方ともしっかりじっくりお話したことはなかったです。顔見知り程度で。みなさん、突然のお願いごとによくお返事いただいたなあと、本当に出会いとつながりに感謝です。

あと、AIRは京都で始まった、京都のプロジェクトという意識が強いです。京都大学には異分野連携の研究を支援しようという土壌がある。私が所属していた白眉センターとか、学際融合教育研究推進センターとかがあったりしますし。また直ぐに結果を出そうじゃなくて、長いスパンで見て何かをやっていこうという、時間の流れがすごくゆっくりしているところです。だからAIRも、10年、20年くらい続けていく息の長いプロジェクトとして活動をしていこうねというのが共通理解になっています。

ーーAIRは、何を目的に活動をしているのでしょうか?

目的は人によって違うと思うんです。それはそれでいいと思っていて。ただ何をAIRとしてやりたいかということは話し合っています。その中でも特に、それぞれの人がそれぞれの分野に持ち帰れるものがないとダメだなという意識は共有してます。そうでないと、お金のある分野が別の分野を囲って搾取するだけになったり、金の切れ目が縁の切れ目になったりしてしまうので。「こういうプロジェクトをやりたい、つきましては予算を配分するので、この役割を担ってください」ではなく、アジェンダ設定そのものから議論して、「その問題設定はうちの分野ではあんまり新しいことじゃないから、研究するインセンティブがない」ということになると、「じゃあそれはやめよう」とか「どうしたらそれがやる価値のある研究になるか」という議論になるわけです。

そういうふうに話し合って出てきた活動目標が3つあります。AIRで何を目指すのか、というコンセプトペーパーをみんなで書こう、というのが1つ。それから、今の研究者のベースライン意識を把握するアンケート調査項目の設計をすること。そういう基礎データを作っていこうとしています。現在、海外の研究所とかが、色々な調査研究を行っていますが、それをそのまま使ったら、問題設定を自分たちで考えるのを放棄することになる。それはやりたくない。最後に、「温故知新プロジェクト」といって、過去の人工知能研究、特に人工知能と哲学とかが近かった時代のことを知っている方々にインタビューをする。今の我々の研究を10年、20年と続けていくためにも、知の継承をしていくことが大事だと思っています。

ただ、こういう活動が自分たちの分野や研究にどう影響があるのかというのは多様で、たとえばインタビュー調査をするにしても、後世のためのデータベースを作ることが目的なのか、あるいは自分たちの研究にインスピレーションを得るためなのか、そこは目指してるものやアウトプットの出し方のイメージが違うからすり合わせていかないといけない。かといって、調査研究に全員でがっつり取り組まなきゃという感じでもないですね。小グループで核となる調査設計を練り上げた後、全体のミーティングをしてさらにブラッシュアップする、という方針です。インタビュー調査ならインタビュー調査に関心のある人が集まるけど、そこでも、どの分野の人も話を聞いてみたいと思えるような人は?とかいう議論になる。そうやっていろいろ議論していたら、また面白いテーマが見つかるかも知れなくて、それが楽しみです。

ーーAIRでは、ワークショップで議論をして、その過程や議事録をレターにまとめてウェブで公開されています。また、実際に人工知能研究を進めるにあたり、研究のアジェンダ設定から、みんなで考えいくそうですね。

アジェンダ設定をみんなで行うこと自体が、互いの学びの場になっているんじゃないかなと思います。1年近く議論を続けていると、面白いのは、最初は互いに他分野には土足で踏み入らないようにと遠慮がちだったのが、次第に「こういうことに関してはその分野の人たちに頑張ってほしい」という期待が口に出るようになったり、あるいは逆に「やっぱり他分野でもこれは自分でも勉強しなくちゃと思って」となったりすること。それは私自身もですが、日々新しいことの勉強です。でもだからといって、一人学際(自分一人がなんでも知っている研究者になるというイメージ)をしようというのではなくて、他者の専門性への信頼や期待があります。一方で、話していく過程で時間間隔とか金銭感覚の違いが明らかになったりとか、互いの常識が通じない瞬間とかがでてきて、そういう時は驚くを通り越してみんなで笑ってしまいます。

そもそも分野が違えば時間間隔や研究サイクルが違うのは当たり前なので、最初からゆっくりやろうね、といっているのが大事なのかなと思います。今年度中に結果出せ、となったら待てないですよね。あ、でも現在、研究会は月1のペースで行おうとしてます。ついでにいうと、研究成果は学会で発表しようとか論文化しようとか目標は結構きっちり掲げてますね。目標があることで、活動がまとまるところもあると思います。

信頼のおける仲間を集め、何を議論するかのアジェンダを考えるところから始める


ーー文系と理系では、研究者の時間感覚がそれぞれ違うという話があったんですが、AIRでは「ゆっくり」という言葉が度々出てきますね。

そもそも、「ゆっくりやろう」「息の長いプロジェクトにしよう」と言葉に出して言ってくれたのは服部さんなんです。表紙問題以降、(人工知能学会の)倫理委員会、ドワンゴ人工知能研究所、AI社会論研究会、産業技術総合研究所の人工知能研究センターなど、どんどん新しい組織立ち上げの情報が入ってきました。東京で起きているそのような状況に対して、我々は京都で何をするのか。信頼のおける仲間を集め、何を議論するかのアジェンダを考えて、地道にゆっくり協働研究をする研究会があってもいいんじゃないかということになりました。学問をじっくりと腰を据えてやる研究会だからこそ、京都でやる意義があるんじゃないかと。

英米の人工知能関連の研究機関を調べていると、機関ごとに役割分担がちゃんと出来ているんですよね。アメリカ東海岸を中心としたFLI(The Future of Life Institute:人工知能の利用を研究する非営利団体、イーロン・マスクらが寄付金を提供している)はファンディングをしてネットワーク形成やイベントを開催する、西海岸のMIRI(Machine Intelligence Research Institute)は実際に人工知能技術を作っていく、ニック・ボストロムがいるオックスフォード大学では調査研究に力を入れている、とか。それでいて実は人の行き来やお金のやりとりもあって、ネットワークづくりがうまいなあ、と。日本でも今いろんな機関が出てきているのだから、全体を見据えながらそれぞれの機関が連携して動けるといいなと思いました。

ーー「全体を」というのは、人工知能に関して他の組織も含めて、どういうあり方が適切かどうかを、AIRで考えいくということでしょうか?

海外の動向も見据えながら、人工知能と社会に関する研究の全体の動きを俯瞰して知見を蓄積していくところが、一か所くらいあってもいいんじゃないのと。AIRとしては関西を中心としたネットワーク形成をじっくりゆっくりやって、議論の内容も発信していこうという話をしていました。だからAIRではウェブでワークショップの様子を報告してますし、短いですけれど英語で要約もつけているんです。

そうやって自らの位置づけを考えていたのに、2015年4月に蓋を開けてみたら私は東大に、秋谷さんは山口大に行くとなって、服部さんが怒った(笑)。裏切り者と(笑)。でもそれまでの一年間で秋谷さんと服部さんと私は京都で一ヶ月に何回も会って話し合いをしていたんですよ。1回2−3時間くらい、長いときは半?