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国立天文台とクリエイターがアート作品制作--「学問の本来あるべき姿」へ

2014年12月09日 00時16分 JST | 更新 2015年02月07日 19時12分 JST

21_21 DESIGN SIGHT(東京・六本木)で開催中の企画展「活動のデザイン」展で、国立天文台とクリエイターが初めて協働して創りあげたアート作品が展示されている。「ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律」と名付けられたオルゴールで、チリにある大型電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」で観測された、死んでいく星「ちょうこくしつ座R星」の電波データにもとづいたメロディーを奏でる。

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人の感情を動かすような作品でありながら、科学的な観測データに忠実に制作されていることが特徴だ。

制作をプロデュースした国立天文台チリ観測所助教・教育広報主任の平松正顕氏は6日に開催されたトークイベントに登壇。「研究者は論文を書くことで研究者間の情報共有をします。ただ、学問の本来あるべき姿は、研究者間にとどまらず一般の人とも情報共有をすることと私は考えています」と言う。

「学問の本来あるべき姿」へ向けた作品制作

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「科学とアートのコラボ」「科学とデザイン」----。とても魅力的な言葉だ。これまで一体どれだけ、そのように銘打った展示やイベントに行ったり、書かれた記事を読んだり(記事を書いたり)してきたことか。だが、それらが意味することや意義はそれぞれまちまちで、魅力的な言葉である一方でしっくりと来ていなかった。

科学とアートやデザインの連携といったとき、科学寄りの人たちのねらいのひとつは、通常科学と関わらない人たちに対する科学への興味・関心の喚起だ。またそこからさらに一歩進めて、研究者の間で共有されている科学的な情報を、研究者以外の一般の人たちと共有することも可能だ(例えば3日にHⅡAロケットによって打ち上げられた小型人工衛星「ARTSAT2 DESPATCH」を企画した「ARTSAT:衛星芸術プロジェクト」では、人工衛星のセンサーが取得したデータをインターネットなどで誰でも得られるようにしている)。このプロジェクトでは、アートやデザインとして楽しむところを入り口にしつつ、後者をも可能にしている。

アルマ望遠鏡は、日本を含む21の国や地域によって約30年かけて南米チリに建設された巨大な電波望遠鏡だ。望遠鏡と言っても1台ではなく66台のアンテナからなり、設置面積はおよそ山手線内ほどにも広がる。2013年から本格的に観測を開始。解像度はすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡をしのぎ、東京から大阪にある1円玉を見分けられるほどの視力を持つ。

アルマ望遠鏡で観測したデータは、取得から1年後にはネット上に無償で公開され、誰でも利用できるようになる。オルゴールから関心を持った人がそのデータをダウンロードして解析をしてみるかもしれない。また、クリエイターがこれらのデータを使って新たな作品をつくるかもしれない。

トークイベントは企画展会場の21_21 DESIGN SIGHTで開催。流行に敏感そうな若い人たちで満席だった。質疑応答では、デザインや制作についての質問が飛び交う一方で、「ちょうこくし座はどこにあるのですか?」「名前の由来はなんですか?」といった質問も飛び出し、作品を通じて天文や科学への興味が引き出されたようだった。

科学者とクリエイターの間をつなぐ人

科学とアート、デザインの連携をうたう作品は多い。だが、科学者とクリエイターが丁寧にコミュニケーションをとりながら、お互い納得して作品を創っていくのは困難。そこでキーパーソンとなるのが、科学者とクリエイターの両方をよく知りお互いをつなぐ人だ。

国立天文台では、これまで天体や天体の現象を可視化するシアターやその映像の制作はしてきたが、今回のようなアート作品の制作は初めての試みだった。「研究者の言うことは難しいと思ったが、平松さんの話はまるで物語のようでわかりやすかった」(サウンド・エンジニアリングを手がけたQosmo取締役の澤井妙治氏)とクリエイターから絶賛される平松氏だが、それでも「これまでクリエイターの人と一緒に仕事をしたことがないので、こちら側の希望をどのように伝えればよいのか、どこまで修正の希望を出してよいのかがわかなかった」と言う。

そんなときに、共同プロデューサーでエピファニーワークス代表の林口砂里氏が大きな役割を果たした。林口氏は、これまでも科学者とクリエイターがコラボレーションをする企画を幾つも手がけており、お互いのことをよく知っていた。平松氏と、作品のコンセプトの提案から制作まで手がけたPARTYファウンダー・クリエイティブディレクターの川村真司氏や澤井氏との間をうまく媒介した。

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林口氏(左)と平松氏。林口氏は、国立天文台などによるアルマ望遠鏡の写真集の制作も手がけた。