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太田勝久 Headshot

幼児教育と中学受験における「落とし穴」

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初めまして。兵庫県西宮市で2歳から9歳までの知能開発を行う幼児教室を経営しております太田と申します。

平成28年春から、灘中高の同級生である医師 西原文現と一緒に中学受験塾も設立しました。

このたびは、医療従事者ではないにもかかわらず、寄稿させていただく機会をいただきまして嬉しく思います。知能開発の専門家として、また中学受験現場を良く知るものとして、早期教育の世界で意外に知られていない「落とし穴」について、注意点をいくつか書かせていただきたいと思います。

●「9歳のカベ」と「髄鞘化(ずいしょうか)現象」


小学生をお持ちの保護者の方の間で有名な言葉に「9歳のカベ」と言うものがあります。
小学3年生ぐらいから急に学習内容が難しくなり、ついて行けなくなる現象を指します。

「9歳のカベ」の典型的な問題は以下のようなものです。

(1)40cmのひもから6cmのひもは何本取れるでしょう。  答:6本
(2)40個の荷物を6個ずつ運ぶと、何回で運べるでしょう? 答:7回

この2問の違いを理解するための能力は、実は9歳までに育てておかないと間に合わないのですが、ついつい小学1・2年生の算数の勉強は計算が速く正確に出来ることに主眼を置きすぎになります。

さらに学年が上がると、こんな問題が出て来ます。

(3)学校への往復に、行きは時速4Km、帰りは時速6Kmで歩きました。平均時速は何Kmでしょう?

答は4.8Kmです。5Kmではないところがミソです。

このような、速さや割合、濃度の問題の他、立体図形や天体、力学等の他、国語で異性が主人公の物語を読む力、社会で行ったことのない土地の気候を理解する力など「具体的に経験できないことを頭の中だけで理解する力」を高学年以降で問われるのですが、その頃からあわててその力を養おうとしても、もう間に合いません。

「当たった時には遅すぎる。」これが9歳のカベです。

その理由は「髄鞘化現象」にあります。

これは、人間の脳は9歳までに、その時点までに出来ている配線を固定してしまう、という現象です。つまり、それ以降に新しい思考の回路はもう作られない、ということです。


http://expres.umin.jp/mric/mric_OTA2.pdf

なぜそんなことが起きるのかと言うと、情報の信号の誤配信を防ぐためです。幼児が上手くウインクできないとか、手の薬指と小指をバラバラに動かせない、と言うのは髄鞘化が終わっていないから。命令が狙いと違うところに届いてしまうのです。

そこで、人間の体は、「もう9歳だから、必要な配線は作ったよね?閉じちゃいますよ。」と言って、膜で覆ってしまうわけです。その時までに様々な頭の使い方をして、配線を作っておかなければなりません。

中学受験、特に6年生ぐらいで切羽詰まっておられるご家庭を担当する家庭教師で学生とプロの差が如実に出るのが、「無理なところをあきらめて、スパッと切れるか否か」です。プロは長年の経験から、「今できないのならもう出来ない」分野を知っています。先に述べた、割合や立体図形、本人に馴染みのない物語文、等ですね。

良心的なプロはご家庭にそのことを説明し、場合によっては出題傾向を考えて志望校変更も提案します。多くの学生家庭教師は、純粋で熱心であればあるほど、やっても成果の出ない分野を出来るようにしてあげようと思って時間を浪費してしまうのです。

ただ私もプロ家庭教師時代、良かれと思ってこのような説明をしては、「あの先生は出来ないと言っているので、出来る先生をよこしてくれ」と派遣会社に良くクレームが入ったものです。面と向かって「プロなら何とかしなさいよ。」と言われ、「プロだからこの単元にこだわるべきじゃないと言っているんです!」と大喧嘩したご家庭ほど、その後は信頼していただき、第一志望校に合格していただくこともできました。

●思考力を奪う「右脳教育」


もちろん、このタイトルはややミスリーディングです。

正確に言うと、「右脳教育を標榜するほとんどの早期幼児教育は、左脳教育を軽視、または敵視し過ぎるので論理的な思考力を育てるチャンスをわざわざ奪っている」ということです。

この章では、まずは私たちの教室で行っている知能開発の説明をさせていただき、右脳教育偏重型の教育との対比をさせていただくことにします。

大学在学中から卒業後にかけて東京で中学受験塾講師・家庭教師をしていた私は24歳の時、神戸市の実家が経営する幼児教室・学習塾に参加しました。

ここではJ.P.ギルフォード博士の知能構造論をベースに、玉川大学の伏見猛弥教授がアレンジした知能開発プログラムを行っていました。昭和48年生まれの私は、昭和41年から始まったこのプログラムの草創期の生徒でもありました。

ギルフォード博士の功績は、人間の思考を分解し、要素を抽出して相関関係や順番のモデルを作ったことにあります。伏見教授は「だったら、その一つ一つを鍛えれば、バランスの良い、何でもこなせる頭脳が育てられる」と考えました。

http://expres.umin.jp/mric/mric_OTA.pdf

例えて言うならば、野球の上達を図る時に、やみくもに実戦練習ばかりせず、筋トレをしたり動体視力を鍛えたり、食事の内容に気をつけたり。それらをバランス良く組み合わせて行く、と言う感覚でしょうか。

手前味噌ですが、私自身この教育を授けてもらったおかげで、分野関係なく自分の思考力を応用できる実感があります。高校3年生で急に工学部から法学部に志望変更し、受験科目が大幅に変更になっても違和感なく東大文Ⅰに現役で入れたのも、9歳までに受けていたこの教育のおかげだと感謝しています。

冒頭で述べましたように、最近「右脳教育」と言う言葉が盛んで、「左脳」を働かせてはいけない、とまで言う幼児教室が多数存在します。子どもには「理屈を求めてはいけない。感性を殺してしまうから。」と言う主張です。

しかし、「理屈で考えるトレーニング」をやらなくて良いのでしょうか?そんなはずはありません。

私たちの教室では、いろいろな脳の働きをまんべんなく鍛える。そのためには指導者が、「今、脳のどの部分を鍛えているのかを常に自覚する必要がある」と考えています。

例えば、「創造性」を伸ばそうとする教材を行う時には一切ダメ出しをしません。
突飛な考えであればあるほど講師も一緒になって面白がることが肝要です。

逆に、「答を出す」トレーニングの教材では、良く考えていることをほめつつも、矛盾点を突いて、正解が出るまで何度もやり直しをさせます。

また、「判断力」を鍛える授業は集団で行うことが多いのですが、出た結論が全員違う、などという事もあり得ます。

実は、「ギルフォード理論を用いた知能開発をやっています。」と掲げる幼稚園・保育園・幼児教室が日本中に多数あるのですが、きちんと職員研修を行い、このような適切な言葉がけができる先生のそろっている園・教室はなかなかありません。

「子供の自由な発想を認めてあげましょう」と言うお題目のもと、どんな課題に対しても子供の答に切り込まない授業をしていても、判断力や問題解決力は育たないのです。

逆に、どんな課題でも模範解答にたどり着かせなければいけない、と考える先生に指導されると、創造性はしぼんで行ってしまいます。
幼児教育では、教材もさることながら優秀な指導者、そしてその指導者が取り扱う教材の狙いに精通していることこそが大切なのです。

なお、右脳教育の象徴とも言える「フラッシュカード」については、将来「心の理論」が育たなくなる、と言う研究があります。

そもそもが、人間の記憶のメカニズムを全く無視して直接脳が求めてもいない情報をねじ込む、という方法ですから、弊害が出るのは当然だと私は考えています。

しかし、「2歳の子が国旗の名前を全部言える!」等、パッと見が派手な「効果」を演出することができるため、飛びつく保護者の方が多いのに警鐘を鳴らすのも、私たちに課せられた課題です。0歳や1歳の子に、思考させずに反射的な反応だけをさせる間違った早期教育を行う教室や家庭用教材販売会社が横行しているのは危険です。

「2歳で神童。3歳すぎたらただの人。」をたくさん見てきておりますので、、、。

●「苦手には目をつぶり、得意なところを伸ばせば良い」は本当か?


前述の「右脳教育重視。左脳教育軽視」陣営の言い分は、「楽しくないと子供が嫌がる=子供は理屈がキライ。」です。

しかし、私たちの教室には「知能の転移」と言う大切な考え方があります。

それは、「苦手分野の反復練習をするのではなく、一見関連がなさそうな、しかし脳の中では密接につながっている違うタイプの教材を与える」ことによって、「知らない間に苦手だったものが改善している」と言うものです。

これまた例えて言うならば、足ツボマッサージで胃の調子が良くなる、と言う感じでしょうか?

「得意なところを伸ばしなさい」とはどの教育法でも言われることですが、そこから一歩踏み込んで、「その子が好きそうな題材を使って、苦手分野を知らない間に得意にしてあげる」ことができるかどうかが教師の腕の見せどころです。

その具体的な方法については非常に長くなりますので割愛しますが、興味のある方はぜひご連絡ください。喜んでご説明させていただきます。

●最後に


今回まだ触れていない重要なテーマとして、保育園・幼稚園・ご家庭との連携。そして、9歳以降の過ごし方、があります。

実は私、実家が経営していた認可外保育園の職員を5年、園長を5年務めていたというキャリアもあります。その間交流した他園での取り組みなども踏まえて、保育と知能開発の関係などについても機会があれば発表させていただきたいと思います。

また、9歳以降=小学4~6年生を取り巻く中学受験塾の実情とあるべき姿についても同じく、機会があれば発表させていただきたいと思います。

異分野の投稿を最後までお読みいただきましてありがとうございました。

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(2016年6月28日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)