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「歴史の初稿」をネットユーザーが伝え、ジャーナリストが確認する

2015年06月22日 23時52分 JST | 更新 2016年06月21日 18時12分 JST

ファーストドラフト同盟」というグループが、18日にブログプラットフォーム「メディアム」上で立ち上がった

By gottasharepics (Kathy Dempsey) (CC BY-NC 2.0)

By gottasharepics (Kathy Dempsey) (CC BY-NC 2.0)

ソーシャルメディアを舞台とし、情報の裏取りをした上でニュース発信をしていくジャーナリズム「ソーシャルメディア・ジャーナリズム」分野で、グローバルに活動する7つの団体が、そのノウハウを広く共有するために手を結んだのだという。

フランスの風刺週刊紙襲撃事件、米国での警官による暴行死射殺事件。今年に入って起きたこれらの事件で、犯行の様子の映像を捉えたのは、いずれもたまたま現場にいた一般市民だった。

衝撃の場面をスマートフォンなどで撮影し、その映像が、ソーシャルメディアやマスメディアを通じて人々の目に触れる。

歴史の最初の草稿(first rough draft of history)」とは、ジャーナリズムの役割を示す言葉として、長く知られてきた(かつてのワシントン・ポスト社主家のフィル・グラハムさん[ウォーターゲート事件の時の社主として有名なキャサリン・グラハムさんの夫]の言葉と言われてきたが、その前から言ってた人がいるらしい)。

だが今や「歴史の最初の草稿」を発信するのは、スマートフォンを手にしたネットユーザーだ。ただそこに、事実確認のスキルを身につけたジャーナリストたちのノウハウが生かせるはず――。

「ファーストドラフト同盟」という名前に、その立ち位置がはっきりと表れている。

●元ゲーマーの調査報道

「ファーストドラフト同盟」には、ソーシャルメディア・ジャーナリズム分野の有名人たちこぞって参加している。

その1人、「ベリングキャット」のエリオット・ヒギンズさんは、英国のゲーマー出身という異色の経歴で、ジャーナリストの経験はない。だが、シリア内戦の分析などでピュリツァー賞ジャーナリストをしのぐ存在感を示す、ネットコンテンツの検証の専門家だ。

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ブラウン・モーゼス」の名前で知られていたが、昨年7月、クラウドファンディングの「キックスターター」で5万ポンド(約1000万円)の資金を集め、検証サイト「ベリングキャット」を設立した。

さらに、この分野をリードする「ストーリーフル」も参加している。

「ストーリーフル」は、ヒギンズさんも関わってきたネットコンテンツを検証・配信するソーシャルニュース通信社。

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アイルランドのジャーナリスト、マーク・リトルさんが2010年に立ち上げたプロジェクトだ。

グーグルプラス上で、ネットユーザーにも情報提供を求める〝クラウドソース型〟の検証サイト「オープンニュースルーム」も運営。オープンジャーナリズムの取り組みとして知られる。

2013年にニューズ・コーポレーションが、1800万ユーロ(約25億円)で買収。ニュース配信では傘下の米ウォールストリート・ジャーナルのほか、ニューヨーク・タイムズや英デイリー・メールなどのメディアと提携している。

フェイスブックとも提携し、「FBニュースワイヤー」にもニュースを配信中だ

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●分散ジャーナリズムの旗手

リポーテッドリー」も参加している。

「リポーテッドリー」は、「アラブの春」の動きを、ツイッターのキュレーションで伝え続けた元米公共放送「NPR」のアンディ・カービンさんが昨年12月に設立。自らが編集長を務める。

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ツイッターフェイスブックレディットメディアムなど、ニュースのタイプに応じてソーシャルメディアを横断的に発信する「分散ジャーナリズム」の旗手だ。

メンバーも各国に分散し、ネットでつながる。

イーベイ創業者で会長、ピエール・オミディアさんが出資するメディアベンチャー「ファースト・ルック・メディア」傘下のメディアだ。

エマージェント」は、ネット上の噂のリアルタイム検証サイト。

ネット検証の第一人者、クレイグ・シルバーマンさんが立ち上げ、編集長も務める

誤報検証サイト「リグレット・ザ・エラー」や、「検証ハンドブック」の取り組みで知られるシルバーマンさんが、コロンビア大学トウ・デジタルジャーナリズム・センターとのプロジェクトとして、昨年立ち上げたものだ。

●ツール、倫理、法律、多言語

ヴェリフィケーション・ジャンキー」は、ジョシュ・スターンズさんによるコンテンツ検証ツールの案内サイト。

スターンズさんは、GRドッジ財団のジャーナリズム・サステナビリティー・ディレクターを務め、報道の自由などについて取り組んで来た人物だ。

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アイウィットネス・メディア・ハブ」は、ソーシャルコンテンツをニュースで扱う場合の、倫理的、法的問題点について支援を行うNPO。

ミーダン」は2005年設立のNPOで、アラビア語と英語によるニュース共有に取り組む。

●ユーチューブとの連携

ファーストドラフト同盟」のサイトでは、これらジャーナリストらの専門家が、様々なノウハウや知見を持ち寄って、それをネットユーザーと共有しようとしている。

バックアップをするのは、グーグルの「ニュースラボ」と呼ばれる組織だ。

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ニュースラボの戦略運営責任者、オリビア・マーさんが、ユーチューブのブログで、この他2件のプロジェクトも合わせて公表している

一つは「ユーチューブ・ニュースワイヤー」。ストーリーフルと提携した、「FBニュースワイヤー」のユーチューブ版だ。

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もう一つは、人権侵害を映像で告発するアクティビストらの支援NPO「ウィットネス」との「ウィットネス・メディアラボ」設立だ。

「ウィットネス」は1992年にミュージシャンのピーター・ガブリエルさんが共同設立した人権団体。アドバイザリーボードには、マサチューセッツ工科大学メディアラボ所長の伊藤穣一さんや、バイラルメディア「アップワージー」CEOのイーライ・パリサーさん、俳優のティム・ロビンズさんらが名を連ねる。

新サイトを立ち上げ、まずは米国の警官による暴行事件で、目撃ビデオが果たした役割について検証を行っていく、という。

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●グーグルとジャーナリズム

グーグルのジャーナリズムへの関与は、今に始まったことではない。

2009年から翌年にかけて、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストとともに、関連ニュースを自動表示して読者がニュースの深掘りができるようにする「リビング・ストーリーズ」という実験的な取り組みも行った。

また今月18日に2015年の受賞作の発表があった「データジャーナリズム・アワード」では、2012年の第1回からスポンサーになっている。

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アワード発足当時は、ガーディアンでデータジャーナリズムの第一人者として知られたサイモン・ロジャーズさんはその後、ツイッターを経て、現在はグーグルのデータエディターとして、アワードのディレクターを務めている。

また4月には、欧州メディアと1億5000万ドル(約150億円)にのぼる「デジタルニュース・イニシアチブ」の提携の発表をしたり、と目に見える動きが続く。

この提携では、広告収益改善のためのシステム構築などに取り組むようだ。

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一方で欧州では、グーグルをめぐって、「忘れられる権利」をめぐる軋轢や、独占禁止法を巡る緊張、さらにはグーグルニュースと著作権をめぐるメディアとの衝突など、様々なレベルの動きもあり、それらを勘案した背景の読み解きも出ている

それはそれとして、グーグルとメディアと言えば、気になるのはモバイルにおけるニュース配信だ。

スナップチャットの「ディスカバー」、フェイスブックの「インスタント・アーティクルズ」、アップルの「ニュース」と、この分野での動きが急だ。

モバイルドリブンなニュース配信についての、グーグルの発表を待ちたい。

(2015年6月21日「新聞紙学的」より転載)