「こども宅食」の革新性

文京区内で宅食を希望する世帯に、2か月に一度10キロ分の食料を届けるものだ。

2017年10月より、東京都文京区で経済的に厳しい状況下にある子どもを持つ家庭に食料を届ける「こども宅食」が発表された。

すでに多くのメディアが取り上げているよう、文京区内で宅食を希望する世帯に、2か月に一度10キロ分の食料を届けるものだ。

この「こども宅食」の立ち上げ経緯や仕組みなどは、こちらのガバメントクラウドファンディング ふるさとチョイスに詳しく出ており、後段でも触れるがふるさと納税の仕組みを活用した寄付が可能だ。

現在のところ、あまり触れられていないがいくつかの意味において「こども宅食」は革新的であり、日本におけるさまざまな社会課題の解決においてモデルとなり得ると考える。

コレクティブ・インパクトというアプローチ

ここ数年、社会課題の解決における議論の場でコレクティブ・インパクトというキーワードが出てくるようになった。ある社会課題に対してさまざまセクター、多様なステークスホルダーが集まり、共通のゴールと指標を持って解決にあたるものだ。

「異なるセクターにおける様々な主体 (行政、企業、NPO、財団など)が、 共通のゴールを掲げ、お互いの強み を出し合いながら社会課題の解決を目指すアプローチ」

個々の団体がそれぞれの領域で解決を目指すのではなく、その力を集合し、より大きな社会的インパクトを目指す。これまでの協働との違いとして私が注目するのは「共有された評価システム」である。

コレクティブ・インパクトには5つの条件があり、既存の協働や連携と何もかもが異なるわけではないが、ステークスホルダー間で共有されたテーマに対して、評価システムを握り合う座組みは珍しい。

特にインパクト評価に際しては、その評価手法を事前に合意し、評価に必要なデータ収集を集めていくことは想像以上に難しい。

各団体には独自の効果測定およびデータ収集があり、やもすればそれぞれが必要なデータを持つだけに留まるが、今回の「こども宅食」は社会的インパクト評価の算出も、既にインパクト評価についての実績がある認定NPO法人日本ファンドレイジング協会が担うようだ。

「結果としてこうなればいいね」や「とにかくやれることをやってみよう」ではなく、ビジョニングの段階からコレクティブ・インパクトに近い構想があり、具体的な成果から逆算をして事業設計したのだろう。

ただし、スタート段階としては6つの運営団体と5つのパートナー団体だが、個人や法人が参画し得る方法も既に提示されており、オープンになっているのが特徴だ。

ふるさと納税を使ったファイナンス

素晴らしい活動も、寄付で賄うには限界があり、行政の補助金に頼るのも持続性が担保されづらい。そのような事業の不安定性に対して、ふるさと納税を活用したファイナンス(一般的な寄付なども可能)を実現している。

私がこの仕組みに込められた想いを感じたのは次の一文だ。

「こども宅食」では、一般的なふるさと納税と異なり、返礼品のご用意はありません。しかしそのぶん集まった寄附金は全額を「こども宅食」の立ち上げと運営に活用させていただきます。

昨今、高額な返礼品競争となったふるさと納税制度とは一線を画し、返礼品はなく、納税された金額は「こども宅食」に使われる。

これは文京区外のひとが参画することが可能であると同時に、文京区民でも文京区に納税することに変わりはないが、その使途を「こども宅食」に限定できる。

また、返礼品競争で消耗している自治体にとっても、本来的にはこのような地域の課題解決に制度を活用していくためのベンチマークになるのではないか。

今回は文京区の課題と解決方法として、貧困家庭の子どものいる自宅に食料を送り、そのつながりを生かしてソーシャルワークなどを行っていくが、まさに自らの地域が直面している課題をアジェンダとして設定し、解決方法の提示とともに、その財源に対してふるさと納税を活用することができる。

しかも、まさに本件で「前例」ができたのが大きい。

展開性と拡張性

「こども宅食」は、文京区内で150世帯から初めて1,000世帯を目指すが、このスキームはしっかりとしたリサーチをもとにした理解によって、"子どもたちを支えていく"必要性を有している自治体への展開可能性が高い。

もちろん、ステークスホルダーは変わるだろうが、地域のリソースを発掘し、必要に応じて地域外の企業や団体に協力を仰ぎながら進めていく際、先行事例があるのは大きい。

あとは単純に仕組みだけを地元に入れてもうまく回らないため、外せないコアな部分はどこなのかをしっかり押さえる必要がある。

展開性に加えて、拡張性も非常に大きい。コレクティブ・インパクト(それに限らないが)というフレームや、ふるさと納税を活用したファイナンスをもとに、「こども宅食」という課題を何か他の地域や社会課題に置き換えたとしても運用し得る拡張性も注目すべきである。

足りないワンピースとは何か

この「こども宅食」は、子どもの貧困問題に関して、宅食というスキームを使い、ひとのつながりを作り、家庭や家族をも包摂していく取り組みと、コレクティブ・インパクトというフレーム、ふるさと納税というファイナンスモデルが搭載された、優れた社会課題解決モデルだと考える。

しかし、ひとつだけピースが足りない。

それは、貧困状態にある子どもや家庭のため、ふるさと納税という仕組み(返礼品なし)を準備されたとしても、どれだけのひとが実際に納税や寄付、ボランティアなどを通じて、お腹を空かせ、将来どころか明日の希望も持ちづらい子どもたちのために行動できるのか。

そう、最後のピースは、私たちの子どもたちへの眼差し、「こども宅食」への期待、そして、このような取り組みが全国に広がっていくためのモデル作りのため、一歩踏み込んでいけるかどうかにある。

ふるさと納税を活用した「こども宅食」の応援はこちらから。

注目記事