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研究費を稼ぐために分野をフレキシブルに変えざるを得ない工学部の実情

2015年07月11日 22時32分 JST | 更新 2015年07月11日 22時32分 JST

文部科学省が国立大学を改革するということで、「人文社会科学や教員養成の学部・大学院の規模縮小や統廃合などを要請する」と話題になっています。

一部のトップ大学以外の大学は、実学・産業界ですぐに役に立つことを教えるろ、というのが改革の趣旨のようです。

それに対して、教養を軽視してよいのかとか、すぐに役に立つ知識はすぐに廃れてしまうのではないかとか、議論を巻き起こしています。

どうやら重視されるらしい?理工学部の自分から見ると、こうした議論自体にとても違和感を感じます。

というのも、工学部、理工学部はエンジニアを育成するわけですから、すでに実学重視です。

実学重視は中央大学だけではありません。企業から東大に移った時に、「東大も実学ばかり教えるようになったなあ」と驚いたものでした。

そもそも、自分のような博士課程にも行かず、企業でビジネスに近いところで仕事をしていた人間が大学に移ること自体が、現在の工学部の実学重視を表しています。

大学に移ってからも、企業やMBA留学の経験を重宝されています。産業界で役に立つ技術ノウハウだけでなく、工学デザインという、MBAの工学部版のような、商品企画を教える講義も始めました。

私のような企業から大学に移る教員もたくさんいますし、大学の専任教員でカバーできない分野は、企業の方に講義をして頂くことも普通に行われています。例えば特許事務所の方に、特許の書き方を教えて頂いたり。

先の改革の背景には「大学教員は昔ながらの分野にかじりついて社会から隔絶している」という批判があるのでしょうが、工学部ではどれだけ当てはまるのでしょうか。

少なくとも工学部は分野を変える人も多いと思います。

というのも、工学部の研究にはお金がかかり、研究資金や学生の旅費は教員が稼いで来なければいけません。

研究費の出所は国家プロジェクトや民間企業の共同研究費などですが、こちらは産業の浮き沈みで激しく変化します。

企業から大学への研究費については、その企業の経営が少しでも悪化したら、真っ先に大学への研究費は打ち切られます。

更に、文部科学省や経済産業省、総務省などのファンディングも、その時の社会の状況に応じて、対象とする分野が激しく変わります。

研究費を認可する財務省からは、国民に納得して頂ける説明が必要と常に言われます。

例えば今でしたら、「半導体」「エレクトロニクス」などと言ったらまず研究費は頂けません。研究費が頂ける分野と言えば、ビッグデータ、人工知能、ロボット、エネルギー・・・などでしょうか。

研究費が集まらずに自分が干上がるだけならともかく、学生まで研究できないのは申し訳ない。

自分の意思とは関係なく、時流に乗った研究テーマに移らざるを得ないというのが工学部の教員の実情ではないでしょうか。

私自身も集積回路が本来の専門分野でしたが、今では重点がソフトに移りました。

技術の変化に合わせて、自分の専門を変えているという面もありますが、「食べていくためには専門を変えるのは仕方ない」という事情もあります。

こうして、専門を変えていかざるを得ない工学部にいると、もし社会人文系の大学教員が「社会状況と無関係に同じ分野を続ける」ことができているのならば、ちょっと羨ましいとさえ感じます。

最近は研究費も「集中と選択」で「成長分野」に重点投資になっています。

その結果、どこの省庁でも同じような分野の研究プロジェクトがたくさん立つ、ということになります。

そうすると、大学もいろいろな学部・学科の教員が同じような分野を研究するようになります。

例えば、はやりのロボットの研究は電気電子、機械、精密・・・どこでもやってますね。人工知能もあちこちで研究されています。

まあ、私自身も機械学習を使ってメモリ制御、という論文を先ごろ発表したくらいですから、他人のことを言えませんが。

こうして多くの大学教員が同じような分野を志向すると、流行っていない分野は抜け落ちてしまいます。

研究はそれで良いかもしれませんが、教育としては問題です。基礎的な知識として大事だけれども流行ってない分野の講義をできる教員が居なくなってしまうのです。

例えば今では、どの大学でも重電、エネルギー関係を教えられる教員が減っているのではないでしょうか。

おそらく、高度成長期の日本を支えた重電から、IT、エレクトロニクスへと日本の産業構造も変化してきたので、大学も弱電やIT、情報系を重視したというのがその理由でしょう。

最近はまたエネルギー関係が重要になりましたが、教えられる人が急に増えるわけもなく、やりくりに困っている大学が多いのではないでしょうか。

同様に、いまは半導体が冬の時代、私のように半導体から転向する人が続出しているので、電子回路を専門とする教員は減っています。

あと10年もたつと電子回路を教えられる教員が居なくなってしまうのかもしれません。

日本で半導体は不調になっても、電気自動車やロボットなどの基本は電子回路。それが弱体化して良いのかな・・・とは思いますが、この流れは止まりそうにありません。

私自身もこの夏も研究費の獲得のために走り回っています。もし今年駄目だったら、もう日本で電子回路の研究はできないだろうな、という覚悟をしながら。

回路設計の研究は学生の人気も高く、せっかく若い世代にやりたいと思ってもらえるのに、日本から研究活動がなくなるのは残念なことなのですが。

先週も中国の株式市場の急落がありました。中国の経済バブルが崩れて企業の業績が悪化すると共同研究費が削られるな、国の財政赤字が増えたら国からの研究費が削られるな、と反射的に身構える。

研究のポートフォリオを広げ、どうやって凌ぐかが、大学で研究を行う醍醐味であります。

社会から隔絶した象牙の塔と考える人が多いかもしれませんが、工学部の日常はこんな感じです。

(2015年7月11日「竹内研究室の日記」より転載)