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奈良ロゴ訴訟の真の狙い 「知事トップダウンの随意契約はどこまで許されるのか?」

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私は市民団体の代理人として、9月16日、荒井正吾奈良県知事が委員長を務める第32回国民文化祭奈良県実行委員会が同文化祭のロゴマークのデザイン料として「くまモン」のデザイン会社に支払った委託料540万円は違法な公金支出だとして、奈良県が荒井知事及び同社に対し510万円を請求することを求める住民訴訟を提起した。

「540万円のデザイン料が高いか安いか」が論点ではない


この訴訟、このデザイン料が高いか安いかではなく、首長トップダウンの随意契約は地方自治法上どこまで許されるのかが論点なのだが、本ハフィントンポストの記事も含めメディアの取り上げ方は、読者や視聴者に分りやすい「540万円のデザイン料が高いか安いか」という切り口になってしまった。

本訴訟には決してデザイン料のダンピングを進めようというなどという意図は全くないのだが、ネット上ではデザイン業界の関係者も含めてそのように誤解されている向きもあるので、本稿で訴訟の意図を改めて解説したい。

自治体が契約する場合、法律上は入札が原則


地方自治法は自治体が契約する場合の方法を次のように規定している。

第234条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。
2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。

入札を原則としないと、特定業者との癒着を生むし、契約価格も高止まりして、自治体、ひいては納税者の利益を損なうからだ。そして、同法施行令167条の2第1項では同法234条2項で随意契約が出来る場合として、9つの類型を定めており、今回のケースは、同項2号の

「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」

に該当するとして、随意契約が締結された。

この類型は、例えば自治体がある不動産を購入するとか、製造メーカーが1社しかない製品を購入するとか、客観的にその相手と契約する以外に方法がなく、競争入札をしても0か1しか応札者がないことが見込まれるような場合を念頭に置いている。また、プロポーザル方式や総合評価方式など、提案内容の優劣といった価格以外の要素を専門家などに審査してもらいその最も優れた提案をした者と契約する方式で契約する場合もこの類型が使われる。

しかし、上記以外の場合で自治体がどうしても特定の者と契約したい場合に、この条文を拡大解釈して適用し、それが後に違法かどうかが訴訟で争われることが少なくない。

本件ロゴマークは「くまモン」のデザイナーでないとできない?


本件でのポイントは、年に1度各県持ち回りで行われる、国体の文化祭版とでもいうべき国民文化祭を盛り上げるためのロゴマークのデザイン制作が、「その性質又は目的が競争入札に適しない」から、「くまモン」のデザイナーでなければならないかどうかという点だ。その答えが「否」であることは明らかだろう。

過去の開催県では、プロアマ含めた公募でデザインを募り、その最優秀作品をロゴマークとして採用している。その賞金は2~5万円だった。仮にプロでなければならないという判断があり得るとしても、プロを対象としたデザインコンペをすればよい。その場合、契約額はおそらく数十万円程度になるだろう。東京オリンピックのエンブレムですら、随意契約でなく公募方式で賞金は100万円だった。

奈良県の弁明は突っ込みどころ満載


これに対する奈良県の弁明がまた突っ込みどころ満載と言わざるを得ない。

県は地方自治法施行令に基づく随意契約の取扱基準を独自に作成しており、その基準のうち「県幹部を構成員とする会議で承認されている、又は予算等の主要事業に位置づけられているなど、県としての意思決定がなされており、外部に対してもそのことを明確に説明できるもの」に該当するから本件はOKとしている。

しかし、外部に対して説明可能という非常に曖昧な縛りはあるにせよ、これでは県幹部の会議でOKが出れば、契約の性質や目的という客観的外形的基準は問わないと言っているようにも読める。恣意的な運用を許す基準であり、極めて不適切だ。

また、荒井知事は県議会で「『くまモン』と同様の経済効果が期待できるから問題ない」と答弁した。この答弁も突っ込みどころ満載で、

ロゴマークの制作が地方自治法上、特定のデザイン会社でないと出来ない契約にあたるのかという問いの答えになっていない
「くまモン」のデザイナー以外ではそのような経済効果は期待できないのか
そもそもそのような経済効果が期待できる根拠はどこにあるのか

-といった疑問がある。

さらに、本件は契約日の前日に実行委員会で了承を得、同日中に事務局が随意契約理由書を、デザイン会社が見積書を作成し、翌日契約が締結されている。なぜこんな短期間で決めたのかと県議会で追及されると、県職員はその2か月前から同社に打診していたことを認めた。このような形で最初から1社を指名することを県職員が主導することは通常あり得ず、荒井知事のトップダウンでの決定であると推認される。

ゆるキャラとロゴマークは違う


意図してかどうかはわからないが、荒井知事の答弁もネット上の議論も自治体のゆるキャラと、国民文化祭のロゴマークの違いを無視した議論を展開している。「ふなっしー」や「くまモン」などのご当地ゆるキャラは、その可愛らしさや言動のユニークさで人気を博している。そして、使用期間に限定はない。

しかし、国民文化祭の開催期間は通例1か月半程度であり、事前の告知期間を含めてもロゴマークの使用期間は1年程度であろう。そして、ロゴマークはキャラクターではなく図案であり、着ぐるみを作製してテレビに出ることはできない。

そのロゴマークに「くまモン」と同様の1000億単位の経済波及効果があると言うならば、契約前にその具体的な内容を説得力を持って県民に対し明らかにする必要があるだろう。

民間同士が契約する場合と自治体が契約する場合の法規制は異なる


ネット上の議論の中には、残念ながら、民間同士が契約する場合と自治体が契約する場合の法規制が異なることを知らないで発言されていると思わざるを得ないようなコメントも散見される。

民間が誰といくらで契約するかは全くの自由であり、価格は市場原理で決定される。有名デザイナーにお願いすれば数百万円必要なこともあるだろうし、ネットで発注すれば駆け出しのデザイナーが数万円で受けることもあるだろう。どの業界でも同様のことはあり、いずれかの契約方法が正しく、他方が間違っているというものではない。

しかし、自治体が発注する場合は法律上入札が原則であり、1社に絞って交渉することは厳しい要件の下で認められる例外である。

その結果、自治体の発注業務を受注する側は競争原理にさらされ、低額での受注を余儀なくされることもある。しかし、それによって自治体がお預かりした貴重な税金は節約され、また、低額でも受注者がいるとすれば、一定の利益は見込める、自治体業務の受注が実績となる、代金の支払が滞ることはない、といった何らかのメリットがあるはずであり、その限りではウィンウィンの関係が成立している。逆にもし入札参加者がゼロであれば、自治体は発注額を引き上げ、市場原理に従って適切な値段に落ち着く。

奈良ロゴマーク訴訟の真の狙い


このように自治体の発注業務は入札が原則であるという厳しい規制を根拠として、この訴訟は提起されている。繰り返すが、デザインの価値を軽く見るような意識は全くなく、そのような次元の議論に収れんされていくとすれば、極めて不本意である。首長トップダウンの随意契約は法律上どこまで許されるのか、を問う訴訟は、10月31日午前10時、奈良地方裁判所で始まる。