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森田麻里子 Headshot

産休育休で専門医取得が遅れるのは当然か?

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私は今、麻酔科医として働いている。麻酔科は女性医師の割合が比較的高い。

仕事のオンオフがはっきりしており、短時間でも勤務しやすいという特徴があり、麻酔科学会もそれをアピールしている。「麻酔科医のクオリティ・オブ・ライフ、育児と両立」というわけだ。

私も、少しそれを信じている面があったが、実際には買いかぶりすぎであった。最短での専門医取得に向け、できるだけたくさんの経験を積み、学会発表や専門誌への学術論文執筆も行ってきたが、産休・育休が研修期間として全く認められず、自動的に専門医取得が遅れるという壁が立ちはだかったのだ。

医師は初期臨床研修を修了する時点で早くても26歳になっており、その後の専門研修の期間はまさに出産適齢期だ。現在では、医学的にも30代を過ぎる頃から徐々に妊孕性が低下することがわかっている。子供を望む医師が専門研修中に出産育児をするのは、ごく自然なことだ。

一方で、今後の医師の労働力を考えると、女性医師が責任を持って働き続けるための環境整備は必須である。医療施設に従事する医師の中で、女性の割合は1992年の11.7%から2012年には19.6%まで増加している。30歳未満の医師では35.4%が女性だ。今後数十年にわたって女性医師の割合が増加することは決まっており、現在の男性中心の制度設計では、同じ医師数でも労働力が不足する。

出産育児を考える医師が働き続けるためには、オンオフがはっきりしているということも大事だが、実は早く一人前になれるというのが重要なポイントである。例えば外科であれば、上級医に指導されること無く術者として手術を執刀できるまでには10年はかかるだろう。

しかし麻酔科は、特に合併症のない患者で単純な麻酔をかけるなら1,2年で可能だ。時折上級医の指導を仰ぐことはもちろんあるだろうが、〇〇科の麻酔はとりあえずだいたい一人でできます、と言えれば、お荷物ではなく戦力として仕事をすることができる。

このレベルに達していれば、例え数ヶ月休む期間があっても自信を持って復帰することができるし、家庭の事情で転勤などがあっても、責任を持って仕事をしながら知識技術を洗練させることができる。

国民が十分な医療を受けるためには、女性医師が自立して社会に貢献できる環境が必要であり、そのためには短時間勤務しかできない等様々な制約があっても、正当な努力・能力が認められ、早く一人前として働けるということが重要だ。

私は出産育児との両立を目指し、「なるべく早く一人前になること」を目標として2014年に専門研修を開始した。麻酔の中にも心臓血管外科、脳外科、小児、産科など様々な分野がありそれぞれ特徴が異なっている。最初から様々な病院をローテーションして幅広く経験を積む人もいるが、分野を絞ってでも一人で麻酔ができるレベルに達するまで経験を積んだほうが良いと判断した。

最初に専門研修をした仙台厚生病院では、心臓外科・呼吸器外科・消化器外科の麻酔しかないが、逆にこれらの3分野に関してはかなりの症例数を任せてもらえた。専門医取得に必要な症例数は心臓外科は25例、呼吸器外科は25例だが、私は2年間で心臓外科は166例、呼吸器外科は163例経験した。これは同学年の麻酔科医と比較しても多いはずだ。

そして今年から南相馬市立総合病院に移り、これまで経験して来なかった脳外科、産婦人科、整形外科や小児の麻酔研修を行っている。

しかし、麻酔科学会は、決まった症例数と研究業績をクリアするだけでなく、きっかり4年間の研修プログラムを修了しなければ専門医受験資格を与えないという規制を設けている。4年間は麻酔科関連業務に週3日以上専従していなければならず、産休育休は研修期間とは認められない。

どんなに頑張っても、どんなに頑張らなくても4年間だ。

短い期間でも努力して多くの経験を積み身につけた能力を、なぜ学会は認めてくれないのだろう。麻酔科関連の研究に従事し、統計ソフトとにらめっこしている時間は研修期間として認められるのに、産休育休を数ヶ月取得したら、専門医としての能力が足りないと、どうして言えるのだろうか。

研修期間は、このくらいの年数仕事をしていれば、それなりの能力を身に付けているだろうという代替指標に過ぎない。期間に制限を設けるのではなく、きちんと能力を評価できる試験を作成すべきだ。そもそも、ある医師が今何年目でどういった病院で勤務してきたかという情報は、病院によってはホームページで公開している情報であり、学会が認定する必要はない。

他の診療科だが、大学医局に入局するための面接で、「入局するなら研修中に子供を作るな」と言われるといった話はよく聞く。前時代的なセクシュアル・ハラスメントにも聞こえるが、残念ながら医療界ではさほど驚く話ではない。

内科の新専門医制度では、6ヶ月までの産休育休は研修期間として認められることが決まっていた。そういった意味では、麻酔科は内科よりも女性医師にとって働きづらい科だと言える。

将来に渡って国民が十分な医療を受けるためには、働く期間や場所ではなくて医師の能力を正当に評価し、女性医師であっても責任を持って社会貢献できる制度に変えていかなくてはならない。