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化血研への行政裁量で浮かび上がる厚生労働省の「パンドラの箱」

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化学及血清療法研究所(化血研)の不正製造問題が世間を賑わせている。

当初、「実害はない」と言ってかばっていた厚生労働省も、化血研への血液原料の供給を減らし、最終的には事業譲渡を迫るようだ。世論の強い反発、さらに塩崎恭久厚労大臣の意向を考慮したのだろう。

このような行政裁量を見るに、私は合点がいかない。医療機関への対応と、あまりにも違うからだ。

東日本大震災以降、被災地の医療支援を協力してくれている麻田ヒデミ医師という人がいる。誠実な人柄で、約束したことは必ず守る。

彼女が経営していた麻田総合病院(香川県丸亀市)は、厚労省から2013年に診療報酬の不正請求を指摘され、「保険医療機関」の取り消し処分と総額約16億円の返還請求を受け、14年8月に破産した。麻田総合病院の一部の病棟で看護師の配置が基準を満たしていなかったことが問題視された。病院全体では十分な看護師を雇用しており、明らかな過失だ。その後、同院の経営は富山県の医療法人が引き継ぎ、現在に至る。

麻田総合病院と化血研のいずれが悪質だろうか。化血研は約40年にわたり、悪質な隠蔽工作を続けてきた。厚労省は麻田総合病院に診療報酬返還を命じるなら、化血研にもそうすべきだ。

ところが、厚労省からそのような声は出てこないどころか、そんなつもりすらない。1月14日に始まった「血液製剤やワクチンの製造業界の在り方を検討する作業部会」に、診療報酬を担当する保険局は参加していないからだ。

なぜ、医療機関と製薬企業に対する対応は違うのだろうか。知人の厚労官僚は「病院と違い、製薬企業から厚労省が直接に被害を被っていないことが言い訳になっている」と言う。

化血研の場合、製剤を購入するのは医療機関だ。建前としては、厚労省は医療機関に損害賠償を請求し、医療機関が化血研に賠償を求めることになる。もちろん、厚労大臣がやる気になれば、国立病院機構やナショナルセンターが賠償を請求することは可能だから、単にやる気がないだけだろう。

では、なぜ厚労省は、製薬企業に賠償請求をしないだろう。前出の厚労官僚は「化血研のことは氷山の一角。パンドラの箱を開けたくないから」と説明する。

確かに、ノバルティスファーマの臨床研究不正では、エプスタイン・スイス本社社長が賠償の意思を明かしたのに、厚労省は動かなかった。降圧剤の広告に問題があったことを認めた武田薬品に対しても同様だ。

なぜ、厚労省は動かないのだろう。それは製薬企業に賠償を請求すると、行政訴訟になりかねないからだ。彼らが雇用するやり手の弁護士と法廷で対峙しなければならない。

訴訟に勝って製薬企業から賠償金を得ても、国民や保険者に賠償金を還元する、あるいは債務放棄してもらうために、膨大な事務作業が必要になる。「誰もやりたがらない」(前出の厚労官僚)のが本音だろう。このような状況を改善するには、政治家がリードするしかないと思う。

ちなみに、米国では不正請求防止法に基づき、不正を働いた製薬企業には懲罰的な賠償が請求される。1863年のリンカーン大統領時代に成立した古い法律で、企業の不正を知った人は誰でも、政府の代表として提訴できる(quitam訴訟)。そして賠償金の一部を告発者が受け取る。

米国では製薬企業の不祥事の9割がこの法による内部告発がきっかけだ。日本の製薬企業も訴えられた。2001年には武田薬品の米国子会社であるTAPが保険償還価格をつり上げるために、抗がん剤「リュープリン」の卸価格を偽ったとして8億7500万ドルを支払った。

08年第一三共が買収したインドのジェネリックメーカーであるランバクシーは、虚偽データや生産管理問題の不備を指摘され、5億ドルの和解金を支払うことで決着した。内部告発者は約4800万ドルを受け取ったと報じられている。

このやり方には賛否両論あるだろう。私も、このまま日本に持ち込むべきだとは思わない。ただ、現状では製薬企業の不正は、ノバルティスファーマのように「おとがめなし」か、化血研のように厚労省の裁量による「お取り潰し」だ。皆が納得できる公明正大な仕組みが必要だ。今こそ、公に議論し、透明な制度を作らねばならない。

本稿は"medical ASAHI 3月号"の連載「メディカルインサイト」よりの転載です。

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