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ドゥテルテ台風上陸/中国との復縁、米国との縁切りを受け厳しい外交を迫られる日本

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フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(71)が25日から3日間の予定で日本を公式訪問する。11月に訪日予定のミャンマーのアウンサンスーチー外相やインドのモディ首相といったアジアのメガスターを上回る注目を集めることは確実だ。直前の訪中で「復縁」を演出する一方、米国との「縁切り」を宣言した。独立以来の一貫していた対米重視政策の転換は、日本を含む地域安全保障や米国のアジア戦略に多大な影響を与えることになりそうだ。

日本にとっては厳しい外交の場となる。注目度が高いのは、オバマ大統領ら世界の指導者に罵詈雑言を連発してきたドゥテルテ氏のキャラに加え、直前の訪中との対比のなかで日本政府としての結果が求められるからだ。

そもそも日本に先に来るはずだった。大統領も「東南アジア諸国連合(ASEAN)以外では日本に最初に行く」と話していたが、逆転した。本人曰く、「中国から何度も誘われた。日程もあいていたし」ということだ。日本は出だしでつまずいた形だ。

18日から21日までの訪中では、習近平国家主席ら中国のトップ3と相次いで会談、最大級のもてなしで迎えられ、「経済協力の拡大」などをうたった共同声明に署名した。

フィリピンのロペス貿易産業相によると、取り付けた経済協力は、投資、援助、借款などで計240億ドル(約2兆5千億円)。

中国は、はったりの強い国だ。約束したところで実際に実行するかどうかは、今後のフィリピンの出方にかかっている。アキノ前政権でも当初は大きな経済協力を約束したが、南シナ海問題で関係がこじれると、援助どころか、バナナやパイナップルを事実上禁輸にし、国民に渡航の自粛を求めるなど「経済制裁」を課してきた。

それにしても、である。フィリピン政府の来年度の予算は3兆3500億ペソ。2兆5千億円は国家予算の35%ほどにあたる。ちなみに2014年の日本の対フィリピンODA供与額は500億円ほどだ。日本も今回、それなりの「お土産」を用意するはずだが、報道されているのは農業支援の50億円ぐらい。桁が違う。同行の経済人の数も中国400人に日本100人。

果物の禁輸や渡航制限も中国は今回、解除した。フィリピンは一方で、日本に対してバナナの関税の低減を求めてくるという。フィリピンの数少ない有力輸出産品であり、ドゥテルテ氏の地元ダバオの特産品だ。しかしだからといって日本は「鶴の一声」で関税を下げられるわけではない。援助案件もしかりである。急に増やしたりやめたりできないところを中国と比べられるとつらい。

ロペス氏が明らかにしたプロジェクト・リストには、スービック、クラークを結ぶ鉄道建設への支援が盛り込まれている。アジア最大の米軍基地がかつてあり、中国の南シナ海進出をけん制するため米軍の再駐留が検討されていた場所を結ぶ路線である。アベノミクスの柱のひとつ「インフラ輸出」のなかでも優先順位の高い鉄道建設で中国に先を超されることに加え、「バイバイアメリカ、ようこそ中国」の象徴となるかもしれないのだ。

さらに日本にとって看過できないのは、共同声明などで「沿岸警備上の協力」がうたわれたことだ。両国で委員会を作って演習も検討するという。場所は南シナ海だろう。ドゥテルテ氏は米国との海上共同パトロールを断ったばかりだ。

日本はフィリピンに12隻の巡視船を供与する約束をし、すでに1隻は引き渡した。ドゥテルテ氏の来日中に2隻目の引き渡し式が予定されている。安倍政権が従来の政府開発援助(ODA)の枠組みを超えて戦略的に供与した巡視船である。もちろん南シナ海で中国と対峙するために供与された。フィリピンには海軍も含めてまっとうな艦船はほとんどない。もし中国との共同演習やパトロールが行われるとすれば、日本の巡視船が使われる可能性は高い。日本政府にとっては想像したくない展開だ。

ドゥテルテ氏の在任中、米比関係が好転する見込みはない。アジア回帰のリバランス政策を主導したクリントン氏が次期米大統領になっても抜本的な関係改善はむずかしいだろう。

そうしたなかで安倍晋三首相には、フィリピンが安全保障面でこれ以上中国寄りにならないよう懐柔することが求められる。

幸いドゥテルテ氏はダバオ市長時代、日系人や日比ボランティア協会(調布市)などの支援団体との交流を通じ、対日感情はすこぶる良いとされる。地元ミンダナオ島で、日本政府が比政府とイスラム教徒組織との和平交渉を側面支援してきたことも評価している。

ラオスで先月行われた日比首脳会談の雰囲気も悪くなかったという。安倍首相は、プーチン・ロシア、エルドアン・トルコの両大統領やプラユット・タイ首相ら強権発動型のリーダーとウマが合うようにみえる。とすればドゥテルテ氏ともうまくやれないこともないのではないか。最後は首脳同士のケミストリーが合うかどうか.. 今後6年の日比関係だけではなく、アジアの地域安全保障環境の行方をも占う首脳会談となるかもしれない。