高齢世帯における消費の状況-支出の内訳から考える高齢世帯における生活の変化:研究員の眼

この5年間における高齢世帯の支出の構造には何か変化はあったのだろうか。

はじめに

先日公開した拙稿(*1)では、近年、個人消費においても存在感を高めている高齢世帯に焦点をあて、総務省統計局「家計調査」を対象としたオーダーメイド集計を利用して入手したデータを用いてこの5年間(2012~2016年)における高齢世帯の収入と支出の状況について概観した。

その結果、消費支出は、65~69歳の勤労者世帯および65歳以上の無職世帯がほぼ同水準を維持するなか、70歳以上勤労者世帯では他の層以上に消費抑制的な行動をとっていることを示した。

では、この5年間における高齢世帯の支出の構造には何か変化はあったのだろうか。本稿では、高齢世帯における消費支出の内訳およびその変化について概観した結果を示す(*2)。

消費支出の費目別構成比の推移

図表-1は、高齢勤労者世帯および無職世帯におけるこの5年間の消費支出の費目別の割合について、その推移を示したものである。

それぞれグラフの右側に示した金額のとおり、金額の水準や増減の幅は異なるものの世帯類型や年齢階層を問わず、いずれの世帯においても消費支出総額は減少する傾向にあり、特に70歳以上の勤労者世帯において減少幅が大きくなっている。

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消費支出全体に占める割合についてみると、世帯類型や年齢階層、年次を問わず「食料」が概ね4分の1と最も大きなウェイトを占めており、「交通・通信」または「教養娯楽」が続いている。5年間の変化についてみると、「食料」は世帯類型や年齢階層によらずいずれも2012年から2016年にかけて1.6ポイント増加しているほか、65~69歳の勤労者世帯では「交通・通信」も1.7ポイント増加している。

一方、勤労者世帯では「住居」の割合が低下しており、特に70歳以上ではこの5年間に2.5ポイントの減少と減少幅が大きくなっている。70歳以上の勤労者世帯では「保健医療」でも1.4ポイント減少しており、他の世帯とは異なる動きを示している。

「食料」と「食料」の内訳の推移

消費支出全体に占める割合が最も大きく、経年でみても構成比が増加傾向にある「食料」について支出額の変化をみると、「食料」全体では70歳以上の勤労者世帯で2012年から2016年の5年間に5%以上減少している以外は概ね横ばいを維持している(図表-2)。

「食料」の内訳についてみると、2012年から2016年の5年間で就業形態や年齢階層によらず「肉類」では5%以上増加している反面、「果物」では7~24%と大きく減少している。

このほか65~69歳の無職世帯では「調理食品」「酒類」では10%以上、「乳卵類」「飲料」「油脂・調味料」「外食」でも5%以上増加している。

一方、勤労者世帯では大幅に増加している費目は「肉類」以外にはなく、65~69歳の勤労者世帯では「魚介類」「果物」で10%以上、「調理食品」「外食」で5%以上、支出額を減らしている。

70歳以上の勤労者世帯でも同様に減少している費目が多く、「外食」では30%以上、「果物」では20%以上と減少幅が大きくなっている。

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このように、家計における消費支出全体が減少傾向にあるなか、「食料」の構成比は総じて増加傾向にあるようである。しかし実際の支出額でみれば、一部には大きく支出を減らす層もあるものの、概ね横ばいの状態にあり、必需的な消費であるがゆえに消費抑制が困難であることを示しているようにも見受けられる。

一方、「食料」の内訳についてみると、就業形態や年齢階層によらず支出の増減が確認できる費目や、60~69歳の無職世帯のように5年間で1割以上支出を増やす費目もあるようである。

家族構成や、購入数量の変化による影響もあり、一概にはいえないものの、こうした支出の変化の背景には、高齢層においても食生活の変化があるものと考えられよう。

(*2) 本稿の分析においても、総務省統計局「家計調査」を物価水準を調整した実質ベースのものを用いている。

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(2017年11月29日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 シニアマーケティング・リサーチャー

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