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教育無償化と教育国債~憲法改正、財政再建議論も重なり複雑に:研究員の眼

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政府や自民党内で、教育無償化とその財源となる「教育国債」の議論が開始された。

1月の施政方針演説の際、安倍首相は「誰もが希望すれば高校にも専修学校・大学にも進学できる環境を整えなければならない」と述べていた。

憲法改正で「教育無償化」の実現を訴える日本維新の会を取り込む狙いもあり、安倍首相は無償化を拡充したい意向との観測もでている。

(低成長打破のためには教育が必要、スティグリッツ教授も教育強化を主張)

高齢化・人口減少の中で経済成長を促進させるために、長期的に重要な視点は教育である。森川(2015)では、経済成長に対して量的に大きく寄与するのは人的資本の質の向上だと示されている。

学力の世界トップレベルへの上昇の成長への寄与は0.6%と、法人税率の10%引き下げなど他の項目よりも寄与が大きい(図表1)。

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日本の教育は、①政府支出は高齢者向けが多く、子供や若者向けが少ない、②家庭や地域により受けられる教育の格差が存在している、などの問題点が指摘されている。

経済財政諮問会議(2016年12月7日)では、民間議員である伊藤元重氏が、親の所得別の大学進学率(図表2)や地域別での英語力の違いなどを報告、所得等で恵まれない家庭や地域では教育を受ける機会が制約されているとの指摘だ。

その上で、給付型奨学金制度の早急な創設と、幼児教育の無償化加速などを求めた。

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3月14日には、米コロンビア大のスティグリッツ教授が海外の学者として初めて経済財政諮問会議に呼ばれ、教育の重要性を説いた。

スティグリッツ教授は、「今後経済は教育・健康・介護といったサービス産業を中心に発展していく。所得分配の是正のためには、社会的格差が親から子へ連鎖することのないよう、幼児教育・高等教育を受ける機会を平等化することが重要だ」と述べ、安倍政権下で議論が進む教育無償化を後押しした。

(完全無償化には5兆円の財源確保が必要、教育国債が最有力)

教育無償化は是であったとしても、その範囲とそれに対する財源をどう見つけてくるかが問題になる。無償化の範囲は、就学前の幼児教育から小中学校などの義務教育、大学や大学院を含む高等教育まで幅広い。

例えば幼児教育から高等教育までで各家庭で負担している義務教育以外の教育費の総額は約5兆円程度といわれている。

2017年度に部分的に始まる給付型奨学金制度の予算額は70億円に過ぎず、2018年度からの本格実施後でも予算規模は約220億円である。

2月15日に発足した自民党の特命チームは財源の議論を始めている。候補は①教育国債、②税制改正、③消費税率10%を含めた増税策、④こども保険(所得に応じて公的な保険料を徴収する新制度)などであるが、教育国債が最有力候補のようだ。

ただし、教育国債について麻生太郎財務相は「親の世代が子どもに借金をまわすものだ。極めて慎重にやらないといけない」と否定的である。

(教育国債の是非は財政再建の枠を緩める議論に展開、憲法改正とも絡み複雑化)

こうなるとこの先の議論として、教育国債の発行を可能とするために、財政再建の枠を緩める話、すなわち例えば対前年比(当初予算)で国債発行を抑えている運営方針や、2020年度プライマリーバランス(PB)黒字化目標を維持するのか、柔軟化するのかといった議論が予想される。

スティグリッツ教授は、政府債務を減じるために消費増税は逆効果で、炭素税の導入や日銀が保有する政府債務の無効化、債務の永久債あるいは長期債への組み替えなどを提言した。

日銀のイールドカーブコントロールにより、長期金利はゼロ%に釘付けされている。債務残高の名目GDP比が縮小しやすい経済金融環境が実現されており、財政拡大との流れが出やすい(図表3)。

教育無償化の議論は、長期の経済成長確保という論点のほか、憲法改正や消費税の再引き上げ、2020年度のPB黒字化目標をどうするかなど財政再建議論などが重なり始めておりその行方が注目される。

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<参考文献>
森田正之(2015)「経済成長政策の定量的効果について:既存研究に基づく概観」RIETI Policy Discussion Paper Series 15-P-001

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(2017年3月17日「研究員の眼」より転載)
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経済研究部 チーフエコノミスト
矢嶋 康次