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日銀のETF買い、やめるなら今が好機-買入減額・売却時のシミュレーション:基礎研レター

2017年07月05日 16時04分 JST

<要約>

最近、日銀による金融緩和の「出口」が話題になることが増えた。出口とは金融緩和の縮小や金融政策の正常化を図ることだが、金融緩和策の目的である「2%の物価安定目標の達成」が見通せないなか「現実的でない」とする声が多い。低金利を維持することは必要だと思うが、筆者はETFの買入縮小(テーパリング)に着手するなら「今が好機」と考えている。

◆なぜ「やめるなら今」なのか

日銀はETFを買う目的を「リスクプレミアムを下げるため」としている。簡単にいえば「投資家を楽観的にさせて株価を押し上げ、消費や設備投資を促し、物価上昇率を高める」ということだ。

確かに、日銀の異次元緩和で株価は大きく値上がりした。野田前首相が衆議院解散を宣言する直前に8,600円程度だった日経平均株価は2万円を回復した。ざっと2.3倍だが、株価を大きく押し上げた主な原動力は円安と企業努力であり、ETF買いの効果は限定的だ。

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図1は日経平均ベースの予想PER(株価収益率=株価÷予想利益)を示しており、バブルやリーマンショックなどの極端なケースを除き概ね14倍~16倍で推移することが知られている。PERは投資家の心理状態を表しており、投資家が楽観的ならPERが高く、悲観的なときは低くなる。

図1から、①野田前首相が衆議院解散を宣言した直後や、②日銀が異次元緩和を導入した直後にPERが急上昇しており、投資家が楽観的になった様子がうかがえる。

その後も③日銀が追加の金融緩和(通称、バズーカⅡ)でETF買入枠を年間3兆円に増額すると発表した後や、④ETFの買入枠を年間6兆円に倍増した後もPERが上昇した。

円安による業績改善を先取りして投資家が楽観に傾いた面もあるが、日銀の狙いどおりリスクプレミアムを下げることに成功したといえよう。

ただ、図1をよく見ると、ETF買入枠の拡大を受けて一旦はPERが上昇しても1年足らずで低下しており、リスクプレミアムを下げる効果の持続性が乏しいことも分かる。

無論、リスクプレミアムは日銀のETF買いだけで決まるわけではなく、海外要因などの影響も受けるが、日銀のETF買いでPERを高止まりさせる(≒リスクプレミアムを低く抑え続ける)ことができないのも事実だ。

むしろ、PERが14倍程度で下げ止まった様子からは、日銀によるETF買いは投資家心理の過度な悪化を食い止める"下支え効果"のほうが大きいと考えられる。実際、日銀は午前中の株価が下落した日の午後にETFを買うことが多い。

このことからも、投資家心理を引き上げるというよりも、投資家心理の下支えに寄与しているのではないか。そうであれば、「年間6兆円」などと事前に決める必要はなく、投資家心理が極端に悪化したときだけ(もっと言えば、すぐには改善しそうにないときだけ)買えば十分だ。

その意味で、筆者は日銀がETF買いをやめるなら今は好機だと考えている。直近のPERは14倍程度で、日本株は割安だ。最大の理由は好調な企業業績にある。

日本企業は17年度も過去最高益を更新する見込みで、しかも主要な輸出企業の多くは想定為替レートを1ドル=105~110円と実勢よりも円高(保守的)に置いている。今後、1ドル=100円といった極端な円高に戻らない限り、日経平均の実力水準は2万1,000円程度(PER15倍に相当)とみてよい。

業績の上振れ期待が台頭すれば2万2,000円も射程圏内に入る。海外発のマイナス要因さえ顕在化しなければ、日銀がETFを買わなくても、いずれこの水準に向けて株価は上昇するはずだ。

◆買い入れ減額・ETF売却の試算

日銀の黒田総裁は2017年6月16日の会見で、2%の物価安定目標を達成する前にETFの大量購入を減らす可能性について「理論的にはありうる」と述べた一方で、「金融緩和の一環で実施しているので、2%の目標と離れて減額などを判断することはない」という主旨で述べた。

来年4月以降も黒田総裁が続投するかは全く分からないが、市場への影響にも配慮して少なくとも今の任期中にETFの買い入れを減額する可能性は極めて低いというメッセージだろうか。

黒田総裁の言う「理論的にはありうる」を手玉に取るつもりはないが、仮に日銀がETFの買入減額、売却を進めた場合の試算をしてみよう。試算の前提は図2の通りだ。

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この前提条件にもとづいて、日銀のETF保有残高を試算すると図3のとおりになる。

まず17年3月末時点の保有残高は日銀の決算書に記載されている15.9兆円だ。18年4月以降は買入額を徐々に減らすものの残高はさらに積み上がり、買い入れがゼロになる2020年3月のピーク時には28兆円まで膨らむ。

日本株の最大の保有者であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の約34兆円(16年末時点)と比べても遜色ない規模だ。

2020年4月以降、保有するETFを売却するが、市場への影響に配慮して売却額は毎月2,000億円ずつとしよう。東証1部の最近の月間売買代金(約50兆円)の0.4%程度なので、このくらいなら市場への影響は軽微で済むと思われるが、それゆえ売却完了までに10年以上を要する計算だ。

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日銀のコストも無視できない。ETFは投資信託なので、保有している間は残高に応じたコスト(信託報酬)を負担する。

日銀が買入対象としているETFの信託報酬率は0.08%~0.22%程度で、各ETFの推定保有残高から試算した平均は0.15%だ。従って、直近の残高(約16兆円)を維持した場合に日銀が負担する年間のコストは約244億円となる。

また、図3にもとづくと、2031年の売却完了までに要する累計コストは3,500億円超となる。もちろんこのコストは実質的に国民負担となる(国庫納付金の減少という形で)。

◆上場企業が日銀の関連会社に!?

最後に、日銀がETFを通じて個別企業の株式をどのくらい保有するか試算したところ、上位10社の全てが既に10%を超えている。また、日銀のETF保有残高がピークに達する2020年3月時点では上位4社は20%を超える。

一般に議決権所有比率が20%以上の場合、持分法適用会社として親会社の連結決算に反映させる必要がある。日銀は企業の株式を直接的に所有していないので、日銀の決算書にこれら企業の業績を反映させることは物理的に起こり得ない。しかし、日銀の保有がいかに巨大かイメージを掴めるだろう。

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日銀のETF買い入れには賛否両論あり、「もっと買うべきだ」という意見もある。しかし、残高が増えるほど出口が遠のくうえ、日銀の決算が株価の影響を受けやすくなるのは異常といえよう。

13年5月、米FRBのバーナンキ議長(当時)が金融緩和の縮小を示唆しただけで市場に大きなショックが走った。仮に日銀がETFの買入減額をアナウンスすれば株式市場には少なからず衝撃が走るだろう。

ただ、13年5月と決定的に違うのは日本株が割高でないことだ。企業業績の改善という強力な支えがある今こそ、正常化に向かう好機だ。

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(2017年6月28日「基礎研レター」より転載)

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金融研究部 主任研究員

井出 真吾