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保坂展人 Headshot

保育園に「既存建物を活用できない壁」に穴は開けられるか

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東京都
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11月22日午後、東京都庁で「待機児童解消に向けた緊急対策会議」が開催されました。小池百合子知事の呼びかけによるもので、待機児童対策に取り組む特別区及び多摩の首長31人が一同に会しました。

世田谷区長となって5年半となりますが、東京都が呼びかけて首長が集まる対策会議は、これまでの石原慎太郎・猪瀬直樹・舛添要一都知事の時代には、一度も開催されていません。塩崎恭久厚生労働大臣が4月と9月に、待機児童問題に悩む全国の自治体首長を集めて会議を開いているのと対照的です。小池知事となって、東京都がようやく、「保育待機児童問題」に取り組む首長から実態や課題を聞き始めたことには意義があると思いました。

この会議の後半で、シンボリックなやりとりがありました。保育園の受け皿をつくるためには、土地・建物が必要です。私が世田谷区長となってから5年間で、61カ所の保育園を整備、4700人分の保育園定員を拡大してきたため、今年度になって3歳児以降の待機児童はほぼ解消に向かっています。認可保育園をたくさん開園したことによって、待機児童は「0・1・2歳」に集中している状況です。

そうしたなかで、低年齢児の保育施設として、認可保育園ではなく、都の制度である「認証保育所」を確保していこうと、既存建物を活用して素早く開園することが求められています。ところが、保育園整備のために物件探しをしていて、駅近くの1階にあって、「2方向避難」が可能で、築年数も20年以内の鉄筋コンクリートのビルが見つかっても、一枚の紙がないために断念するケースが続いていると私は訴えました。

竣工後の「検査済証」がないことで、これまで「保育園開設予定物件」はボツになっています。規制緩和というなら、待機児童対策の有効な手段として、この問題を解決するべきだと問題提起をしたのですが、東京都福祉保健局長からは、会議の終了前に噛み合わないコメントがありました。公開の会議で問題提起した以上、重要な論点なので、後半で詳述したいと思います。

2016年11月22日14時30分から会議は始まりました。

小池知事 待機児童対策、自治体首長らが財政支援求める声
(TBSニュース2016年11月22日)

東京都の小池知事は22日午後、区長や市長らを集め待機児童の緊急対策について話し合いました。自治体からは都有地のさらなる活用や財政支援を求める声が相次ぎました。

「区市町村の皆さま方と、しっかり連携を取りながら待機児童対策、働き方改革を進めていきたいと考えている」(小池百合子都知事)

小池知事は22日、都内におよそ8500人いる待機児童の解消に向けた緊急対策について、自治体の首長らと意見交換をしました。先月には都庁内に保育園を開設するなど、東京都は施設の整備を進めてきましたが、自治体からは都有地のさらなる活用を求める声があがりました。

「保育園の用地でいうと都有地ですね。現場のニーズを聞いていただいて、その上でご提示いただけると、さらに一層(保育園の整備が)加速するのかなと思う」(保坂展人世田谷区長)

「できるだけ都有地で活用できる所を掘り出しているところで、台東区では水道局の施設を使って出させていただき、作ったところ」(小池百合子都知事)

会議は、小池知事の挨拶の後、「都の緊急対策と保育サービスの整備状況」、「保育人材の確保に向けた取組」、「保育の規制改革」、「働きながら子育てしやすい環境づくり」の4つのテーマにわけて、挙手で意見を述べる方式で進みました。

冒頭に発言した私は、世田谷区で単独で取り組んできた、認可保育園運営事業者に対する「保育園用地の賃貸料の3分の2補助」にふれて、東京都が緊急対策でむこう5年間支援対象に加えてくれたことに感謝しつつ、区では20年の補助を約束しているので期間延長も考えてほしいと要請しました。

さらに、都有地について一方的にリスト提示するのではなく、自治体の現場の声を聞いて、需要をふまえてから出してほしいと意見をしました。地域によっては保育需要が満たされているところもあり、せっかく都有地を提示してもらっても、すでに保育園整備の必要性がないところもあるからです。

さて、冒頭に記したように「保育の規制改革」のところで、私は具体的な提案をしています。規制改革といっても、子どもの生命や安全に関しては万全を期すべきだと思います。そこを述べた上で、認可保育所や認証保育所をつくるにあたって、「検査済証」のない建物を保育に活用できるように、東京都自らがルール変更すべきだというものです。以下、発言を再現してみます。

「物件の中で、とりわけ認証に適しているような、しっかりしたビルで、『2方向避難』ができて、1階でと、『これは保育園にぴったりだね』というところであっても、いわゆる検査済証がないということで断念せざるを得ない例が非常に多い。これは、検査済証に代わる例えば耐震などチェックしていただいて、検査済証がないんだけれど、子どもの安全にとって大丈夫だよと、いうところでクリアーしていただけるような、都の方でも規制緩和をしていただき、安全は確保したうえで(活用できるよう)要望したい」

続けて、高野之夫豊島区長が「関連して」と手をあげ発言しました。

今、世田谷の保坂区長さんのお話の中で、いわゆる保育所を設置する場合にですね、建物のやはり検査済証がないと、これはもう認可にならないということですけど、豊島区の場合は(昭和)50年ごろから平成12,3年ぐらいまでの建物には検査済証がないことが多い。

こうした物件を活用して認可保育園を作りたいというのが現場の声でございますので、検査済証がなくてもある程度なんとか基準を満たして、認可保育所の物件として認めてもらえるような、そういうようなかたちを東京都の方で働きかけてもらえれば、保育所の設置が非常につくりやすく、対応できるのではないか、是非そのあたりをお考えいただきたい。

会議の最終盤、私と豊島区長の発言に対して、東京都の福祉保健局長が、まったく噛み合わないコメントをしました。

「建築確認セクションは逆に区です。区にある...。その前に色々と民間の方に見ていただいて、建築セクションがOKということになるんだと思う。ただ、民間で審査するのにお金がかかるということで、単純に区の建築確認セクションがOKを出せないということになる。

実はそういう問題が一方にあるんだと思っている。なかなか都がどの基準がいいかラインを引くことは難しいので、実務的にお話をさせていただきたい」

会場には、テレビカメラが林立したくさんの記者も入る完全公開の「小池劇場」だったのですが、この話題に関しては、やや専門的なやりとりで関心を持った記者もいなかったようで、会議後に何ひとつ取材もなければ記事も出ていません。

私のように待機児童が多い自治体の首長は、「空きテナント」を見れば、すぐにでも保育園に出来ないかとチェックしながら歩いています。また、保育課では、区民から「自分の持っている不動産・建物を保育園にできないか」という有り難い相談も日常的に受けています。

しかし、先にふれたように、築20年以内の鉄筋コンクリートの建物で、商店街の角地にある「2方向避難」が可能な、専門家も「構造上、安全性に問題はない」と判断する認証保育所等の候補物件としてのビルの一室であっても、「検査済証」がないことで「断念」して悔しい思いをするという体験を、何度も繰り返しています。この点は、世田谷区議会でも指摘されています。

都福祉保健局長は、「建築確認申請」の話と混同しているのか、「民間に見ていただく」「民間で審査するとお金がかかる」とコメントしていますが、検査済証は建物の竣工検査終了後に発行されるもので、民間機関であってもなくても、年月を遡って事後的に作成するという話はありえません。

あるいは国土交通省の「検査済証のない建築物に係わる指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」(2014年7月)を念頭に置いたのかもしれませんが、「都がどの基準がいいかラインを引くことは難しい」との発言には、私も戸惑いました。とっさに私は、「認証は都の制度でしょう。都ですよ」 と釘をさしました。

なぜなら、東京都は「認可保育園の認可」や「認証保育所の認証」を行なう時に、建物の安全性を担保するため、建築確認と共に「検査済証」の提出を求めており、かつ、他の代替手段を認めていないからです。

認可保育園の場合は東京都「保育所設置認可等事務取扱要網」において、「建物建築時の建築確認申請書、確認済証及び検査済証の写し。ただし検査済証を紛失している場合は検査済証に代えて台帳記載事項証明書を提出すること(既存建築物の場合)、としています。
認証保育所の場合は、「東京都認証保育所事業実施細目」で「検査済証の写し(検査済証を紛失している場合は台帳記載事項証明書)」を提出するように求めています。

認可保育園の許認可権を持ち、認証保育所を運営する東京都に対して、保育園運営事業者は「検査済証」という1枚の紙を求められるのです。確かに紛失した場合は「台帳記載事項証明書」とも書かれています。しかし、調べてみると、「検査済証」が発行されたが、どこかに紛失している場合においてのみ、「台帳記載事項証明書」が有効なのであって、私や豊島区長が指摘しているのは「検査済証」がそもそもない物件については、東京都の要網や細目で記述がない以上は「門前払い」となってしまう問題なのです。

「検査済証」が発行されていなければ「台帳記載事項証明書」もありません。それでも、建築確認がおりていて、一級建築士等の専門家により構造上、安全上の問題がない物件でも、代替措置を講じて保育園整備が進むようにする権限は東京都にあります。この会議のテーマの一つが「規制緩和」である以上は、許認可権も持ち、制度運営をする東京都が「要網」や「細目」に代替措置を書き込めばいいことです。

一度建物が使用されてしまうと、事後的に改めて「検査済証」を取得できないという建築基準法の硬直的な制度設計にも問題はありますが、杓子定規に「検査済証」を絶対化し、これだけ要望の強い保育園整備に「既存建物」のストックを生かす道を閉じたままにしているのは、賢い選択ではないと思います。

せっかくの第一回の「待機児童解消の緊急対策会議」です。問題提起は宙に浮いたままになるのか、さっそく改革に向かうのかに、注目したいと思います。

追記

本稿を掲載するにあたり、改めて確認したところ検査済証がない建物について東京都が例外的に認可したケースがあることがわかりました。ただ、このような取り扱いは、現在の要綱等になんら記載もなく、周知もされていません。このため、引き続き東京都に対ししっかりと対応していただくことを求める趣旨から本稿を掲載したことを申し添えます。