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子育ては期間限定。絵本を子どもと一緒に楽しめる時間は短い - 株式会社絵本ナビ 代表取締役 金柿秀幸

2014年07月23日 19時52分 JST | 更新 2014年09月21日 18時12分 JST

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金柿 秀幸 (かながき ひでゆき)

1968年生まれ。株式会社絵本ナビ代表取締役社長。大手シンクタンクを2001年退職。半年間子育てに専念したのち起業。2002年、「絵本ナビ」サイトをオープンし、事務局長に。「パパ's 絵本プロジェクト」を結成し、全国で絵本おはなし会を実施。現在は絵本ナビの他、まなびナビ、できるナビなど、広く子どもや親子のためのサービスを展開している。

http://www.ehonnavi.net/

720万人の利用者をかかえる、絵本専門のメディア・Eコマースサイト「絵本ナビ」。大手広告代理店電通グループの「電通デジタル・ファンド」から出資を受けたことでも話題になりました。前職を退社して半年子育てに専念してから起業し、絵本ナビを10年以上かけて育ててきたイクメンパパの先駆的存在、金柿秀幸さんにお話を伺いました。

OYAZINE(以下Oと略): 絵本ナビを知らない読者に対して、どのようなサービスなのか教えて頂けますか。

金柿さん(以下金柿と略記):絵本ナビは、絵本を選ぶためのウェブサイトで、絵本の紹介や販売、口コミ情報の掲載を行なっています。年齢や好みによって選べる本は様々で、本選びに悩んでいるお母さんは意外に多いのです。そのような方のための情報が詰まったウェブサイトとして、年間720万人の方にご利用頂いています。市販の絵本が無料で一度だけ全ページ試し読みできるというのが最大の特徴で、現在全ページを試し読みできる作品は1.243、少しだけ試し読みできる作品が5,335作品です(数字は2014年7月現在)。

小さな子を連れて本屋さんに行くのは難しいですが、絵本ナビはお家でお子様と一緒に、またはお子様が寝た後に、ゆっくりと本選びができます。また、それがパソコンだけでなく、スマートフォンやタブレット等様々なデバイスで試し読みができるのはメリットと考えています。

O:具体的なサービス内容を教えて頂けますか?

金柿:物販では、オンラインショッピングと「絵本クラブ」という毎月お子様の年齢に合わせた本を2冊お届けする定期購読サービスを行っています。加えて、送料無料や優先販売等様々な特権がついてくるプレミアムサービス(月額297円)もあります。このプレミアムサービスには、年齢と今大好きな絵本3冊を選ぶとおすすめの作品を案内してくれる「絵本コンシェル」というサービスがついてきます。これは、720万人のユーザ行動データ、25万件のレビューデータ、絵本ナビスタッフのプロのノウハウが詰まったロジックを使って選んでいます。お母さんが選ばないような本にも出会えて、その場で試し読みし、気に入れば購入できるという流れです。

O:絵本ナビでは何人くらい働いていらっしゃるのでしょうか?また、スタッフの皆様はもともと絵本や出版関係者が多いのでしょうか。

金柿:総勢32名です。中には、書店や学校図書館に従事していたものもいますが、実は絵本や出版業界出身は半数以下です。私自身も、IT畑でしたし。

O:もともとシステムエンジニアとしてお仕事されていたと思いますが、なぜ絵本に取り組もうと思ったのですか?

金柿:システムエンジニアとして働いていた頃は、仕事人間・ワーカホリックでした。その頃から、いつかは独立して自分で作ったWEBサービスで世の中にチャレンジしたいたいという考えはありました。娘が生まれるタイミングで会社を辞め、辞めた時は具体的になにをするかは決めておらず、半年の自主育児休業としました。育児休業期間中に、子どもに絵本を読んであげてると、笑って喜んでくれたので、自分で絵本を探しに図書館や本屋さんを回りました。ところが、どの本を選べば喜んでくれるのかわからない。先輩ママに本の選び方を聞くと、ほとんど口コミの情報を頼っているとのことでした。ならば、そのようなウェブサイトをつくろう!と、一人の父親としてのニーズから生まれたアイディアを周りに話したら反応が良かったので、サービスとしてはじめました。

O:その当初、類似サイトはなかったのですか?

金柿:当時も、ママさんが個人的に運営しているホームページなどはありましたが、「プロフェッショナル」が運営する情報がしっかりとした頼れるサイトはありませんでした。

O:絵本ナビを立ち上げた当初の一般的な反応はいかがでしたか?

金柿:今まで女性の世界だったものが、男性視点やプロフェッショナル感が出たことで、親御さんに評価されたと考えています。当時、お父さんが絵本を読むというのは、珍しい存在でしたが、10年後はお父さんの本読み聞かせが一般的になると確信して、「パパ'S 絵本プロジェクト」というパパの読み聞かせを推進するチームを結成し、全国読み聞かせツアーをやったりして、ロールモデルになれるよう活動しました。読み聞かせの育児効果やベキ論で語るのではなく、やっている本人たちが楽しそう、「あんな読み方でいいんだ」というメッセージを発信してきました。

O:お父さんが本を読み聞かすことの良さは何ですか?

金柿:男女の役割分担というはなしではないのですが、やはり母性・父性があり、母性は子どもを守り安全にしっかりと育てる意識が働いているとすると、父性は冒険を促すといった特徴があると思います。一般的にはお母さんが選ばないような、ナンセンスや少し怖い本、またうんち・オナラなど檳榔系...パパならではのチョイスがあることで良いバランスが取れるのではないかなと思います。

O:最初からウェブ販売して、絵本は売れましたか?

金柿:実は、立ち上げ当初、広告モデルを考えていました。しかし、出版社さんはインターネットには広告は出さないし、画像などを出してネット上で本を紹介することもやりづらい時代。あまりに世間知らずな考えでした。次第にユーザが増え、本の販売が現実的になってきた時でさえ、店舗がないと本の仕入れができない等制約が多く、まずはキャラクターグッズの販売から始めました。そして、さらにユーザが増えると、「絵本ナビは、なぜ本を売っていないの?」というユーザからの声も多くなり、アフィリエイトのようなかたちで他ネット書店へのリンクを貼るようにしました。実績が積み重なり、だんだん独自で在庫を持つようになり、今のようなEコマースサイトへと移行しました。最初、押入れに保管していた(笑)在庫も、今となっては日販(日本出版販売株式会社)さんと業務提携し、ウェブサイトから4万作品購入頂けるまでになりました。

O:試し読みできるのはどのような作品ですか?

金柿:すでに多くの読者に認知されている名作もありますが、やはり新作のほうが読みたい、読んでほしいと双方のニーズが強いので、新作が多いです。親としては本を買う前に、怖いシーンが無いかどうか、教育的に問題ないか等、一度内容を確認します。また、絵本は小説のように一度読んで終わるものではなく、気に入れば何度も何度も繰り返し読むものなので、試し読みを可能にしたことで販売促進につながったと考えています。良い作品なのに、書店だと手に届かない場所に置かれると読んでさえもらえないものが、ウェブ上で読めるようになった。もちろん、普通の本屋と一緒で一度読んだからといって必ず購入には至るわけではありませんが、読めなかったから買わないというデメリットがなくなります。ただ、最初は出版社さんや著者さんは本が売れなくなることを心配していましたので、トライアルで試し読みを行ないました。結果、全体で平均して4倍、一番売れた作品はなんと13倍の購買につながりました。さらに、サイトユーザから「ゆっくり本が読めて良い!」「このようなサービス待っていました」等、1000通以上の熱いメッセージを頂きました。客観的な数字とユーザからのニーズをみた出版社さんや著者さんも徐々に賛同してくれるようになりました。

O:立ち上げた時から、絵本ナビが現在のようなカタチになると思っていましたか?

金柿:実は、試し読みができるサイトを作りたいということがスタート地点でしたので、理想に近づいたというのが正しい表現かと思います。電子書籍やネット販売等時代の流れが追い風になったことや、10年以上にわたり絵本を大切に紹介してきた実績、信頼できるシステムを開発したことが現在のサービスへ導いてくれたと考えています。私達は、絵本のデジタル化を推進しているわけではなく、紙をめくる喜びや、触感等実際に読むところは紙で楽しんで頂きたい。本選びをデジタル、読むのは紙、そう考えています。

O:今後の展望を聞かせて下さい。

金柿:絵本ナビは、「幸せな時間を応援する」というのが経営理念ですが、子育てしていると幸せな時間はもちろん絵本を読んでいる時だけではありません。子育て全般を通して、「幸せな時間を応援」できるような、周辺のサービスを考えています。楽しみにしていて下さい。

O:金柿さんは、10年以上本に関わってきましたが、お勧めの本や本の流行りがあれば教えて下さい。

金柿:私が好きなのは、何の役に立つのかわからないようなナンセンスな本です。おかあさんには、返してきなさいと言われそうな本ですが(笑)、「いくらなんでもいくらくん」や「でんせつのきょだいあんまんをはこべ」は最近のお勧めです。学習効果など、絵本に費用対効果を求める親御さんも多いようです。その意味合いも重要ですが、私達は、絵本はコミュニケーションツールだと考えています。絵本のおはなし会でも、大人と違って、子どもは気を使ってくれないので、つまらない時はどこか行ってしまいますが、楽しい時間を過ごせれば帰るときにはハイタッチ! 親子に限らず、大人と子どもが楽しい時間を過ごすために使えるツールとして使ってもらえれば嬉しいです。

O:まだ絵本ナビを使ったことがない人へのメッセージがあれば教えて下さい。

金柿:子育ては期間限定。絵本を子どもと一緒に楽しめる時間は人生全体の中からすると短いです。今私の娘は中学2年生で、今振り返るともっともっと一緒に絵本を読みたかったなと思います。勉強・教育という観点はさておき、親子で楽しい時間を過ごすためにも、是非本を読んでください。その読む本を選ぶ際に絵本ナビがお役に立てればと思います。

O:子どものための絵本選びはどうしても親の趣味が反映されて、偏ってしまうこともありますよね。

金柿:私自身もそうであったように、誰かが紹介してくれるというのは嬉しいですよね。絵本ナビや誰かが紹介してくれると、自分で選んでいたら出会えなかったような本と出会えます。ただ、ひとついえるのは、何の本を読んだかではなく、ママ・パパと本を読んだ楽しい時間、お父さんの声のトーンや楽しそうにしている顔等、五感で感じたことが後々財産になると思います。私の娘にもたくさん本を読み聞かせましたが、内容はほとんど覚えていないと思います。ただ、今は無類の本好きで、本を読むことが実に楽しそうです。本好きになると、人生を豊かに過ごせますよね。子供の頃に絵本を読んでもらった楽しい思い出が、その後の人生につながるのだと思います。

(この記事は、2014年7月にインタビューした内容をもとに構成されています。)

編集/ライター 龍 芳乃