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「残業代ゼロ」より「過労死ゼロ」 長時間労働を許すな!

2015年05月07日 16時33分 JST | 更新 2016年05月06日 18時12分 JST

連合が強く反対してきたホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用除外制度)が、今国会で審議される見通しとなった。2月13日に労働政策審議会が取りまとめた報告(「今後の労働時間法制等の在り方について」)には、「高度プロフェッショナル制度」の創設が盛り込まれた一方、すべての労働者を対象とする「労働時間の量的上限規制」「休息時間(勤務間インターバル)規制」などの長時間労働抑止策の整備は見送られた。

昨年11月、過労死等防止対策推進法が施行され、過労死防止は「国の責務」となった。いま、最優先すべきは「残業代ゼロ」ではなく「過労死ゼロ」に向けた過重労働対策の強化であるはずだ。なぜ、長時間労働が問題なのか。なぜ、時短が進まないのか。その根本に目を向けてみた。

労働政策審議会報告の主な内容
今後の労働時間法制等の在り方について
(1) 中小企業における月60時間超の時間外労働割増賃金率の適用猶予措置の廃止(施行は3年後)
(2) 年次有給休暇(年5日)の使用者による時季指定の義務づけ
(3) フレックスタイム制の清算期間の上限延長(3カ月)
(4) 企画業務型裁量労働制の対象業務に法人顧客に対する課題解決型提案営業業務等2類型を追加
(5) 労働時間規制等を適用除外とする「高度プロフェッショナル制度」の創設。


過労死防止法を活かそう!

成果を求められれば労働時間は長くなる
適用除外制度は過労死防止法の趣旨に反する

「これ以上、誰も過労死で大切な家族を失うことがないように...」。「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子代表は、祈るような思いで過労死防止法制定に奔走してきた。

「過労死の原因は長時間過重労働。成果を求められれば、人は休めなくなる。新たな労働時間規制の適用除外制度が導入されたら、さらに過労死が増えかねない。防止法に基づく対策強化こそ急ぐべきだ」と訴える。

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寺西笑子 てらにし・えみこ  全国過労死を考える家族の会 代表

誰にもどこにも相談できなかった

―「全国過労死を考える家族の会」の結成は?

きっかけは、1988年6月の「全国過労死110番」でした。全国の弁護士や医師、労働組合が過労死の労災補償などに関する電話相談を開設したんです。反響は大きく電話は鳴りっぱなし。「誰にもどこにも相談できなかった」という家族がこんなにいたのかと驚いた弁護団は、「大切な人を過労死で失った家族が思いを語り合ったり、情報交換する場が必要ではないか」と、東京、大阪、名古屋と各地で「過労死を考える家族の会」を立ち上げました。当時の労働省は「過労死」という言葉自体認めておらず、いま以上に労災認定の壁は厚いものでした。「認定基準の見直しを求めて労働省(当時)に要請を行おうと、1991年に各地の会をつなぐ全国組織「全国過労死を考える家族の会」が結成されました。

家族の会は、ある日突然大切な人を亡くした家族にとって本当に大きな支えになっています。私自身も「過労死110番」に電話をし、家族の会に出会わなければ、前に進むことはできなかったでしょう。和食店で働いていた夫は1996年に49歳で過労自死しました。勤続20年、大規模店の店長になり、達成困難な「成果」を求められ、うつ病を発症したのです。亡くなる前1年間の労働時間は4000時間を超えていました。人件費削減のために残業と休日出勤を余儀なくされ、帰るに帰れない状況が続いたんです。

私は、直感的に「これは過労死だ」と思いました。会社の社長や上司も、冷たくなった夫の枕元で土下座して謝っていた。ところが、その後、会社は手のひらを返したように、夫の死に責任はないという態度をとり始めた。同情してくれていた職場の人たちも、おそらく会社から圧力があったんでしょう。「何があったのか教えてほしい」とお願いしても、「この会社で働いている以上、何も言えない」と口をつぐむようになってしまったんです。しかも、当時の過労死認定基準に「過労自死」は含まれていなかった。2人の息子は大学2年と中学2年。私も仕事はしていましたが、突然大黒柱を失い生活の不安は大きい。法律事務所に相談しましたが、「認定は難しい」と言われ1年ほど泣き寝入りの状態でした。でも、夫の自死の原因は「仕事」にある、真実を知りたいと「過労死110番」に電話したんです。そこで紹介された弁護士の先生を訪ねると、やはり「認定基準がないから難しい」と。でも、その後にこう言ってくれたんです。「事情を聞けば寺西さんのケースは労災だと思う。認定基準というのは変わっていくし、変えていかないといけない。自分たちもそのために頑張っている。一緒に頑張りませんか」と。その一言で目の前が開けました。そして、その先生の紹介で「家族の会」の食事会に参加したんですが、いままで誰にも言えなかったことが堰を切ったようにあふれ出てきて、ただただ話を聞いてもらって、「諦めたらあかんよ」と背中を押してもらって、一歩を踏み出すことができたんです。

「過労死ゼロ」をライフワークに

―労災申請は...。

会社を辞めた方が夫の過重労働を証言してくれて、1999年3月に客観的証拠を得て労災申請をしたのですが、その年の9月に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が策定され、過労自死も労災認定の対象になったんです。夫の過労自死は、この新基準に基づいて申請から2年後に労災認定されました。「認定基準は変えていかなくてはいけない」という言葉が現実になったんだと感無量でした。本当にたくさんの方から支援をいただきましたが、先駆的な過労自死をめぐる労災認定の闘いや裁判闘争があったからこそ、夫の事案が認められたのだと思います。一つひとつの労災認定の闘いは、個々の遺族の救済という意味合いが強いのですが、でも、それだけではない。私は、自らの労災申請を通じて、過労死は社会問題として向き合うべき課題だと気づかされました。

しかし会社側は、労災認定されても「店長には仕事の裁量があった。勝手に朝早くから夜遅くまで働いて勝手に死んだ。会社に責任はない」との主張を変えなかった。会社の責任を問う民事裁判を起こしました。法廷で会社側は「住宅ローンや子どもの学費に悩んでいた。帰宅が遅いのは女性関係か、夫婦仲が悪くて家に帰りたくなかったからだ」という主張を繰り返しました。私は、家族の会の仲間の裁判を傍聴してきて、会社側の言い逃れの理由は「女・カネ・家庭不和」が定番だと分かっていましたが、実際にそんなことを言われると心が痛みました。でも、それ以上に許せなかったのは息子たちへの心無い言葉です。証人として出廷した元社長は傍聴席の私たち親子の面前でこう言い放ちました。

「自分もうつ病になり、思い悩んで自殺も考えたことがあるが、息子に励まされ自殺を思いとどまった。寺西さんは、なぜこういう親子関係が築けなかったのか、残念でならない」と。

私はどうしても許せなかった。弁護士の先生を説得して追加訴訟で元社長個人を訴えました。そして2006年に「過失相殺なし」の全面勝訴判決を得ました。会社は社会的信用を失って整理されることになり、控訴審では裁判長の職権和解が提案され、夫と息子たちへの謝罪を条件に受け入れました。ここに至るまで10年かかりました。夫に解決の報告をしていたとき、夫から「自分と同じ轍を息子たちには踏ませるな」と言われたような気がしました。自分自身の闘いを終えて、これからは「過労死をなくすこと」をライフワークにしていこうと決心したんです。

増える若い人たちの過労死

―そして家族の会の代表に...。

一緒に裁判を闘ってくれた弁護士の先生に「次は家族の会をお願い」と言われて、2008年に全国組織の代表に就きました。同年、過労死弁護団、続いて日本労働弁護団が「過労死防止基本法の制定を求める決議」を採択し、家族の会でも、法律をつくろうと手探りで動き出しました。国会議員を訪ねて回り、「ストップ!過労死100万人署名」をスタートさせ、地方議会の意見書採択を働きかけました。署名には連合のみなさんにも多大な協力を頂きました。2013年には「過労死防止基本法制定をめざす超党派議員連盟」が設立され、そして昨年6月、過労死等防止対策推進法が成立しました。

家族の会ができて四半世紀になろうとしていますが、過労死の悲劇はなくなりません。私が夫を亡くしたころは、働き盛りの中高年の過労死が多かったのですが、この10年で増えているのが若い人の過労死です。社会人になったばかりのお子さんを亡くした親御さんにはかける言葉が見つかりません。結婚間もない、乳飲み子を抱えた奥さんの心細さはいかばかりかと心が痛みます。私自身も夫を失ってみて、こんなに喪失感が大きいのかと驚きました。夫はずっと長時間労働でしたから、「お父さんが居んかったって、私一人でやっていける」と思っていたのに、心に大きな穴が空いてしまったんです。実は、私の息子の1人も最近長時間労働が続いていて、この子まで倒れたらと思うと想像するだけで震えがきます。だから、過労死をゼロにするためにできることは何でもやろうと思っているんです。

際限なき長時間労働につながる

―時間ではなく成果で評価する、労働時間規制の適用除外制度が導入されようとしていますが...。

労働時間規制は働く人の命と健康を守るためのもの。ホワイトカラー・エグゼンプションには絶対反対です。成果とは実際にはノルマのようなもので、一つ達成すれば、次の目標はもっと高くなる。私の夫がそうであったように、成果を求められるほど労働時間は際限なく長くなっていくんです。それなのに会社に労働時間管理が課されないことになれば、過労死しても自己責任になってしまう。年収要件を入れるということですが、年収が高ければ長時間労働でも健康が確保されるわけではありません。2013年度の過労自死(精神障害)に係わる労災請求では、専門的・管理的職業従事者が全体の26%(1409件中365件)を占めています。新たな適用除外制度の対象となるであろう人たちの間で、すでに過労死・過労自死が多発しているのです。また、いったん制度が導入されれば、蟻の一穴で対象が拡大されていくことは目に見えています。成果を重視したいと言うのなら、労働時間規制とは別に、成果を適正に評価する賃金制度を入れればいいだけの話です。

過労死の労災認定の最大の壁は、実際の労働時間を証明することなんです。サービス残業、持ち帰り残業が常態化している職場は本当に多い。その実態を放置したまま、適用除外が広がれば、長時間労働がますます助長される。過労死防止法の趣旨から言っても、適用除外制度を認めることはできません。ここは絶対譲れません。

どんな産業、職種、地位でも起こり得る

―労働組合に期待することは?

家族の会の個々のケースで言えば、職場や地域の労働組合が大きな力になってくれたこともあれば、逆に会社側の圧力で協力を得られなかったこともあります。でも、過労死が起きた職場には、他にも過重労働で苦しんでいる人がいるはずです。その実態を隠しても、会社のためにも働く人のためにもならない。私たち家族が、亡くなるまでどういう働き方をしていたのかを知るには大きな壁があります。でも、労働組合なら、自分たちの職場を点検して問題を発見できる。

いま、連合の加盟組合が「"過労死ゼロ"宣言」を出してくれているのは、本当に心強いです。家族の会では、遺族の手記を出版してきましたが、それを読んでいただければ、過労死は、どんな産業、業種、職種でも、どの年代でも、どういう地位にあっても起きていることが分かります。真面目で優秀な人に困難な仕事が集中し、頑張りすぎて倒れてしまう。どうか、周囲にいる上司や同僚、労働組合の役員が気付いてあげる仕組みをつくってほしい。

もう一つは、若い人への労働教育です。これからの日本社会を背負っていく若者が過酷な労働環境に追いやられ、優秀な人材を失うことは日本の未来をなくすこと。中学・高校や大学で労働法を学んで、「この働き方はおかしい」と思ったら、倒れる前に相談できるようにしてほしい。もちろんワークルールを学んでも、職場が無法地帯では使い潰されてしまいます。働く人の立場で、労働環境を守り、職場風土を変えていくことが大切であり、それができるのは労働組合だと思います。

過労死の背景には、深刻な長時間労働、人手不足、短期的な利益を追い求める経営姿勢があります。ナショナルセンター連合には、労働組合のない職場で働く労働者も含めて、すべての労働者を守っていただけるよう心から期待しています。

過労死等防止対策推進法のポイン?