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タンパク質 どれだけ摂ればいい?

2015年12月12日 02時45分 JST

2015年も終わりが近づいてきましたね。今年もいろいろな健康の話題で盛り上がりましたが、年内最後のテーマは、「タンパク質」です。健康志向の人々の間では、低糖質(炭水化物)・低脂肪・高タンパクの食事が高い支持を集めています。では、適切な「高タンパク」とはどれくらいのことを言うのでしょうか? 米国コネチカット大学のナンシー・ロドリゲス教授による「米国臨床栄養学雑誌(The American Journal of Clinical Nutrition:AJCN)」2015年4月号への報告を参考に、タンパク質摂取の仕方について考えましょう!

プロテイン・サミットが議論を喚起


ナンシー・ロドリゲス教授は、2013年10月に米ワシントンD.C. で60人以上の専門家により開催された「プロテイン・サミット(Protein Summit)2.0」に参加し、そこでの、ダイエットや代謝、加齢におけるタンパク質の役割の関する議論をAJCNに発表しました。

Nancy Rodriguez

Introduction to Protein Summit 2.0: Continued exploration of the impact of high-quality protein on optimal health

Am J Clin Nutr June 2015, vol. 101 no. 6, 17S-1319S

doi: 10.3945/ajcn.114.083980

「プロテイン・サミット」なんて耳慣れないけれど、という人も多いかもしれません。でも、今や当たり前のように言われているタンパク質についての見解、例えば、タンパク質を多く摂取することが、質の高い食生活や健康的な体重管理、体脂肪率の改善、筋肉量の維持や増加につながる、といった議論が高まったのも、2007年の初回プロテイン・サミットがきっかけでした。この時は米国や世界中から52人の栄養専門家が集まり、私たちの健康に対するタンパク質の役割に加え、様々な生活スタイルごとに最適なタンパク質の摂取量が検討されました。初回サミットの内容は2008年のAJCNで報告され、7万回もダウンロードされました。

http://ajcn.nutrition.org/content/87/5/1551S.full

なお、上記で挙げた以外にも、タンパク質は体を構成し健康を維持するのに不可欠な栄養素として、様々な役割を担っています。詳しくはロハス・メディカル2015年3月号「努めて取るべしタンパク質」をご参照ください。

http://lohasmedical.jp/e-backnumber/113/#target/page_no=13

「タンパク質過剰」の誤解から基準見直しへ


プロテイン・サミット2.0の主な目的は、米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM )の推奨する、「タンパク質の摂取基準(Dietary Reference Intakes:DRIs)」の見直しにありました。タンパク質の体重1kg当たり一日推奨栄養所要量(RDA)は、0.8gとされてきました。例えば体重60kgの人は、RDAは48gになります。

サミット2.0では、DRIsが公表されてから10年以上も経ち、DRIsに関連する誤解が広まっていることについて懸念が示されました。本来RDAは、統計的に不足のリスクが20%以下とされる量であって、つまりは一般に病気にならないための必要最低限の量です。ところが、毎日のタンパク質の摂取量を示すにあたってRDAを使用したことは、多くの混乱を招きました。多くの人が、実際にはRDAを超えるタンパク質を日々摂取しており、それを「取りすぎている」と誤解してしまったのです。タンパク質に関する適切なRDAその他の基準の定義の見直しのため、さらなる研究が求められました。

以下は関連する研究です。

1.摂取は体重管理につながる?

タンパク質の体重管理に対する役割について、米ミズーリ大学のライディ博士たちが2015年のAJCN誌に報告しています。体重1kg当たり1.2〜1.6gのタンパク質を一食あたり25〜30 g含む高タンパク食により、12週間以下の短期的経過ながら、通常の食事(タンパク質を含む高炭水化物食)と比べて食欲の改善や体重管理、心血管代謝リスク因子の改善が示唆されました。タンパク質を摂取すると満腹感が高まります。ただ、それによってエネルギー摂取量が減るかどうかはまだ分かっていません。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25926512

2.摂取で筋肉が増える?

一日1〜1.2 g/kgのタンパク質摂取が様々な代謝系に有利に働くことを、米イリノイ大学のライマン博士たちが2015年のAJCN誌に報告しています。こちらも短期間の調査ながら、高タンパク食が筋肉合成や筋肉の量および強度、機能の向上に関与することが示されました。一日あたりの総タンパク質摂取量のみならず、毎食あたりの摂取量が、筋肉合成などに良い影響を与えます。一食25~30 gのタンパク質と、必須アミノ酸であるロイシン2.2g以上の摂取で、筋肉のタンパク質合成の速度は最大に達成しました。また、身体活動が筋肉のタンパク質合成を強めることから、研究者たちはタンパク質に関する勧告は、運動と関連づけて行われるべきと提案しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25926513

3.高齢者は多く摂取するべき?

毎回の食事で高品質のタンパク質を十分に摂取し、身体活動や運動を組み合わせた高齢者は、筋肉の損失によるサルコペニアの予防や進行抑制が見られることを、米テキサス大学のパドン・ジョーンズ博士たちが2015年のAJCN誌に報告しています。高齢者の場合、若者に比べてタンパク質やアミノ酸の摂取が少ないと、筋肉がつきません。質の良いタンパク質を一日1.0〜1.5 g/kg、均等に分けて摂取したところ、筋肉のタンパク質合成を刺激し、筋肉量を維持することができました。

http://ajcn.nutrition.org/content/101/6/1339S.full

4.中年男性も高タンパク食が推奨される?

一方、ナンシー・ロドリゲス教授の報告とは別に、気になる研究が報告されています。2014年、中年における高タンパク食の摂取と死亡率の増加を警告する論文が、米国南カリフォルニア大学長寿研究所のバルター・ロンゴ教授たちによって科学誌「Cell Metabolism」に発表されました。

http://www.cell.com/cell-metabolism/abstract/S1550-4131(14)00062-X?_returnURL=http%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS155041311400062X%3Fshowall%3Dtrue

研究者たちは、調査対象となった米国在住の50歳以上の男女6381人を、タンパク質の摂取割合によって、▽低タンパク質群:タンパク質からのカロリー摂取が10%未満、▽中タンパク質群:タンパク質からのカロリー摂取が10~19%、▽高タンパク質群:タンパク質からのカロリー摂取が20%以上、に分けて、18年間追跡調査を行いました。すると、50~65歳の高タンパク質群の全死因の死亡率は、低タンパク質群より74%も高くなりました。また、がんによる死亡リスクが4倍増加しました。中タンパク質群のがんによる死亡リスクは、低タンパク質群の3倍でした。中タンパク質群のタンパク質摂取量を、低タンパク質群の量に変更すると、死亡リスクは21%減少しました。高タンパク質群のタンパク質摂取量を低タンパク質群の量に変更した場合、死亡リスクは28%減りました。

一方、65歳以上の場合は、高タンパク質摂取が、がんおよび全死亡率の減少と関連しました。ちなみに肉や乳製品の動物性タンパク質は、がんおよび全死亡率のリスクを高めましたが、植物性タンパク質では影響がありませんでした。研究者らは、タンパク質の摂取と死亡率との関連について「インスリン様成長因子1(insulin-like growth factor 1、IGF-1)」の影響を示唆しています。

最適摂取量はいまだ決着つかず


最適なタンパク質の摂取量については、まだまだ研究が進行中で論争が続いていますので、残念ながら明確な答えはありません。基準を定めるにしても、どのような単位で示すのが最良なのか(g/日kg体重、一日のエネルギー摂取量における割合など)、というところから検証しなければなりません。また、タンパク質の種類にも注意しなければなりません。例えば動物性タンパク質は、植物性タンパク質に比べて体が利用しやすいという利点がありますが、飽和脂肪酸が多く含まれるので食べ過ぎには注意が必要です。一方、豆類、ナッツなど植物性タンパク質を多く含む食品は、食物繊維やビタミン、ミネラルなどの栄養素も豊富ですし、上記のように動物性タンパク質より低リスクの側面もあります。

また、そもそも身体活動、食事の嗜好やカロリー摂取量など、私たちのライフスタイルは人それぞれで、さらに年齢や性別なども考慮するとなると、単純にすべての人に共通の、理想的なタンパク質の摂取量は決められないようにも思えますよね。(少なくとも、カロリー調整のために、全体のカロリーから逆算してタンパク質の摂取量を決める、というのが本末転倒なのは言うまでもありません!)

近年、低糖質(炭水化物)・低脂肪・高タンパクの食事が注目されているのは、ダイエットや筋肉の合成を促すためだけではありません。全身の機能維持、そして心の健康についても考慮する必要があります。そのためにはタンパク質だけではなく、ビタミンやミネラルはもちろん、炭水化物や脂質などのあらゆる栄養素を適量ずつ、バランスよく含む食事パターンが重要になってきます。

2016年は、タンパク質摂取に関する新たな報告を期待するとともに、ヘルシーな食事パターンの議論が深まることが期待されます。

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。

(2015年12月10日「ロバスト・ヘルス」より転載)