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選挙前に知っておくべき、米国で今起きている恐るべき事実

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DIET
時事通信社
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■選挙戦スタート

11月21日、衆議院は解散し選挙戦がスタートした(事実上した)。二年ぶりの衆院選挙だ。しかしながら、正直なところまったく沸き立つものを感じない。小選挙区制が機能する前提は、拮抗する二大勢力が存在することなのに、野党は総崩れでその一翼の任を果たすことができない。こうなると、中選挙区制で、自民党の派閥が活発に勢力争いしていた頃のほうが余程政策に係わる議論にリアリティがあったとさえいえる。

■すっかり忘れられたネット選挙

そんな中、2013年4月の法改正により、日本でも一定範囲で認められることとなった『インターネット選挙』については、今では火が消えたように議論の俎上に載ることがなくなった。かつては草の根の政策議論を吸い上げてくれることに一定の期待感もあったはずだし、スマホのような高度なモバイル機器の普及はさらに進み、本来インターネットと選挙に関わる本質的な議論はもっと深めていく必要があると思うのだが、もはや誰もそんな問いかけに応じてくれそうにない。

ただ、この『失望感』の背後には、もっと根本的な問題があるように思う。そしてそれは、今世界が直面している最も深刻な問題の一つといっても過言ではない。どういうことだろうか。

■かつての成功例:オバマ大統領の選挙戦

『インターネット選挙』といえば、成功例の代表格は何といっても米国民主党のバラク・オバマ候補を大統領に押し上げた2008年の大統領選挙だろう。インターネットに精通した一流のアドバイザーを参謀につけ、SNSをフル活用し、小口献金の仕組みを構築し、洗練されたビッグデータ分析をスピーディーに次のアクションにつなげていく。その颯爽たる姿には、新しい時代の幕開けを予感させるものがあった。新しい草の根の民主主義、大企業や富裕層の支配に対抗して、貧困層やマイノリティーでも政治参加できる、そんな期待感で全米がおおいに盛り上がっていたことは記憶に新しい。日本でも若手を中心とした政治家や識者は、この先例にならい、日本での『インターネット選挙』の導入を訴え、旧態依然で変化しない日本の政治の改革の起爆剤とすべく画策し、これもおおいに盛り上がっていた。

■凋落するオバマ人気

オバマ大統領の『インターネット選挙』、という意味では、ネットテクノロジーの進化に相まって、洗練の度を上げ、二期目もきわどく勝ち取った。だが、肝心のオバマ大統領の『大統領としての評価』はどうかといえば、残念ながら非常に厳しいといわざるをえない。先頃(11月4日)行われた米国の中間選挙でも与党民主党は大敗し、上院でも過半数を失って、上下両院で少数党に転落することになった。その選挙戦では、オバマ大統領のあまりの不人気ぶりに、民主党議員でさえ大統領に距離をおき、応援演説等を拒否する議員も少なくなかったようだ。

■実績十分に見えるが・・

オバマ大統領は、リーマンショック後、世界恐慌さえ取り沙汰された惨状を、国有化等の策を駆使して乗り切り、その後失業率も改善、景気も回復させている。しかも、2010年3月には、かねてからの公約であった医療保険制度改革法案を成立させて、遂に米国でも国民皆保険制度(オバマケア)を現実のものとした。従来、米国には高額の民間保険しかなく、しかも医療費が異常に高いことは指摘されてきた(年間約150万人の失業者がいて、その理由のトップが医療費)。だが、自己責任意識の強さもあってか米国では国主導型の健康保険制度導入には根強い抵抗があった。ファーストレディー時代のヒラリー・クリントン元国務長官も手をつけようとして失敗し、民主党の大敗につながったという、曰くつきの難題でもある。だからこれは、ある意味、歴史的な金字塔といえるはずの実績である。ところが、オバマケアを社会主義と非難する共和党保守派からだけではなく、民主党員からも、さらにはオバマケアの恩恵を受けたはずの貧困層の人気も凋落の一途なのだという。これは一体どういうことなのか。

■オバマケアの恐るべき現実

このオバマケアの実態については、ジャーナリストの堤未果氏の『沈みゆく大国アメリカ』*1に詳しい。どうやら、このままでは、オバマケアはアメリカの医療を完全に崩壊させる引き金になりかねないのだという。穴だらけで、製薬会社と保険会社と手続きに関わるウォール街を肥え太らせ、医者と患者を今よりずっと悲惨な状況に追い込むようなとんでもない制度になっているようなのだ。日本の国民健康保険など、オバマケアと比べると断然優れた制度に思えて来る。天地の差といっていいかもしれない。

■オバマケアのもたらす惨状

一例を本書からあげると、今まで貧困層のHIV陽性患者は保険には入れなかったが、オバマケアで、とりあえず保険に入ることはできるようになった。ところが、オバマケアはあくまで民間の保険であり、既往歴のある患者の加入を受け入れざるをえなくなった保険会社はHIVだけではなく、リウマチや心臓病、糖尿病など、慢性疾患薬の多くや、がんセンターを保険のネットワークからはずし、新薬の自己負担率を上げて、患者が新薬による治療をあきらめるような状況を設定しているという。C型肝炎の新薬など、一粒1,000ドル(約10万円、1$=100円換算)、ある患者が12週の薬代として保険会社から提示された自己負担額は、84,000ドル(約840万円)だったそうだ。自己破産が多いのは当然だし、こんなとんでもない状況が野放しにされていること自体、大抵の日本人にはまったく想像さえできないだろう。

■大企業だけ得をする

オバマケアの成立のおかげで、従来の民間保険加入金額は倍増以上の高値で設定される一方、無保険でいようとすると、国税庁から罰金を強要される。また、企業はオバマケアの条件を満たす健康保険を従業員に提供するよう義務づけられたが、負担を嫌う企業は、負担義務のある従業員の大半を義務のないパートタイムに降格する。オバマケアで保険加入者は大幅に増える一方、医師の66%は条件の悪いオバマケア保険のネットワークには参加していないため、患者はオバマケアを使える医者を見つけることが難しい。医者の側も、一方で医療訴訟におびえて高額の医療保険への加入を強いられ(2,000万円の収入に対して、1,750万円の保険料を払う医師の例がでてくる)、猛烈に忙しい医療の傍ら、保険会社との費用請求交渉を強いられる。医師がよかれと思う治療も、保険会社から保険適用外を宣告されると高額の医療費の個人負担を患者に強いることがわかっているから、自由に行うことができない。だれが得をしているかというと、高額の献金と大量のロビイストを雇う、保険会社と製薬会社及び、ウォール街ということになる。

■企業献金の上限撤廃

これでは、オバマ大統領の評価が、大いなる失望に転落してしまうのも無理はない。堤未果氏の一連の著作を読むと、保険や医薬品以外にも、農業、食品から教育等の公共サービスに至るまで、特定の大企業が政治に深く介入して、政策を企業有利にゆがめている実態がよくわかる。

しかも、2010年1月には、最高裁が『企業による選挙広告費の制限は言論の自由に反する』という違憲判決を下し、結果、企業献金の上限が事実上撤廃されることになった。実際、今回の中間選挙は史上最高となる推計約36億7千万ドルの政治資金が投入され、アメリカ史上最もお金のかかった中間選挙となった

【米中間選】政治資金、過去最高に 4千億円、広告過熱 - 産経ニュース

■外国企業の介入を可能に

しかも、この判決にともなって、米国籍ではない外国企業でも、PACという民間政治活動委員会を通すことで、匿名で献金ができるようになった。これによって、世界中の富裕層が米国の政策に介入できるようになった。堤氏の『(株)貧困大国アメリカ』*2には、温室ガス排出量を規制する法案の廃案のために、730万ドルのロビイング費用を投じて来たアメリカ石油協会(API)に対して、そのAPIの年会費の最大提供者はサウジアラビア政府が所有する石油会社アラムコ傘下のサウジ精製会社のアメリカ支社長なのだという。

■レスターランド

すでに米国の富の半分はトップ1%が占めており、トップ10%まで広げると8割を超えている。この富をあらん限りつぎこんで、政策をごく少数の富裕層に有利に導く、という構図が出来上がってきている。しかも、そこに海外の富裕層が加担する。

アメリカの「スーパーリッチ」が世界の所得格差を拡大させる 0.1%の最富裕層が世界の富を独占

著名な法学者である、ハーバード大学のローレンス・レッシグ教授はTEDの講演で、この米国の現状を『レスターランド』という比喩で皮肉っている。

ローレンス・レッシグ「皆で共和国本来の国民の力を取り戻そう」 | Talk Transcript | TED.com

この国の民主主義は一体どこに向かうのか。(といより、世界の民主主義はどこへ向かおうとしているのか。)米国のグローバル資本主義を正として受け入れようとしている日本は、本当に大丈夫なのか。さすがに、薄ら寒い風を背後に感じないだろうか。私は基本、資本主義を支持する立場だが、今の米国の姿にはさすがに危惧の念を禁じえない。

■リベラルの理想との大幅な乖離

オバマ大統領は、広く薄く小口献金を集め、貧困層やマイノリティの意見を政治に反映することを公約して、大統領になった。その選挙手法としてのインターネット利用は非常に輝いて見えた。日本でも、多くの人が『インターネット選挙』に、日本の政治改革の可能性を見たはずだった。だが、米国はどうやらそんな思惑とは正反対の方向に向かっているように思える。そして、今日本はあらためて米国追従を政策の柱にしようとしているように見える。これこそ、私が先に指摘した『根本問題』だ。昨今の日本の政治シーンでは、あまりに矮小化された議論に唖然としてしまうことも少なくないが、せめて選挙の時くらいは、このような恐るべき現実を知って、次の自分の行動を考え直してみることも必要なのではないか。

*1:沈みゆく大国アメリカ (集英社新書)
作者: 堤未果
出版社/メーカー: 集英社

*2:(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)
作者: 堤未果
出版社/メーカー: 岩波書店

2014年11月24日「風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る」より転載)

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