音楽が配信中心になった今、なぜ人は大きくて不便なアナログ・レコードに向かうのか

長い旅をしてきたレコードを渋谷で2000円で買い求め、自宅に持って帰り、ターンテーブルにのせて、針を置くと、ジョルジやマリアが50年前に聴いたであろう「音楽」と全く同じ「音楽」が僕の部屋に響きわたるんです。
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今、全世界でアナログ・レコードの売り上げ、生産が伸びているのはご存知でしょうか。

音楽が配信中心になった今、なぜ人はあんな大きくて不便なアナログ・レコードに気持ちが向かうのでしょうか。

例えば僕は中古レコードが好きなのですが、中古レコードにはこんな楽しみがあります。

渋谷のあるレコード屋で、1960年にブラジルでプレスされたボサノヴァのレコードを手に取ると「ジョルジへ 誕生日おめでとう。愛してるわ。たくさんのキスを。マリア」なんて書いてあります。

このレコードをマリアがジョルジにプレゼントしたの、50年以上も前なんです。その二人が当時20歳くらいだったと考えて、今はもう70歳を超えています。

このレコードをジョルジはいつ手放したのでしょう。

もしかしてマリアと別れた5年後の1965年くらいかもしれません。その後、このレコードは世界中の中古レコード屋を周り、色んな人間の家のターンテーブルの上にのり、そして恋人たちが囁きあっている後ろで「BGM」として大活躍してきたのかもしれません。

あるいはジョルジとマリアはその後、結婚して幸せになったのですが、二人とも亡くなってしまい、二人の息子や娘が残されたレコードをいっせいに処分してしまい、それが遠い日本にやってきたのかもしれません。

そんな長い旅をしてきたレコードを渋谷で2000円で買い求め、自宅に持って帰り、ターンテーブルにのせて、針を置くと、ジョルジやマリアが50年前に聴いたであろう「音楽」と全く同じ「音楽」が僕の部屋に響きわたるんです。

触れる「モノ」には、こんな「物語」があるから、僕たちはいつまで経ってもレコード屋さんに行ってしまうのでしょう。

さて、2010年に惜しまれながら閉店した渋谷HMVが先日、渋谷に 新HMV として戻ってきました。

新HMVは中古レコードを中心として扱い、当日は開店前にお店の前に200人以上の列が出来ました。

そして、神戸のデシネも渋谷に8月8日に移転しました。

デシネはレーベルも持っていて、オーナーの丸山さんの独特の審美眼で世界中の素晴らしい音楽が紹介されているのですが、特筆すべきは「韓国インディーズ」もたくさんデシネ・レーベルから発売しています。

デシネはもちろん中古レコードも扱っていますし、丸山さんセレクトの直輸入の洋服も扱っています。是非、行ってみて下さい。

他にも渋谷には素敵なレコード屋がたくさんあります。

このお店は名前が示すように「その他」のジャンルに入れられそうなレコードがたくさんあります。「チルドレン」とか「男性が好きなレコード」とか「効果音」とか「ネコード」とかを見てるだけで楽しめます。

ご存知、老舗中の老舗です。サントラやソフトロック、ボサノヴァやAORといった東京の音楽の空気感の源流はこのお店が作ったと言っても過言ではないと思います。さらに店員は全員が有名な音楽評論関係者です。

筋がね入りです。DJを職業にしている方から、入手困難なレア盤を探している難しいジャズ・コレクターの方なんかも「うーん」とうなる品揃えです。音楽好きなら行けば必ず欲しい一枚は見つかります。

ワールド・ミュージック専門店です。ラテン、ブラジルはもちろん、アフリカやアジアの「こんなCDが世の中に存在するんだ」って感じのものがあります。渋谷で世界一周旅行が出来ます。

とにかく色んなものがたくさんあるので、宝探しのつもりで端から端まで全部チェックすると「おお!」というレコードが見つかります。ランニング中の村上春樹がよくジャズの棚の前でいるそうです。

東京の中古レコード屋の良心です。僕は1週間行かないと「なんかすごく良くて安いのが入荷してたんじゃないか」と不安になっちゃいます。店員の「各ジャンルへの詳しさ」は半端じゃないです。

bar bossa 林伸次

著書「バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?」http://goo.gl/rz791t

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