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日本翻訳大賞の生みの親、西崎憲さんに短歌とご自身の歌集の話をうかがいました

2015年07月15日 16時05分 JST | 更新 2016年07月13日 18時12分 JST
Paul VanDerWerf/Flickr

短歌は好きですか?

最近は穂村弘さんのエッセイが好きで、それから、「短歌に興味を持ち始めました」っていう話、よく聞きます。

西崎憲さんという人物はご存知でしょうか。

先日、話題になった日本翻訳大賞の生みの親であったり、うしろゆびさされ組の曲を作曲したり、音楽レーベルを運営したり、もちろん翻訳や作家活動をされたりしていますが、実はフラワーしげるという名前で短歌も詠んでいます。

そしてこの7月7日、フラワーしげるは『ビットとデシベル』という本を出されました。

短歌のこと、この本のこと、いろんなことを知りたくて、西崎憲さんにインタビューしてみました。

林:西崎さんが短歌をやろうと思ったきっかけと短歌への思いを教えてください。

西崎:塚本邦雄さんという歌人のエッセイをたくさん読んだことと(作品は読まなかった)井辻朱美さんの参加している「かばん」という同人誌の歌会に行ったのが、大きなきっかけです。

「短歌への思い」というのは、責任感みたいなものは感じます。なんか委ねられたような気がします。もちろん相手は無生物なので、こちらの思い過ごしなのだけど。

林:俳句は違いましたか?詩ではなかったのですか?

西崎:俳句も好きだったのですが、最初に行ったのが井辻朱美さん参加の歌会だったからなあ。あれがどこかの句会だったら、いま俳句をやっていたかもしれません。

詩はあまり作ろうと思ったことはありません。歌詞は仕事柄けっこう作るのでそのせいかもしれません。

林:短歌には長い歴史や伝統がありますよね。「日本人として」とか「天皇もやってた」みたいなナショナリズムを感じることはありますか?それとも「日本語話者として日本語と向き合う」という気持ちでしょうか?

西崎:ナショナリズムありません。ジミ・ヘンドリックスが「愛国心を持つなら地球に持て」っていいましたが、世界文学にたいする愛情はあります。短歌も世界文学だと思います。

「『日本語話者として日本語と向き合う』という気持ちでしょうか?」というのもないですね。やっぱり一番は「文学」です。

林:日本語話者として57577に快楽を感じるというようなことはありますか?そもそもどうして57577が気持ちいいのでしょうか?やはり「歌」なのでしょうか?

西崎:わたしの歌はほとんど57577のものはないですが、ほかの方の作品を読むとその韻律が生きているなって思う時はあります。

韻律は舞踏みたいなものと関係あるのかなあ。肉体的にくる感じあります。

もともと、韻律は記憶するためっていう説がありますね。つまりメロディーがあったほうが忘れないわけで、文字がなかった頃には重宝されたということでしょうか。

林:短歌はどういう場所で発表したり、どういう活動や集まりがあったのでしょうか?

西崎:わたし自身は「かばん」に発表したりしていましたが、途中で購読会員になったので、総合誌と呼ばれる短歌専門誌の新人賞に応募したり、さまざまな歌会に出たりしてました。

林:日本の短歌界の地図を教えていただけますか?例えば俵万智、枡野浩一、穂村弘はどういう位置なのでしょうか?穂村弘はオザケンとかいう例えがあるとわかりやすいのですが。

西崎:えーと、この質問は本一冊書けるようなものなのですが、まあ簡単に。

基本的に「結社」と呼ばれる伝統的な組織が大小無数にあって、そこに入っている人が短歌人口の大多数になっていると思います。どれもすごく歴史があります。俵万智さんは「心の花」っていう結社に所属してます。有名なところでは「未来」「短歌人「塔」とかかな。

ほかに最近は大学で短歌会を作るところが多くて、新人賞など学生の方もかなり多いです。それからネットを中心にやっている人、新聞や雑誌などの短歌投稿欄を中心にして歌を作っている人もいます。

いまの短歌の世界を外から見ると、たしかに俵万智、枡野浩一、穂村弘は飛び抜けて有名かもしれませんね。ちょっとほかを引き離しているか。

たとえですか。何にたとえればいいのだろう。ガンダムとかでも分かりますか、わたし分からないんですけど。アイドルも分からないな。

日本のちょっと昔の音楽界で言えば、俵万智さんは誰だろう。一般的な分かりやすさありますね。宮部みゆきさんですかね。あ、全然音楽界じゃない。音楽だったら、売れている人か。松任谷由実とかサザンールスターズでしょうか。枡野浩一さんはポピュラリティーのある作風なのだけど、結社的世界=歌壇から以前は異端的な目で見られていました。東野圭吾とかかなあ。ドリームズ・カム・トゥルー?穂村弘さんはちょっと斬新な感じがするので、小沢健二とか椎名林檎?星野源までつながる男ヴォーカルの系譜に連なるかも。人気作家だと伊坂幸太郎か。

林:今、日本で短歌を作っている人たちはどこまで昔の歌をチェックしているのでしょうか?

西崎:みんなめちゃくちゃ勉強家です。歌会の時など二次会でも延々と短歌の話をしてます。もちろん個人差もあるけど、ちょっと真面目な人は大体、子規、新古今くらいは読んでる気がします。わたしも真面目なので近世和歌たまに読んでます。

林:今、短歌を自分で趣味でやっている人、たくさんいると思うのですが、どういうところで発表するのがいいと思いますか?

西崎:やっぱり総合誌の新人賞は注目されますね。中心がネットに移りつつあるかなとも思います。

林:短歌の本を買う人って、ほぼ全員が短歌を作っている人という印象があります。俵万智はそんなことなかったと思います。それについてどう考えますか?

西崎:そうですね。そういう傾向ありますね。買う人が作る人、読者モデル的な。まあ、全員ではないですけどね。

それについては難しいのだけど、つまりはエンターテインメントになりにくいってことだと思います。たぶん短さのせいですね。俵さんは全体として物語性があって、人格みたいなものが分かりやすかったから、それを鑑賞して楽しむことができたんでしょうね。短歌でエンターテインメント性を具えているものが出てきたらまた同じことが起こると思いますよ。

でも、基本的には文学なんで短歌的にコアなものは売れないでしょう。

林:フラワーしげるという名前にした理由は?西崎憲じゃない理由を教えてください。

西崎:もう忘れてしまったんです。奥さんがつけてくれたらしいです。無名がよかったのだけど。本名じゃない理由はなんでしょうか。トーテミズムだからかな。覆面をかぶったほうが世界のなかの役割がはっきりするというか。

林:今度の本のことをお話してください。

西崎:『ビットとデシベル』ですね。文学のジャンルというか、ジャンルってみんなそうだと思うのだけど、どうしても前提が多くなるんですよ。無言の約束事が。

無言の約束事の大多数を無視したらどうなるんだろうってことは考えた気がします。

でも、世界を写したかったかなあ。フラワーしげるはひとつのカメラで、それで写真を撮るとどうなるかってことだったかもしれません。

あとは「おそろしさ」みたいなことは再現したかったです。世界や存在の恐ろしさ、あなたの恐ろしさ、わたしの恐ろしさ、今日の恐ろしさ、明日の恐ろしさ。

『ビットとデシベル』、すごいです。

文学や「言葉って何だろう?」と一度考えたことがある方、あるいはコピーライターという職業をされている方、是非、読んでみてください。

言葉をいくつか重ねるだけで、こんなに目の前の世界が歪んで見えるなんて本当に驚きです。

おそらく西崎憲さんは、僕たちが知っている言葉を並べることで、僕たちが知らない世界を見せようとしているんだと思います。

※ぼくらはシステムの血の子供誤字だらけの辞令を持って西のグーグルを焼きはらう

※あなたが月とよんでいるものはここでは少年とよばれている

※比喩でなくおれのあそこは小物でしかし普段はあまり差しつかえなく

※じゃあ、成功した友人を憎んで失脚させたいと思ったことのある人は用紙に○をしてください

※こんな高いところから見てたんだ体を交換したらまずきみが言いそうなこと