BLOG

「イスラム教への偏見をなくすため」 モスクから発信する日本人教徒

2014年08月15日 16時31分 JST | 更新 2014年10月13日 18時12分 JST

2014-08-11-02.JPG

取材・執筆・撮影:伊藤 亜衣

 東京都渋谷区の代々木上原駅近くに、日本国内最大のモスク「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」がある。日本に住む様々な国のイスラム教徒が訪れ、集団礼拝のある金曜日には500人ほどが集まる。ここで広報を担当している下山茂さん(65)は数少ない日本人ムスリムだ。27歳で入信し、以来、イスラム教への正しい理解を求めて活動を続けている。

 「イスラム教と関わることになるとは思ってもいなかった」と下山さんは話す。きっかけは、早稲田大学時代に探検部でアフリカを訪れたことだった。ナイル川をゴムボートで下ったとき、スーダン西部の村に2カ月間住みついた。言葉は通じなかったが、警戒心なく受け入れてくれた村人の優しさに心打たれた。

 帰国後、その村がイスラム教徒の村だったと知った。「抑圧された人間と旅人の願いを神は最優先にきいてくれる」というイスラムの言葉がある。「イスラム教徒の旅人への親切心が僕たちを助けてくれたのかな」と思い返した。

 卒業後、友人から紹介されたイラク人男性に「日本でイスラムを理解してもらうための運動がしたいから手伝ってくれ」と言われ、片腕として働くようになった。「おおらかで寛容で情熱的なイスラム教徒」である彼の魅力にひかれた。入信の決め手は、「中東へ留学しないか」と誘われたことだった。留学にはイスラム教徒になる必要があった。「アフリカから帰ってきて、ずっと考えていた心のどこかにすぽんとボールが入ったようだった」。1976年、東京のモスクで入信した。

 結局、留学は中止になったが、イスラム教徒になったこの年に2か月間、フィリピンのミンダナオ島に行った。島では当時、政府軍とイスラム系住民との間で武力衝突が起きていた。ジャングルの中を移動し、政府軍に奇襲攻撃をかけるゲリラに同行した。「メディアの報道では、彼らは犯罪者扱い。しかし彼らは土地を奪われ、文化や宗教も島の南へと追いやられていた」と話す。「イスラム教徒として、日本に何が真実か訴えたかった」。イスラム教徒しか入れない地域の肉声を伝えるため、雑誌に寄稿した。

 センター初の日本人スタッフとして、広報を担当するようになったのは2010年から。「日本人はヨーロッパほどイスラム教徒に対する露骨な差別はない。だけど口には出さないけれど、偏見と差別意識を持っている」という。「例えば、日本人女性が結婚してイスラム教徒になりますという場合、周囲の反応は、キリスト教徒になるのと天と地ほどの差があるんです」

 広報活動では、関連図書の出版だけでなく、最近は積極的に講演を引き受けるようになった。「物珍しさでも観光でもなんでもいいから来てもらうことが第一歩。そしてそういう宗教だったのかと思って帰ってもらうことが第二歩」。そう言って、下山さんは時間をかけてモスクを案内する。

(2014年8月12日「Spork!」より転載)