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「朴槿恵の韓流」と韓国映画

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先月、パク・チャヌク、キム・ギドク、ソン・ガンホなど、日本でもよく知られている映画人を含む芸術・文化人9,473人の「ブラックリスト」が、政府機関によって作成されていたことが明かされ、韓国社会に衝撃を与えた。2014年の「韓国フェリー転覆事故」の真相究明を求める署名運動に参加したこと、大統領選で野党の候補を支持していたことなどがその理由で、このリストは制作支援の制限、検閲などの目的で用いられてきたという。

朴槿恵(パク・クネ)政権と韓国映画界の「悪縁」は深い。「セウォル号」問題を扱ったドキュメンタリー映画「ダイビング・ベル」の上映をめぐる葛藤が、釜山国際映画祭に対する弾圧にまで拡大し、日本の是枝裕和監督をはじめ、世界中の映画人の反発を招いたのはまだ進行中だし、「事前審議制」という、すでに1996年に憲法裁判所の判断によって廃止となった古い検閲制度の復活を試みる動きに、映画界は激しく闘ってきた。

それだけではない。朴大統領は、その一方で、いわば「クッポン(国家+ヒロポンの造語)」と揶揄される愛国主義映画に様々な形で力を注ぎ、映画生態系そのものを乱してきた。

当然疑問の声が後を絶たなかった。「韓流」に特別な関心と意欲をもっていると知られている朴大統領が、自国の文化に対してなぜこのような自虐的な政策を行うのか、理解する人は少なかった。朴大統領の文化政策は、自ら掲げた「文化隆盛」というキャッチフレーズとも矛盾していたし、文化産業からみても、文化外交からみても、国家のブランド・イメージを大きく後退させる結果になるのがあまりにも明らかだったからだ。

その疑問を解いてくれたのが、昨今の「チェ・スンシル氏事件」である。「新韓流の創出」を掲げ、「サムスン」「現代」などの大企業から集めた50億円の資金を元に設立された「ミル文化財団」が、実際はチェ・スンシルという朴大統領の支援者によって支配されていたということ、さらにはそのチェ氏が大統領演説のような機密文書を事前に回覧、修正するなど、事実上国政運営に深く関与していたことが明らかになったのである。

「韓流」政策の主体でもある文化体育観光部の人選はもちろん、韓流関連事業にチェ氏が関与していたことが、次々と報道された。朴大統領の理解し難い「韓流」政策は、チェ氏による「代理統治」の産物だったのだ。

約40年間、韓国特有のシャーマニズムが絡んだ形で朴大統領を支援してきたとされるチェ氏が、どこまで国政に影響力を及ぼしていたのかは、今後の捜査や裁判を経て明らかになるだろう。しかし、チェ氏が演説文作成に関与していたことを朴大統領自ら認めているし、すでにマスメディアを通じて報道されている内容だけでも、チェ氏が韓国社会にもたらした衝撃は大きすぎる。

一桁まで暴落した支持率を言及しなくても、多くの韓国人が、1997年のアジア通貨危機よりも大きな怒りと屈辱を感じていると口をそろえている今、朴大統領の政治生命はすでに終わったといっても過言ではない。同時に、「文化隆盛」を掲げた「朴槿恵の韓流」も、韓国の文化産業や国家ブランドに深い傷を残して、その幕を閉じた。

韓国映画界が負った傷も決して浅くない。しかし、これで韓国映画の足元が崩れることはないだろう。朴大統領の父、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の開発独裁による長い抑圧が、韓国の映画人たちに豊かな想像力と感受性、抵抗の技術を与えたように、朴大統領の「代理統治」が残したこの奇妙な物語は、今後も長く、さまざまな形で再生産されながら、韓国映画を「隆盛」させるにちがいないからだ。