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日本人の知らないシリコンバレー:プロスポーツ選手がエンジェル投資家に「なれる」理由

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今週は、久々に「日本人が知らないシリコンバレー」シリーズです。

このシリーズでは、「政府のCTO」「リアルロボットレストラン」「ネット系社外取締役」「フィランソロフィー」「CIAが運営するVC」など、日本ではあまり知られていないシリコンバレーの「常識」や「トレンド」などを紹介しています。

以前このシリーズの「日本人の知らないシリコンバレー:セレブエンジェル投資家。俳優、ミュージシャン、MLB選手もスタートアップに投資」というポストで、上の写真の元メジャーリーガーのDerek Jeter、ミュージシャンのJayZ、俳優のAshton Kutcherなどが、エンジェル投資家として、アクティブにテックスタートアップに投資をしているという話を紹介しました。

日本においても、成功した起業家を中心に「エンジェル投資家」は最近増加傾向にあります。

一方で、「プロ野球やJリーグなどで活躍した選手がテクノロジースタートアップにエンジェル投資をしている」という話は聞いたことがありません。

スタートアップに投資をできるだけの資産は持っていると思いますが、なぜなのでしょうか。

日米で大きく異なる「学生スポーツ」のルール


もちろん様々な背景や理由があるのだと考えられますが、明らかにその一つの「理由」と言えそうな、日米の「学生スポーツのルールの違い」について、今回は紹介したいと思います。

個人的な話ですが、私は高校時代、3年間ラグビーに打ち込んでいました。

大学に入ったあとも、高校時代の監督から勧められたこともあり、またラグビー部に入ることを考えましたが、結局私は入部しませんでした。

というのも、私が所属した理工学部は、実験や実習も非常に多く、体育会の部活に入るとそれらはほとんど欠席せざるを得ず、ほぼ確実に「留年する」という話を聞いたからです。

つまり日本の大学において、「学業」と「スポーツ」というのは両立するものではなく、二者択一な存在というものでした。もちろん大学やスポーツの種類によっても違いはあると思いますが、これはほぼ日本の大学スポーツにおいて、一般的な話になっていると思います。

高校でも基本的に同じです。スポーツを強化している私立高校の運動部は、「スポーツだけしていればよい」、「授業は基本的に出なくてもよい」というのが一般的なのではないでしょうか。

ところが、私も最近知ったのですが、これはアメリカでは全く通用しない常識なのです。

成績が悪いと試合に出られないアメリカの大学


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アメリカのほとんどの大学の部活が所属する団体 NCAA (National Collegiate Athletic Association)には、勉強や成績、練習時間などに、非常に厳密なルールが存在します。

NCAAのホームページを見ると、Eligibility Centerという各リーグでプレイするための細かいルールが記載されたページがあります。

例えば、Division1という一番上のリーグでプレイをするためには、以下の授業の履修と成績が「必須」となるようです。
  • 16のコア授業の修了(英語、数学、科学、社会学、外国語など)
  • GPA 2.0以上
  • SAT/ACTのスコアが水準に達していること
最低限の授業にでるというのは日本の大学でもあると思いますが、「成績」に関してもしっかりとした基準があるので、誤魔化せそうにありません。日本の体育会スポーツのように、「スポーツだけしていればよい」ということではなく、すべての選手がまずが「学生」としてしっかりと授業をとり、成績もとるということが求められるようです。

こうした前提があるため、平日の朝から晩までひたすら練習だけをするということも許されず、シーズン中でも「週に20時間」程度しかチームでの活動が許されないということです。日本の大学では、この倍どころではない長時間練習に取り組んでいるのではないでしょうか。

各大学ではこの基準をクリアし、優秀な選手が不足なく万全の状態で試合に臨めるよう、それぞれの競技のコーチとは別に、選手に勉強を教える「チューター」を置き、学習面のサポートにも力を入れている事例もあるようです。

選手の学業不振には「罰則」も


そしてさらに、これらは努力目標ではなく、選手である学生の成績には「罰則規定」もあるようです。

2012年に、大学バスケットボールの名門コネチカット大学のバスケ部が、「部員の学業不振」という理由により、次のシーズンの全米トーナメントの出場権を失うという事態があったそうです。

今ちょうど、アメリカはNBAのプレイオフでバスケットボールが盛り上がっていますが、大学バスケットボールはテレビの視聴率で「NBAを上回るほど人気」のスポーツです。

その強豪チームが、「選手の勉強の成績が基準に達していない」という理由で、大事な大会に出られないというほど厳しい運用がなされているようです。日本の大学スポーツの感覚では信じられないのではないでしょうか。

それほどに、NCAA、米国の大学スポーツは、学生の文武両道、スポーツしかできない学生を作らないという方向で徹底しているということだと思います。

「スポーツ x テクノロジー」時代のエンジェル像


もちろん高校を出てすぐにドラフトにかかるメジャーリーグの選手もたくさんいますし(Derek Jeterも高卒でヤンキースに入っています)、すべての選手が文武両道で高等教育を受けてきているわけではありません。

ただ、こうした「スポーツと学業を分けない土壌」、また取り組むスポーツ自体も一つでなくシーズンオフには別のスポーツをやる人も多いという「柔軟性」(NBA(バスケットボール)のスタープレイヤー マイケルジョーダンが、引退後にMLB(野球)の選手になったのはご記憶にあると思います)は、単に能力という問題ではなく、アメリカにおいてスポーツ選手がエンジェル投資に向かう一つの要因ではないかと思います。

今、スポーツの分野はこれまでにないくらい、テクノロジーによって進化しつつあります。

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今シーズン奇跡の優勝を果たしたサッカープレミアリーグ レスターの岡崎選手が、練習中にブラジャーをつけていることが話題となりましたが、このCatapult社のトラッキングシステムのように、選手のパフォーマンスやコンディションをセンサーを活用して高精度に把握することで、チームの成績が飛躍的に向上するという事例もでてきています。

Netflixがデータによりメディア業界をDisruptしたように、データやテクノロジーで「スポーツをDisruptする」事例は今後ますます出てくると思います。

今回、米国と日本の学生スポーツのルールの違いについて書きましたが、日本でもこうした文武両道路線にキャッチアップする動きは出てきているようです。

早稲田大学が、2014年から今回ご紹介したNCAAと似たような文武両道を推進する教育プログラム、「アスリートプログラム」というのをスタートしています。

罰則規定まではなさそうですが、全部員の学業情報(登録科目・単位取得状況・GPAなど)を把握し、部員が学業成績不良者となることを未然に防ぎ、4年間で大学を卒業できるようサポートするというプログラムです。

大学を出て、プロになり、そしてエンジェル投資家になるまでは非常に長い道のりなので、こうした新しい取り組みも、数年で結果がでるるものではありません。

しかしながら、急成長する「スポーツ x テクノロジー」「エンタメ x テクノロジー」などの分野で、その分野の一線で活躍した選手やアーティストが、その知見やネットワークを活かし、テクノロジースタートアップコミュニティにどんどん入ってくる時代が、日本にも来ればいいなと思います。