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開催報告:日本のクマプロジェクト最終報告セミナー

2016年08月04日 15時39分 JST | 更新 2017年08月03日 18時12分 JST

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ツキノワグマ個体群の絶滅が心配される四国と、クマの生息数・生息域ともに回復傾向にあり、地域住民の方とのトラブルが問題となっている島根県。この2つのフィールドで、実施してきたWWFジャパンと現地パートナーによる「ツキノワグマのフィールド・プロジェクト」が、2016年6月末をもって終了しました。人と野生動物の共存をめざす取り組みの一つとして、多くの方々の参加と協力のもとで行われてきた、このプロジェクトの終了にあたり、東京・日比谷で2016年6月19日、最終報告セミナーを開催いたしました。

ツキノワグマに見る日本の自然保護の今

本州以南の山林に広く生息するツキノワグマ。

九州では絶滅し、四国でも数十頭が生き残るのみといわれる一方で、本州各地ではその出没が増加。人との遭遇事故も多発しています。

地域によって、その状況が大きく異なり、一概に語ることの難しいツキノワグマは、日本の自然保護の現状と難しさを示す一つの事例といえるかもしれません。

WWFジャパンは、この問題への取り組みの一環として、「ツキノワグマのフィールド・プロジェクト」を、2012年7月から4年計画で展開してきました。

フィールドとなったのは、四国最後のツキノワグマ個体群が生き残る徳島、高知の県境に位置する剣山系。

そして、西中国山地が連なる島根県の匹見町および田橋町・横山町の集落です。

四国のツキノワグマ個体群は、生息数がのこり数十頭とされ、絶滅寸前の危機にある一方、西中国地域ではクマの個体数が増加し、生息域も拡大。人里への出没も多発し、地域住民との間でのトラブルも生じています。

この対照的な2つのフィールドで、4年間、どのような活動が取り組まれてきたのか。

活動とその成果を総括し、ご支援をくださってきたサポーターの皆さまにその内容をご報告するセミナーを、2016年6月19日東京・日比谷の日比谷図書文化館大ホールで実施しました。

このセミナーを共催し、実際にご報告をいただいたのは、多年にわたりプロジェクトの現地パートナーとして共に活動を続けてきた、認定NPO法人四国自然史科学研究センターおよび島根県の関係者の皆さまです。

当日の報告では、それぞれの現場の様子や、そこでの取り組みのさまざまな苦労、そして活動の成果とこれからの課題についてお話しがあり、ご来場くださった80名以上の方々が熱心に耳を傾けられました。

セミナー報告

WWFジャパン自然保護室 那須嘉明

報告ではまず、WWFジャパンの優先種担当として、このプロジェクトに携わってきた那須嘉明より、プロジェクトの概要を説明。

さらに、全国的なツキノワグマの分布状況と、ここ10年間に見られたその変化、そして、四国と島根の現状について概要をお話ししました。

また、那須は、専門家らによる有志のグループ「日本クマネットワーク」が積極的なツキノワグマの調査活動に取り組む一方、政府による全国的な調査は過去に2回しか行われてこなかった点を指摘。

その上で、クマをめぐる状況は日本国内の各地域によって大きく異なっており、絶滅寸前の状態にある四国と、近年クマが増加している島根などの西中国地域のような、対照的な実例があることをお話ししました。

▶講演資料はこちら(PDF形式)

http://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20160722kuma01.pdf

四国フィールド・プロジェクトの報告

認定NPO法人四国自然史科学研究センター研究員 山田孝樹

続いて、その現場からの詳しいご報告を四国自然史科学研究センターの山田孝樹さんよりいただきました。

四国自然史科学研究センターは、2005年から共に活動に取り組んできた、WWFジャパンにとっては信頼の厚い、長年のパートナーです。

両者が共に保護調査に取り組んできた四国のツキノワグマは、現在その数、わずかに数十頭とされ、国内で最も絶滅が心配されています。

山田さんは、まず現在の危機的な状況と共に、過去にどのような経緯でクマが減少していったと考えられるか、お話ししてくれました。

四国は古くから林業が盛んで、特に戦後は木材需要の高まりから、自然林を伐採してスギやヒノキの植林(拡大造林)が積極的に行われました。同時に林業の害獣としてクマの捕獲が奨励されたのです。

捕獲数は1970年代まで増加し、80年代に入ると激減しました。その結果、1986年には高知県で狩猟禁止、続いて徳島県、四国全域で同様の措置がとられました。

1986年以降クマの捕獲はなく、林業が衰退した昨今、拡大造林も行われていません。つまり、現在では、クマを減少させた原因がなくなったにもかかわらず、個体数の回復が全く見られないのです。

それはなぜか?いくつか理由が考えられますが、その一つとして、クマにとって好ましい生息環境が不足していることが考えられます。

そこで今回のプロジェクトでは、クマが棲んでいる生息環境とクマ自体の生態について、科学的な調査をし、その結果を基にした提言を関係行政機関へ行うことで、効果的な保護管理を実現させることを目的としました。

プロジェクトでは、大きく2つの取り組みが行なわれました。

一つは、ブナとミズナラの調査です。

これは、ツキノワグマの重要な食物であるこれらの樹木の堅果(ドングリ)が、どの場所で、どれくらい結実しているかを調べるもの。

落下してきたドングリを集めるシードトラップという調査方法を用いました。今回は8地域にのべ330個のシードトラップを設置し(2012年のみ7地域280基)、ドングリの落下がなくなる12月上旬まで、回収を繰り返しました。

4年間にわたる調査の結果、ブナに比べてミズナラの方が生産される資源量が多く、また分布する範囲も広いこと、ブナでは凶作年(健全な種子が0個)が見られたことから、四国のクマにとって、ミズナラの方がより安定的で重要なエサ資源であることがわかりました。

最終的にこの調査の結果は、「ブナとミズナラの資源量マップ」としてまとめられました。

さてもう一つは、クマのGPSによる追跡調査です。 ドラム缶を使った専用の檻でクマを捕獲。GPS発信器をつけて、クマの行動を追跡するという取り組みです。

もともと数の少ない四国のクマの捕獲は容易なことではありませんが、2012年に3頭のメスを捕獲、2年間にわたり追跡調査を行ないました。

その結果、2万点以上の位置データを回収することができました。

これらのデータを植生、標高、道路からの距離などの既存情報と照らし合わせて、解析を行うことで、クマがどのような場所を好むか、好まないかを知ることができます。

この結果3つの選択性が明らかになりました。①植林地への低い選択性(クマは人工林より自然林を1.4~2.8倍高く選択して行動している)、②標高への選択性(900~1500mの標高帯で高い選択性が確認された)、③道路近くの低い選択性(道路付近では低い選択確率を示した)、です。

最終的にこの調査の結果は、「生息適地のマップ」としてまとめられました。

これら2つのマップによって、クマの生息にとって好適な環境が残っている場所を知ることができ、さらには現在クマが生息している地域でも、ブナやミズナラの資源量が低い場所も知ることができます。

その結果から今後、どのような地域からどのような改善を行うことで、クマの生息環境をより良くしていくことができるか、についての方向性を示すことができました。特に、林野庁や環境省が保護区として指定している地域については、優先的に改善に取り組むように、提言を行っていきます。

山田さんはまた、梅雨時にすぐに崩れてしまう林道や、登山道もない険しい山奥に、調査用のドラム缶を背負って踏み込み、数時間かけて現場にたどり着き、捕獲檻を組み立て、カメラをセットし帰ってくる調査の困難など、さまざまな現場の困難についてお話しくださいました。

こうした険しい場所に残る、生息に適した森をいかに保全し、クマが数を増やせるようにしていくのか。

それが、今後の四国でのツキノワグマの未来を左右する大きなカギとなります。

▶講演資料はこちら(PDF形式)

http://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20160722kuma02.pdf

島根県の取り組みの紹介

島根県中山間地域研究センター主任研究員 澤田誠吾

次に、島根県中山間地域研究センター主任研究員の澤田誠吾さんより、島根県としての取り組みと課題について、概要をお話しいただきました。

かつて日本一の製鉄の国だった島根県には、往時行われていた「かんな流し」といわれる大規模な砂鉄の採鉱により独特の地形が形成され、それが棚田などとして利用されてきました。

また自然豊かで農業も盛んな一方、全国に先行して、高齢化と人口減少が進む島根県では、地方の集落が縮小、かつての棚田などとして利用していた土地も耕作放棄地となり、野生鳥獣の住みかとなりつつあります。

近年、イノシシ、シカ、サル、クマなどの野生鳥獣による農林被害が多発するとともに、管理されなくなったカキやクリの木、そして稲刈り後の落穂などが、住民に意識されないまま、動物を引き寄せる要因になっているのです。

その結果、動物と地域住民の間で、深刻な問題が発生している状況を、澤田さんは分かりやすく説明してくださいました。

島根県で行なわれたフィールド・プロジェクトは、住民主体の鳥獣対策を目的としたものですが、それは個々の「点」ではなく、集落ぐるみの「面」で行われることで、効果を発揮します。

地域ぐるみの鳥獣対策を目指したプロジェクトで、どのような取り組みがなされたのか。澤田さんは、2つのフィールドからの具体的な活動報告をお聞きください、と話を締めくくりました。

▶講演資料はこちら(PDF形式)

http://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20160722kuma03.pdf

田橋横山フィールド・プロジェクトの報告

島根県鳥獣専門指導員 静野誠子

そうした取り組みの具体的なフィールドとなった場所の一つが、島根県浜田市の田橋横山地区です。

この地区は、市街地にも近く、クマの出没を食い止める上で、いわば最後の防波堤に位置する地域。それが、プロジェクトのフィールドとして選ばれた、理由の一つとなりました。

田橋横山地区は農業を中心とした集落ですが、ほかの県内の中山間地域と同様、過疎・高齢化が進んでいます。住民を対象としたアンケートを行ったところ、約8割が野生鳥獣の被害にあっていることがわかりました。

さて、この地域の名産品として栽培されている西条柿ですが、近年では、農業従事者の高齢化や後継者不足などにより、十分な管理ができなくなりつつあります。鳥獣被害への対策もその一つ。

そのようなカキ園に現れるのは、ツキノワグマはもちろん、テンやタヌキ、キツネ、カラス、イノシシなど。特に、住民の方々が怖がり、対処に困っているのがクマです。

そこで、プロジェクトではモデルとなるカキ園を設定して、従来設置されていたイノシシ用のワイヤーメッシュ柵を電気柵に改良し、クマが寄り付かないようにする試みを行ないました。

電気柵は巡らせた電線に電気を流しておき、触れた動物にショックを与え、再び柵に近づかせないための設備です。

しかし、カキの魅力は非常に強いものらしく、クマはワイヤーメッシュ柵を押し曲げて侵入してきたり、柵のわきの木に登ってそれを乗り越えてしまったりと、さまざまな手段でカキを食べに来ます。予想を超えた知恵を使ったクマの様子はまさに驚くべきものでした。

試行錯誤の結果、ワイヤーメッシュ柵の上部に電気柵を追加してクマの侵入を防ぐ場合、どのような条件が必要であるかを知ることができました。

・ワイヤーメッシュの目合いは10cm四方で6mmの線径を使用すること

・ワイヤーメッシュにイノシシ対策用の忍び返し加工がされていないこと

・12mmの異形鉄筋などの強度のある支柱を使用すること(8㎜の異形鉄筋,22㎜,25mmの直管パイプは使用しない)。

・ワイヤーメッシュの周囲には少なくとも2m空間が確保できるように、クマの足場となる立木を伐採する必要があること。

これらの教訓は、今後のクマ対策に生かすことができます。

また集落の中にも、人の手がかけられず放置された果樹が散在します。これらの放置果樹は、知らず知らずのうちに、野生鳥獣を集落内へと引き寄せることになります。

そこで、静野さんたちは、放置果樹がどこにどのくらいあるのかを洗い出し、持ち主の許可がとれたものについては、伐採を行いました。地道なものですが、集落内にある餌場を減らしていくという点で、重要な活動です。

さらに、プロジェクトでは、イノシシの侵入を防ぐため、集落の周りを囲むようにワイヤーメッシュ柵の設置を行いました。

それに先立ち、住民と一緒に集落の周辺を歩きながら、どの場所で被害が多いか、なにが原因で野生鳥獣を引き寄せているか、などを実際に目で見て確認する「集落点検」を実施しました。そして、それらの情報を地図にすることで、みんなで情報を共有し、効果的な広域柵の設