日本の国内象牙市場が違法輸出の温床に 最新報告書発表

日本の象牙市場に供給している現場の一つが、全国各地で開かれている骨董市や古美術街です。

2017年12月20日、WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるトラフィックは、日本の象牙取引と国内象牙市場を調査した結果を報告書として発表しました。調査結果からは、国内の古物市場と観光エリアにおいて象牙の違法取引と違法輸出が横行している実態や、中国に向け違法輸出を行なう組織犯罪の関与が明らかになりました。

国内の不十分な規制と取り締まりが、象牙の違法輸出の温床を作り出している現状は、日本の国内市場がワシントン条約で閉鎖を勧告される市場に該当することを示すものです。日本政府には、緊急な対策が求められます。

包括的な国内の象牙市場調査を実施

2017年12月20日、WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるトラフィックは、日本の象牙の国内市場と違法取引の実態に関する包括的調査の結果をまとめた報告書を公開しました。 報告書のタイトルは、『IVORY TOWERS 日本の象牙の取引と国内市場の評価』。 象牙や象牙でできた製品は現在、ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)により、海外から日本へ持ち込むこと、また持ち出すことが禁止されています。

しかし、すでに日本に存在する象牙を、国内で取引することは、今のところ違法ではないため、さまざまな場所で販売が行なわれ、中には外国人の手に渡って、海外へ違法に「輸出」される例が増加しています。 こうした実態を調査した今回の報告書では、日本が関与する国際的な象牙の違法取引の押収データをはじめ、国内における違法取引事案や、規制のための現行の法律がきちんと有効に機能しているか分析を実施。

さらに、2017年5月~9月にかけて実施した、国内の古物市場、観光エリア、オークション(インターネットを含む)、骨董買取事業者の事業の実態などに関する独自の調査結果をまとめています。 今回の実店舗調査で調査員が足を運んだ象牙を販売する店舗は、計430店(非常設のブースや露店を含む)、目視確認した象牙製品数は約5,000点に上ります。

横行する日本からの違法輸出

この調査を実施することになった背景の一つには、ワシントン条約の各加盟国が報告した象牙に関する情報がありました。 トラフィックがワシントン条約のもと運営を担っている「ETIS(ゾウ取引情報システム)」に集められた、違法な象牙の押収データを分析した結果、2011年以降、日本からの象牙の違法輸出が増加したことが明らかになったのです。

2011年から2016年の6年間に日本からの違法輸出として押収された象牙は、2.4トンを超えます。 このうち、日本の税関が、国内から持ち出される時点で押収したのは、わずか6%。残りはすべて、海外で押収されたものです。 また、日本から違法に輸出され押収された象牙2.4トンのうち、95%が中国を仕向け地としたものでした。

中国当局が押収した象牙の中には、犯罪組織が804キロを超える大量の象牙を密輸し2015年に摘発された例や、2016年に日本のeコマースサイトで調達された1,639点(101キロ)を超える象牙製品が密輸され押収された例も含まれます。

一方、同じ期間に日本へ違法に輸入され押収された象牙はわずか43キロであったことから、日本は、現在アフリカで年間2万頭ともいわれる規模で行なわれている、アフリカゾウの密猟で得られた象牙の直接の仕向け地にはなっていないと思われます。 つまり、日本は国際的な違法取引における象牙の供給国と位置付けられ、そこに供給されている象牙の多くは、日本国内に以前から存在してきた古い大量の在庫であると考えられます。

骨董市や古美術商による販売の実態

こうした在庫を抱え、日本の象牙市場に供給している現場の一つが、全国各地で開かれている骨董市や古美術街です。 今回、骨董市や古美術街をはじめとする古物市場や観光エリアで、トラフィックが実施した市場調査では、実際、外国人客やバイヤーによる象牙製品の買い付けが横行している実態が明らかになりました。

さらに、覆面でインタビューを行った中で、実に73%の販売者が「象牙製品を海外に持ち出すことは問題」ないと返答。 こうした販売者の多くは、象牙の国際取引がワシントン条約で禁止されていることを知りながら、「小さな製品であれば大丈夫」、「隠して持っていけば大丈夫」などとして、客を装った調査員にも購入を促しました。 また、東京の観光エリアでは、海外市場の客層をターゲットにした新しい象牙製品を販売する中国系外国人が経営する店舗が確認されました。

つまり、調査を行なったこれらの店舗の中には、日本からの違法な象牙の輸出を行なう可能性の高い外国人客を、明らかに狙っている例が多数あることが分かったのです。 調査で接触した中国系店舗の販売員は、「新しく作られた象牙製品は日本国内の古い在庫を使って製造したものだ」と説明していましたが、そこに日本へ密輸された違法な由来の象牙が使用されていないかを確かめることは極めて難しいのが現状です。

このほか、調査では、日本のオークションハウスにおいても、近年までそこで取引された象牙が中国に密輸されるルートに流れていたとの情報が得られたほか、電話調査を行なった骨董買取業者50社のうち、数社も、個人所有の象牙を買取ったのち、中国をはじめアジアの市場に販売する(または、していた)と語りました。 以上の結果から、日本の国内市場のさまざまな販路を通じて象牙の違法輸出が行なわれ、国内の事業者もこうした動きに加担し、そこから利益を得ている実態が明らかになりました。

国内の違法取引と緩い規制・法執行の実態

調査では、日本国内での違法行為の横行と同時に、不十分な規制と取り締まりの問題の大きさも浮き彫りになりました。 象牙の国内取引は「種の保存法(正式名称:絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」によって規制されていますが、取引に際して、合法性の証明(登録票)が求められるのは、全形象牙のみ。 加工されたアクセサリーなど個々の製品は、証明などの取得が義務付けられていません。

しかし、古物市場と観光エリアの調査で、今回確認した約5,000点象牙製品のうち、全形象牙はわずか1%未満でした。 さらに、その1%全形象牙においても、68%で登録票の添付がない、つまり違法な形で陳列されていました。 同じように、登録票や登録番号の伴わない全形象牙の違法な広告や取引は、オークションハウスとネットオークションでも多数認められたほか、電話調査で象牙(全形象牙と彫刻、アクセサリーなどの象牙製品)を買取る意向を示した骨董業者の50%が、「象牙の買い取りに法的手続きは不要」と回答。 「無登録牙の取引」という違法行為につながる対応が認められました。

実際に、骨董業者による無登録牙の買取が横行していることは、近年の摘発例からも明らかです。 2017年には、「無登録牙の取引」容疑で、6月と8月に2件、大規模な事件が警察によって摘発されました。 この事件には、合計39名にのぼる容疑者と、計27本の全形象牙が関与。 しかも、これらの事業者はいずれも不起訴となり、こうした問題に対して、厳格な法執行が伴わないという根深い問題をも明らかにする結果となりました。

さらに、種の保存法が、象牙を取り扱う事業者に義務付けている「届出」を行なっていない違法な営業例も多くあると考えられます。 正確な数は不明ですが、特に今回調査した古物市場においては、届出をおこなわずに違法に営業をしている店舗が多数ある可能性が示唆されました。 こうした数々の結果から、日本の国内市場がほぼ無規制で、さらには取り締まりの緩さから事業者の間で不遵守が蔓延している現状が改めて示されました。

2017年6月に、種の保存法が改正されましたが、ここに指摘した問題点を解決できるだけの十分な内容にはなっていません。

日本政府は緊急な対策を

2016年に開催されたワシントン条約第17回締約国会議では、世界各地に存在するアフリカゾウの密猟または象牙の違法取引に寄与する市場について「閉鎖」という緊急措置を求める勧告がされました。 日本ではこれまで、大規模な象牙の違法輸入がほとんど確認されておらず、市場規模もこの10年間で大幅に縮小していることから、今大きな問題となっているアフリカゾウの密猟には、大きく関与していないと考えられてきました。

しかし、今回の調査で明らかになった日本からの大量の違法輸出と、国内市場が抱える象牙管理の問題の実態は、日本の国内市場が、ワシントン条約で「閉鎖を勧告される市場」に該当することを、疑いの余地なく示しています。 日本からの違法輸出の仕向け地であり、昨今のアフリカゾウの密猟危機の最大の要因となっている象牙市場を有する中国は、違法取引と密猟に歯止めをかけるため、国内市場の閉鎖を宣言。

2017年12月末でそのプロセスを完了することになっています。 一方で、中国の消費者の潜在的需要が継続していることが別の最新調査によっても明らかになっていることから、市場閉鎖をどこまで効果的に実施できるのかは、まだ不透明な状況です。 改善をはかるためには、引き続き、中国への違法輸出を通じて結びついている、日本をはじめとした関係国間での協力と取り組みが欠かせません。

中国の象牙への需要は、日本の国内市場を活性化させています。一方で日本が取り締まりの現状を緊急かつ劇的に改善できなければ、中国の市場閉鎖の取り組みを阻害することになるでしょう。 これらはいずれも、アフリカゾウの保全努力にも悪影響を及ぼすことにつながるものです。

日本政府が2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて訪日外国人を年間4,000万人まで増やすことを目標に掲げる中、日本からの違法輸出の脅威はさらに深刻化することが予想されます。 こうした状況から、WWFジャパンは、日本政府が、野生生物の違法取引撲滅の重要性を認識した強固な姿勢を国際社会に示し、実効性のある政策を早急に策定すべき時に来ていると考え、具体的に以下の措置を求めています。

1.緊急に象牙の違法輸出を阻止し、国内の無規制な取引・違法行為を厳しく排除すること

2.厳格に管理された狭い例外(※)を除き、国内取引を停止するための措置の検討を開始すること (※

ワシントン条約の決議で認めている「密猟や違法取引に関与しない狭い例外」に準拠)

特に、インターネットを介したオンラインでの取引については、すでに違法輸出のための象牙の調達に利用され、匿名性が高く厳格な管理が困難であることから、ただちにこれを停止することを政府とeコマース企業に強く求めます。 今回の報告書を基に、WWFジャパンは2018年1月、日本政府に向けた実践的な提言と要望を提出する予定です。

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