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「あんたのお乳は腐っている」―医療関係者のトンデモ助言に泣く母親たちよ、立ち上がれ!

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 私は小児科医をしています。赤ちゃんが生まれてまもなくの1ヶ月健診を多く担当しているので、母親になったばかりの女性たちから「こんなことを言われたんですけれど、どうしたらいいですか?」という質問を受けます。いわく「帝王切開で生まれると我慢しない子になる」「ミルクを飲んで育つとすぐキレる子になる」「授乳中の母親が睡眠不足に耐えるのは当然」「あんたのお乳は腐っている」「乳製品(肉、甘いものなど)を食べるから乳腺炎になる」......など。実の母、お姑さん、親戚という場合もありますが、助産師に言われたというお母さんたちが困惑して相談してくることもあります。医学的根拠のまったくないトンデモ助言と言わざるを得ません。

 Twitterで聞いたところでは、「母親が食べているもののせいで母乳がまずい」「子どもの髪がストレスで立っている」「お腹にいた時の癖がついて子どもの背骨が曲がっているから、マッサージをしなさい」「予防接種はせず、自然に病気に懸かって免疫をつけるのがいい」と言う助産師もいたそうです。医療を学んだ者の言葉とは思えずため息が出ます。

 一方、こういったトンデモ助言で追い詰められる母親はどういった人でしょう。多くは子育てに詳しい相談相手が身近にいない女性です。核家族化の影響により乳幼児が身近にいない環境で育ったため、自分の子が初めて抱っこした赤ちゃんであることが稀ではありません。私から見ると丁寧に几帳面に育児をしているように見えますが、本人は不安でいっぱいです。赤ちゃんが何時に起きて眠って、何時に母乳を飲み、何mlミルクを飲み......とノートに書いています。それを健診時に私に見せ、「ミルクの量はこれでいいでしょうか? 洋服は何枚着せたらいいでしょうか?」と質問します。

 相談をされる私たち医師は、育児の専門家ではありません。病気の治療を求められてきました。育児は科学ではないので、医師が普段頼りにしている科学的手法は馴染みません。赤ちゃんたちを2群に分けて実験してみるわけにいきませんね。実験内容によっては倫理的に問題が出てきます。また、育児は実は様々な知識と技術が必要な壮大で長期間かかる仕事ですが、医師が知っているのは、育児の中でも医学的側面だけです。教育学的側面、栄養学的側面、被服学的側面などに関しては知識がないので、子どもの教育方法、離乳食の進め方、いつ何を着せたらいいか実は知りません。医学部で習うことはないので、仕事上必要性を感じた医師は、改めて勉強すると考えて下さい。医師によって知識にばらつきがあります。だから、赤ちゃんに接することの多い小児科医・産婦人科医でさえ、提示する育児法は違うし時代によって移ろいます。

 育児の専門家とみなされている助産師や保健師はどうでしょう。それぞれ指定学校・指定養成所を卒業し、国家試験に合格して初めて得られる資格を持っています。しかし残念ながら、前述のようなトンデモ助言をする有資格者が存在します。お母さんたちを傷つけるような発言をするという意味では医師も非難されることがありますが、さすがに前述のような非科学的で荒唐無稽な助言をした例は少ないと思います。

 少子化の現在、多くの女性が生涯一度か二度のお産です。育児について相談できる人が身近にいない。助産師に相談したらトンデモ助言が返ってきた―独りで悩んでいるお母さんも少なくないでしょう。どうすれば子育てに役立つ確かな情報が得られるでしょうか?

 意外にも皆さんがすでに持っている母子手帳に役立つことがいろいろ書いてあります。母子手帳は医学的な研究結果を反映し、時代に沿ったものになっています。

母子手帳を見慣れていない人のために補足すると、母子手帳とは妊娠期から乳幼児期までの健康に関する重要な情報が、管理しやすく一つの手帳にまとまっているものです。妊娠がわかった時点で、住民票がある市区町村でもらえます。赤ちゃんの成長発達を評価するのにキーとなる月齢はそのページにはチェック項目があります。生後1ヶ月、3-4ヶ月、6-7ヶ月、9-10ヶ月、1歳、1歳6ヶ月、2歳、3歳、4歳、5歳、6歳のページがあります。例えば3-4ヶ月のページには、身長・体重などの計測値に加え、「首がすわったのはいつですか」「あやすとよく笑いますか」「目つきや目の動きがおかしいのではないかと気になりますか」などがあります。その中に以前、「果汁やスープを飲ませていますか。」という項目があったのですが、厚労省の研究会が6ヶ月未満の児に母乳やミルク以外のものをあげる必要はないという見解をまとめたため、以降の母子手帳には載らなくなりました。予防接種の欄も大幅に変わり、正常な便の色を示すカラー写真が添付されるようになりました。また、緊急時にはどこに相談したらいいかといった情報が住所や電話番号とともに載っています。ネットで検索してますます混乱するよりは、手元にあって医学的にも国際的にも研究された結果が載っている母子手帳を開いてみてください。

 トンデモ助言をする医療関係者はすぐにはいなくなりません。医師会や助産師会、厚労省が医療関係者に勧告し、事態が改善するのを待つのは現実的ではないでしょう。病院や診療所、助産所でおかしなことを言われたのなら、先方に文書で抗議するのが有効です。訪問助産師や保健センターなら市区町村に抗議しましょう。

 現在は初産年齢が上昇し、高学歴なお母さんや社会経験を積んで調査能力・問題解決能力を身につけたお母さんが増えています。おかしな助言だなと思ったらそれをソーシャルメディアで相談したり、ブログに書いてみたりしてみてはいかがでしょうか。実際、確かな調査・検証能力のある女性のFacebookページやブログが読者を集めています。身近な人からの助言や言い伝えや習慣、育児雑誌やネットの情報に「本当にそうなのかな?」と疑問を持ち、「胎内の子どもが語りかけてくる」「子どもは親を選んで生まれてくる」などと言ったスピリチュアルでファンシーな雰囲気が苦手な親ごさんたちを"実際的な親"と便宜的に名づけてみましたが、そういう実際的な親たちが集い、発信したら、とても大きな力になります。以前はワーキングマザーでさえ、忙しいため洋服や食品、情報誌などの育児産業の生産者からは購買層として魅力が少ないと思われていたそうですが、現在は立派なクラスタです。

 泣かされてきた母よ、立ちましょう。あなたは、酷い言葉を受け入れる必要はありません。"実際的な親"という集団を作れば、私たちの子どもの時代にはトンデモ助言が一掃できると私は信じています。

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