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質屋アプリ「CASH」が一日でサービスを停止した、たった一つの理由。

2017年07月04日 17時39分 JST | 更新 2017年07月04日 17時39分 JST

先日公開された「CASH(キャッシュ)」というアプリが公開翌日にサービスを一時停止したと話題になっている。

狂ったサービスに相応しい初日じゃないだろうか。質屋アプリ「CASH」を提供するバンクは今朝未明、同サービスの査定を一時停止した。

出典:質屋アプリCASHが査定停止、開始16時間で3.6億円以上のアイテムをキャッシュ化ーー集荷依頼アイテム数は7500個に - THE BRIDGE(ザ・ブリッジ) 2016/06/29

「CASH」はスマホで撮影したブランド品の洋服やスマートフォン等のガジェットを換金できる質屋アプリだ。「質屋」というのがポイントで、まずは質に入れるものをスマホで撮影する。撮影された写真から査定を行い、査定額はすぐに提示されお金もすぐに受け取り可能だ。

それに対して利用者はお金を受け取り、2か月以内に返金するか、質に入れたモノを送ってお金は受け取るか、いずれかの対応になる。

返金すれば一時的にお金を借りる形となるが、その場合は15%の手数料が取られるという。モノを送れば買い取りと同じだ。瞬時に換金できるユニークなサービスとして瞬く間に話題となり、なんとサービスを開始した6月28日には7000件を超える査定と3.5億円の現金化の申し込みがあったという。

同社は対応できるキャパシティを超えたとして現在サービスを一時停止し、CASHを運営する株式会社バンクはお詫び文を掲載することとなってしまった。( CASH 査定機能一時停止のお知らせ 株式会社バンク 公式リリースより 2017/06/29)

サービスが停止した理由はすでに説明した通り、想定を超える申し込みが殺到してしまったことが直接的な原因となるが、自分はサービスの内容を知った瞬間「これは確実にトラブルが起きる」と直感した。

■CASHをヤバイと直感させた、かつて破綻したインターネット企業。

CASHの利用体験については、FPの山崎俊輔氏がレポートを書いている。

昨日の時点でフェイスブックでも友人としてつながっている山崎氏が面白そうなアプリがあるからさっそく体験レポートを書いてみようか、とコメントをしていた。

CASHはその時点ですでにSNSで話題になっていた。同時にこのサービスは明らかに危険ということも感じていたので、山崎氏の書き込みに以下のようにコメントした。

「仕組みを見る限り利用者は今のうちにガンガン行け、事業者は正直やめとけ、という感じです。」

この書き込みの意図は言うまでもなく、今起きているような買い取り依頼が殺到した際に対応できるか疑問があったからだ。売りたい人は今のうちに売れ、一方でハイリスクすぎる事業に会社の側は耐えられるのか、というのが上記の書き込みの意図だ。

公表されているインタビューではCASHを運営する株式会社バンクの社長・光本勇介氏は過去にSTORE.jpというサービスを運営するブラケットに経営参画し、ゾゾタウンを運営するスタートトゥデイに事業売却をしている起業家だ(ブラケットはのちにMBOで買い戻している)。

経営者として経験値も能力もきわめて高いと思われるが、このアプリを運営する株式会社バンクの資本金は600万円、人員は役員も含めて5人。ネットを通じて買い取りを行う企業としてはあまりにも心もとない。(【インタビュー】「モノを瞬時に現金化」新サービスCASHの仕組みは?光本代表に聞くFashionsnap.com 2017/06/28より)

そしてCASHのビジネスモデルをから想起したのが、かつてインターネットバブルで破綻した会社だ。

■資産運用のバイブルで指摘されていた、CASHの弱点。

資産運用のバイブルとも呼ばれる「ウォール街のランダムウォーカー」という書籍がある。アメリカで40年前から版を重ねてきた名著だ。同書では、オランダで発生した史上初のバブルと呼ばれるチューリップバブルから(チューリップの球根が常軌を逸するほど値上がりした)、20世紀末に発生した当時史上最大と呼ばれたインターネットバブルまで、さまざまな歴史上のバブルに関する記述がある。

ITバブルとも呼ばれた2000年前後、企業は会社名に「ドットコム」「ドットネット」「インターネット」とつけるだけで株価が高騰した。そしてアマゾンのような現在も生き残る優良企業ですら、バブル崩壊後には90%以上の株価下落に見舞われるなど、史上空前のバブルが発生し、そして崩壊した。

そんな企業の中で破綻したIT企業の一つとして紹介されているのが「スワップイット・コム」だ。

同社のビジネスモデルは以下のように茶化した(バカにした)表現で紹介されている。

1.まず私が同社にCDを送付する。

2.同社からは見返りに無価値の「スワップイット通貨」が送られてくる。

3.そして同社は倒産する。

4.私は騙される。

これは素晴らしい。よし契約しよう。

出典:ウォール街のランダムウォーカー バートン・マルキール 日本経済新聞出版社

ここでいう「スワップイット通貨」はおそらく買い物に利用できるTポイントとか楽天ポイントのようなものだと思われる。ただ、同社が破たんしてしまえば価値はゼロだろう。

CASHが支払いを約束したものはポイントではなく現金であるため、このケースとは異なる。今後7000件超、3.5億の支払いに対応ができるのか、そしてどれくらいの期間がかかるのか、現状では不明だが、著者のマルキールが指摘する以下のようなリスクはCASHにそのまま当てはまる(イーベイは過去に日本にも上陸したことがあるヤフオクのようなネットオークションサービス)。

イーベイ(eBay)やグーグルのビジネスモデルの卓越性は、自分では一切在庫を抱えないところにある。これに対してスワップイットの場合は全ての在庫と契約履行責任の両方を、自分で抱え込んでしまったのだ。

出典:ウォール街のランダムウォーカー 同上

CASHのビジネスモデルを見た瞬間にヤバイ、と感じた理由はマルキールの指摘と同じだ。IT系企業のビジネスモデルは、本来ならば物理的に人が介在する作業(電話や郵送など)を無くしてしまう、あるいは限界まで簡素化することで仲介にかかる手間を減らし、コストを軽減することが強みとなるものが多い。ヤフオクのようなオークションサービスがこれにあたる。

マルキールがあげるグーグルも、本来ならば本を買ったり図書館で調べなければ手に入らない情報を、関連するワードを打ち込むだけで調べられるという「人と情報の仲介」をほぼゼロコストで行う(実際はそれなりにコストがかかっているが、利用者×利用回数あたりに直せばゼロに近い)。

このように、ネットを利用した「仲介」がITサービスの肝となる。

■質屋は金融業である。

マイクロソフトのようなソフトウェアを提供する企業も、仮にソフトやサービスに問題があってもアップデートで対応することができる。これはスマホアプリを提供する多くの会社にも言える。CDに焼き付けてオフィスやウィンドウズを売ってはいるものの、在庫リスクは決して大きくはない(XBOXなど一部商品は除く)。

つまりアマゾンやアップルのように、自社で在庫を抱えて大規模に展開しているIT企業の方が珍しい、ということになる。

マルキールが指摘するように、ITサービスを利用して取引の「仲介」ではなく、取引の「当事者」になることは極めて大きなリスクを伴う。CASHでいえば、質屋を実店舗ではなくウェブで行ったことにより、日本全国でスマホを持っている人が顧客対象となった。

結果的に同社はアプリを利用する多数のユーザーとモノを買い取る業者を「仲介」するのでなく、「買い取りの当時者」となった。これがたった1日でサービス停止に追い込まれた理由だ。ヤフーやメルカリが、不用品を処分したい人を相手に買い取りの当事者になったらどうなるか?と考えればこのリスクの大きさは容易に想像できるだろう。

もちろん、想定以上の申し込みがあったことも原因となるが、ウェブサービスは物理的な店舗で展開するサービスと違い、青天井である。これは結果論でしかないが、ヤフートップにサービスを紹介する記事が掲載されたり、SNSでフォロワー数が数百万人もいるようなインフルエンサーに紹介されたらどうなるか?ということも想定して、当初は限定的にサービスを始めるべきだったかもしれない。

■CASHのビジネスモデルは悪くなかった。

CASHが提供する質屋サービスは買い取り上限額を20,000円に設定した。偽物のブランド品を質に入れたり、期日内に質にいれたものを郵送しない場合はそれ以降サービスを利用させないなど、性善説に基づいて運用するとも社長はインタビューで答えている。

これは日本国内ならば可能な、ある意味で上手いやり方ではあったと思う。悪質な利用者の割合が一定数以下であれば運営上のコストとして問題はないという判断で、それ自体は一つのやり方だ。トラブルの発生をゼロにしようとすればそもそも質屋アプリは成り立たない。

査定額は実際に中古品として売った場合の3割程度に抑えることで、差額を利益にする予定だったという。売れば買い取り額の3倍で売れる、お金で戻ってくれば15%程度の手数料を得られる、ということで利益率は悪くない。

ただ、買い取った商品をさばくルートはどれくらい確保できていたのか、買い取りが殺到した際に在庫を置くスペースの確保などは出来ていたのか、大量の買い取りが発生して一部に在庫の偏りが発生した際に売却価格の相場が崩れることは無いのか......など、さまざまなリスクがある。そして買い取り資金が無ければサービスの継続は出来ない。

■丸紅ダイレクト祭りの再来か?

質屋にとっての在庫は質入れされたモノだけではなく、買い取りに必要な現金もまた「在庫」となる。質屋は中古売買の小売業であると同時に、お金を貸す金融業でもあるわけだ。

資本金600万円でウェブを介した質屋なんて出来るのか......?とリスクを通り越して危険性を感じた理由もここにある。そこに買い取りが殺到したわけだから、在庫以上に注文が殺到したネットショップのような状況になってしまったわけだ。

時折ネットショップで在庫管理をせずに、注文数に100とか1000と入力しても受け付けが可能なお店がある。こういったお店で価格設定を間違えるなど、何かしらのきっかけで注文が殺到すると大きなトラブルに発生する。

19.8万円のパソコンを1.98万円と間違った価格で販売して、かつて丸紅ダイレクト祭りと呼ばれる騒動が10年以上前に起きたこともあった。今回のサービス中止もそれに近い。あまりに便利なサービスであり、しかもそれがSNSであっという間に広がってしまった。

経営者は経験もある人で、リスクはあるけどそこまで大きなトラブルに発展することは無いか......と思っていたら1日でサービス停止になるとはさすがに想定もしていなかった。事業者もまた徐々にサービスが拡大するなかで必要な資金や在庫を置くスペースなどをコントロールするつもりだったのではないかと思う。

■CASHは確実にイノベーションを起こした。

今回、サービスは残念ながら1日でストップしてしまった。利用者の中には腹を立てている人もいるかもしれないし、これからアプリを使おうと思っていた人の期待も裏切る状態になってしまった。

しかし、それは質屋アプリに対してそれだけニーズがあることの裏返しでもある。買い取りが殺到したらヤバイ、という自分の予想は当たった。しかし、査定額が実際に売った場合の3割程度ならばそんな低価格で売りたい人なんているんだろうか? 話題にはなっているけど大して利用者が増えないまま終わってしまうのでは? という疑念については大外れした。

質屋という数百年前からあるような古いサービスにIT技術を持ち込むことで新しい価値が生まれる......アレコレと上から目線でケチをつけるようなことを書いたが、まさにこれこそがイノベーションであると言って間違いない。

当初の申し込みに対応するにはかなりの時間がかかると思われるが、これだけの需要があるのなら、そして買い取ったモノを売りさばくことさえ出来るのなら、一度はトラブルが起きたとはいえ資金を調達してシステムも人員をそろえることも十分可能ではあると思う。

イノベーションを起こしたサービスと経営陣には改めてリベンジを期待したい。

※CASHの適法性についての議論もあるが、現時点で違法か適法か断定するに足るだけの判断材料がないため、その点については言及を避けた。また、本記事はCASHの適法性について担保しない。

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中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー