BLOG

ハリウッドの金正恩暗殺映画は正当な表現か、それとも不当な個人攻撃か?

2015年01月05日 16時31分 JST | 更新 2015年03月05日 19時12分 JST
Marcus Ingram via Getty Images
ATLANTA, GA - DECEMBER 25: General view of 'The Interview' poster during Sony Pictures' release of 'The Interview' at the Plaza Theatre on, Christmas Day, December 25, 2014 in Atlanta, Georgia. Sony hackers have been releasing stolen information and threatened attacks on theaters that screened the film. (Photo by Marcus Ingram/Getty Images)

■「パロディ権」はどこまで認められるのか?

 表現の自由だの、サイバー攻撃だの、テロに屈しないだの、アメリカの大統領までが騒ぎ立てるまでに至っているが、そもそも米ソニーピクチャーズエンターテインメント(SPE)に北朝鮮の金正恩を笑い者にするコメディ映画をつくる権利はあるのだろうか。問題のすべての責任は、北朝鮮を笑いものにしたSPE、そしてアメリカ側にあるのではないのか。

 私はこの映画「The Interview」の予告しか観ていないが、国名も「北朝鮮」、第1書記も「金正恩」と実名が使われ、いわば実物が題材となっている。確かに北朝鮮は「特異な独裁国家」であろうが、金正恩にも肖像権や人権もあるはずだ。それらを無視して、その人格や国の体制を一方的に笑いものにすることは肖像権や人権という観点からだけでなく、倫理的に許される行為なのだろうか。

 ハリウッドとしては当然の行為だと考えているのに違いない。なぜなら伝統的にパロディ映画をつくる伝統があり、殊に独裁的な体制に対して辛辣なコメディをつくるのは、「言論の自由と民主主義を守る」といった観点から得意である。例えば、チャプリンの「独裁者」がその典型だ。

 さらに面倒なことをいえば、「パロディ権」という日本では余り聞き慣れないものがあり、これは何かというと、パロディを制作する権利が存在するという考え方である。特に欧米諸国では古くから広く認められていて、その典型的な例が風刺画だ。日本のみならず欧米の新聞には、政治家や著名人を風刺するマンガやイラストがよく掲載されている。風刺画はある種の社会批評であり、自由にものが言える社会にとっては必要不可欠だと認められてきた。殊に政治家などの公的人物の場合、その肖像権が制限されることから、本人の許可を得ることなく、パロディや風刺画を描いても肖像権を侵害することはないというのが社会通念として受け入れてきた。

 たぶんSPEは北朝鮮側から許可を得ることなく、この映画を制作したのだろう。打診しても許可がおりるはずもなく、金銭やシナリオの変更を要求されるかもしれないと考えたに違いない。ハリウッドはこれまでにも金正恩の父、金正日のパロディを制作してきたが、特段大きな問題には発展しなかったようだ。

 では、今回の金正恩暗殺のパロディ映画も特に問題はないのだろうか。

■正当な表現か、不当な個人攻撃か

 こんな事例が事実あったことを覚えているだろうか。

 2012年、フランス国営テレビ「フランス2」の番組でサッカー日本代表のGK川島永嗣に腕が4本ある合成写真が映し出された。すると司会者が「(東京電力)福島(第1原発事故)の影響ではないか」と発言。サッカーの日仏戦で日本が勝ったため、何度なくゴールを守り抜いた川島選手を揶揄したコメントだった。当然、これに対し日本側は抗議、テレビ局側はパリの日本大使館を通じて謝罪、フランス外相も日本の外相に「申し訳ない」と頭を下げた。

 このようにパロディを制作した側と、その対象とされた側ではまったく受け止め方は違うのである。いくらパロディ権があるといっても、笑って許すことができない場合も多々あるはずだ。

 そう考えるなら、いくら「特異」な国家であろうと、北朝鮮がこのハリウッド映画を不愉快極まりないものだと怒ったとしても至極当然だろう。そしてこの点が実は重要だといえる。なぜなら結論から言うと、実際に存在する人物やアートのパロディが認められるか否かは、著作権利者の判断、その感じ方いかんにかかっているといえるからである。日本国内の例を挙げるなら、北海道の菓子「白い恋人」が、吉本興業が売り出した「面白い恋人」を商標権の侵害だとして訴えたことがある。争点は、「面白い恋人」が「白い恋人」のパロディとして認められるか否だった。

 毎年開かれる「コミックマーケット」(「コミケ」)には何十万というファンが詰めかけるが、売られている多くは人気コミックのパロディである。これらを原作者が著作権の侵害と捉えるか、それとも自作がさらに発展し、多くの人々に届けられていると受け止めるかは、原作者の判断しだいである。つまり、訴えるか、笑って許すかは、作者の感じ方に委ねられるわけである。

 ハリウッド映画「The Interview」も、北朝鮮側が許せない誹謗中傷で白昼堂々バカにされたと憤慨するか、それとも金正恩は国際的に注目されている、世界的な政治家だと受け止めるかは、つまるところ北朝鮮政府、ないしは金正恩本人の感じ方(ユーモアのセンス?)によるのである。

 その答えは、どうやら前者のようである。ハリウッドの「悪ノリ」を笑って許せなかったのだろう。

■日本公開で北朝鮮はどう出るのか

 もちろん、これは推測でしかない。だが、確実に指摘できることがある――北朝鮮の抗議の仕方は明らかに間違っていたということである。

 もし、オバマ大統領が糾弾したように北朝鮮がサイバー攻撃を仕掛けたのなら、それは北朝鮮が、ハリウッドが描いたような「やんちゃなテロ国家」であることを自ら証明したばかりか、話題を提供し、映画の興行収入アップに貢献したことになる。どうすればよかったかといえば、日本の川島選手の一件同様、アメリカとの正式な外交関係がないとしても、あらゆるルートを通じて抗議をするべきであった。SPE側が謝罪、上映中止を拒んだならば、訴訟を起こすべきであった。そして何らかの方法でオバマ政権にアプローチするべきであった。

 この映画はいずれ世界公開され、日本でも公開されるだろう。日本で公開されたら、北朝鮮はどう出るのだろうか。

 オバマ大統領は、北朝鮮にさらに経済制裁を科すと発表し、手を緩めない方針だ。すでにレイムダック化しているオバマ大統領だが、残された時間内で歴史に名を残す「偉業」を達成したいと考えても不思議ではない。当然、北朝鮮崩壊もその隠れたアジェンダに違いない。そうなら、この映画を機に北朝鮮体制が動揺したなら、この映画は歴史に残る映画としてその名を残すかもしれない。

 チャプリンの「独裁者」は、笑いを武器に非合理な権威のバカらしさや、その正体をあばいた名作だった。「The Interview」はどうか。この映画の批評を読む限り、どうやらアメリカ特有の「おバカ映画」であるらしい。長いフライトでどうしようもない退屈をしのぐ際に観るのに最適な映画の部類に入るらしい。そんな映画が歴史や政治を動かしたなら、これぞある種の皮肉、パロディではないだろうか。