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「ロボット新戦略」は新たな市場を創出できるか?

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政府のロボット革命のマスタープランである「ロボット新戦略」が策定されてから早1年以上が経過した。本稿では、近年におけるサービスロボットに関連する政策動向を俯瞰したうえ、新たな市場を創出・拡大するためのポイントについて解説する。

1. サービスロボットに関連するこれまでの政策動向


我が国ではサービスロボット市場に関する検討が早くから行われており、経済産業省「次世代ロボットビジョン懇談会」(2003年~2004年)では、2025年に人とロボットが共存する社会を想定し、その実現に向けて解決すべき技術的課題や制度的課題についてとりまとめを行っている。

また、特に人の生活を支援するロボットの実用化・普及においては、安全・安心の確保が必要不可欠であることから、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は「生活支援ロボット実用化プロジェクト」(2005年~2009年)を立ち上げ、ロボットの安全技術及び安全性検証手法に関する研究開発を実施してきた。

その成果をISO(国際標準化機構)に提供し、世界初となる生活支援ロボットの安全性に関する国際標準規格ISO13482が2014年2月に正式発行された。

さらに、2014年5月OECD閣僚理事会で安倍首相が「ロボットによる『新たな産業革命』を起こす」と表明したことを契機とし、2015年2月には「ロボット新戦略」が取りまとめられ、2020年までの5年間で総額1,000億円規模のロボットプロジェクトを推進する目標が掲げられている。

2. ロボット革命の実現に向けた政策的な取組状況


ロボット革命のマスタープランである「ロボット新戦略」では、分野横断的事項と分野別事項に分けてアクションプラン(5カ年計画)が作成されている。分野横断的事項では、国際標準化や人材育成、規制改革、実証実験フィールドの整備等について言及されている。

また、特にサービスロボットについては、分野別事項サービス分野で言及がなされており、サービス産業の労働生産性を高めることが我が国の喫緊の課題であるという認識の下、特に卸・小売業や宿泊・飲食業などは潜在的なロボット活用ニーズが高い領域であるとの見解が示されている。

なお、当面はバックヤードにおける対物プロセスでのロボット活用を進め、接客等の対人プロセスでのロボット活用は中長期的な取組とする方向性も示されており、サービスを中心とする非製造業分野のロボット市場規模を2020年に1.2兆円とするKPIが掲げられている。

(1) 技術開発の推進

政府のロボット技術開発に対する予算事業は、技術と市場の成熟度合いの高い順に「導入実証段階」「市場化技術開発段階」「次世代技術開発段階」の3段階に分けて、バランス良く配分されている。ここでは、ものづくり・サービス分野の導入実証支援を行う「ロボット導入実証事業」(経済産業省、執行機関:一般社団法人日本ロボット工業会)と市場化技術開発支援を行う「ロボット活用型市場化適用技術開発プロジェクト」(経済産業省、執行機関:NEDO)の執行状況をみてみたい。

政府は「ロボット導入実証事業」として2016年2月までに合計116件の導入実証事業及び導入FS事業に対し助成を行っており、うち19件(16%)がサービス業分野に当たる。他方、「ロボット活用型市場化適用技術開発プロジェクト」では、2015年度に合計21件の助成先を採択しており、うち9件(43%)がサービス分野のロボット活用技術開発に対する助成となっている。

また、小売業や宿泊・飲食業小売の現場で案内や受付業務を行う対人型ロボットに関する案件は、テーマやタイトル名等の公表情報から推察するに数件程度に留まっている。

このように、我が国において早期から導入が進められてきた製造業・ものづくり分野へのロボット導入・浸透は国の助成事業を通じてさらに加速していると考えられるものの、GDPに占める第三次産業の構成比に比べ、サービス分野へのロボットの導入・市場化に係る助成事業の採択件数は必ずしも多くない。このままのペースでは「ロボット新戦略」のKPIを達成することは難しくなる恐れもあると推察されることから、再加速するための起爆剤が必要であると考えられる。

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図1:ものづくり・サービス分野における予算事業の執行状況

(2) 規制改革の実行(改革2020)

その起爆剤の一つとして期待されるのが、規制改革である。政府は「『日本再興戦略』改訂2015」のなかで、東京オリンピック・パラリンピック競技大会等が開催される2020年までに我が国の強みを社会実装・ショーケース化し、海外にアピールすべき中核プロジェクト(改革2020)の推進を掲げている。

また、プロジェクトの一つとして「先端ロボット技術によるユニバーサル未来社会の実現」を位置付けており、市街地等の日常環境をはじめとする公共空間で翻訳・道案内サービスを行うロボットや清掃ロボット、警備ロボットなどの多様な自律移動型ロボットが相互に連携しながらサービスを常時提供する姿に向けて、自律移動型ロボットを活用する際のルール(ロボットに関する安全性、社会的重要性の向上、保険、安全教育の実施等)を整理し、ルールの下でロボットを実装することとしている。

製造業・ものづくり分野のロボットの場合、『ロボットを導入する者』と『使用に関与する者』は一致していたため、作業マニュアル等を徹底することでロボットの稼働状況をコントロールすることは十分に可能であった。

しかし、サービス分野のロボットの場合、同様に、サービス提供者がロボットを導入する意思決定を行うものの、その使用においては不特定多数のサービス利用者が関与するため、ロボットの稼働状況をコントロールすることは困難である。このため、先述のプロジェクトによる現場でのロボット実装とルール整理の一体的な推進や、現場に即したルールの構築を通じて、サービス提供者のロボット導入に係る不安感が緩和されていくことが期待される。

3. 政策的支援の在り方


これまで述べてきた通り、サービスロボットの市場創出に向けて、政府は技術開発や導入支援、ルール整理を一体的に推進しているところであり、政策の方向性自体は正しい方向に進んでいると考えられる。なお、市場創出をさらに加速させるために敢えて追加的な施策を行うとすれば、『柔軟性の確保』と『推進主体の創出』の2点を挙げることができる。

我が国の技術開発政策は、技術の進歩の先に実用化・市場化がある単線的な『リニア型イノベーション』を想定しているケースが多く、技術の進歩度合を精緻に見極めて予算が措置されている。他方、サービスロボットの市場創出には、技術開発のみならず、ルール整理・改革やサービス利用者のニーズ把握・分析、適切なソリューションの提案等のサイクルを一体的に回す柔軟性のある『スパイラル型イノベーション』が必要であると考えられる。

状況・タイミングに応じて柔軟に予算配分を行うための新たな基金の創設や、サイクル全体を俯瞰し推進する第三者・サービスインテグレーター(NEDO「ロボット白書2014」)などの推進主体を創出し、実用化・事業化まで常に併走させる等の取組が有効ではないか。

2016年5月23日「サーチ・ナウ | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング」より転載