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「ネット世論」の実態は?「無投票層」は何を思う? メディアもネットを駆使した取り組み【読解:参院選2013】

2013年07月20日 00時36分 JST | 更新 2013年07月20日 16時00分 JST
猪谷千香

日本で初めて解禁されたネット選挙。ネットを利用しているのは、政党や立候補者、有権者だけではない。その動向を取材する新聞でも、ネットと紙面を連動させた新しい取り組みがスタートしている。毎日新聞では、社会学者で立命館大学特別招聘准教授の西田亮介さんとの共同研究プロジェクトとして、従来の世論調査と比較しながらツイッター分析を行なっている。また、朝日新聞では「#投票する?」という特集ページをサイト上に開設、ツイッターなどを活用して、有権者に投票する理由、投票しない理由を広く募っている。毎日新聞、朝日新聞の企画チームにそのねらいを聞いた。

■「原発」ツイートはどうやって拡散した?

ツイッター上でつぶやかれる政策関連語のうち、「原発」のツイート数が突出して多いのはなぜか?

毎日新聞と西田さんは7月4日の公示日にツイッター上でつぶやかれた政策関連語から、「原発」のツイート数が突出して多い原因を探った。すると、特定のツイッター利用者が集中的にリツイート、拡散していることが確認されたという。

一方、毎日新聞が4、5両日、全国の有権者約3万人を対象に電話で実施した特別世論調査では、重視する争点として「年金・医療・介護・子育て」と「景気対策」が28%とそれぞれトップ。「原発・エネルギー政策」は8%にとどまっていた。

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毎日新聞「参院選公示日の『原発』ツイート拡散状況」から

また、公示から1週間後には、候補者の発信とツイッターユーザーのツイートを比較。政党名と一緒にどのような言葉がつぶやかれているか調べたところ、候補者は政策よりも演説の告知に使い、ユーザーも具体的な政策についてのツイートは少なく、「期待された政策対話は起きず、候補者とユーザーのすれ違いが目立つ結果」が得られた。

「ネット選挙解禁によって、日本の政治は変わるかどうかを分析しようと立ち上げた共同研究です。まず、ネット世論というものが、どういうものなのか。単なる印象ではなく、きっちりとビッグデータ分析をして、それが選挙に与える影響というものを把握したい」と毎日新聞政治部の平田崇浩副部長は、そのねらいを語る。

「ただ、ネット世論を分析して、選挙の結果を見通したり、選挙報道の確度を上げたりするものではありません。有権者ひとりひとりが使えるネットで選挙運動が解禁されたことによって、政治と有権者のコミュニケーションの形どう変わるかを知りたいと思っています」

また、共同研究のメンバーである大阪社会部の石戸諭記者は、「共同研究のチームは、ネットの恩恵を受けてきた20代、30代前半の若手記者がコアメンバーです。ネットの可能性も感じてきたし、双方向性という流れは止まらないと感じてます。そうした中、今回のネット選挙で、ネットと政治の関係や情報の流れ方を分析したいです」と話す。

今回、「ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容」の著書で知られる気鋭の社会学者、西田さんがプロジェクトのパートナーだ。「政党、候補者がソーシャルリスニング、つまりネットへの書き込みの傾向を分析していることは知っていました。しかし、政党や候補者が、有権者よりも情報を持っているのはいびつ。有権者も同じ情報へアクセスできるようにならなければと思っていました。このような観点から、メディアがソーシャルリスニングの結果を広く周知する必要があると考えていました。いくつかのメディアの方と議論したのですが、毎日新聞は受け止めてくれました」と西田さんは話す。

中でも注目を集めたのは、「原発」という言葉がどのようにネットで拡散していったかを明らかにした分析だった。「世論調査で聞いてみると、『原発』より『年金・医療・介護・子育て』と『景気対策』の方が関心が高かったにもかかわらず、ツイッター上では『原発』がリツイートで膨れ上がっていました。コミュニケーションが可視化され、ネットで話題になっていると見えたものが実は2000人弱しかツイートしていなかったことがわかりました。ツイッターのユーザーは1500万人とか2000万人とか言われていますが、そのうち2000人はとても少なく感じます」

共同研究は選挙期間中、精力的に進められている。

「今回、毎日新聞による世論調査とボートマッチ『えらぼーと』、それからツイッターの分析を同時並行で行なっています。ソーシャルメディア上の政治的な書込を収集しても、人口性別等々の補正がかかっていないため、これをどのように受け止めて良いのかがよくわかっていませんでした。世論調査はある一時点のスタティックな政治への考え方が表れていますが、ネットの書き込みは、キーワードで抽出されるものであり、いつ書かれたのか時間軸もさまざまです。世論調査を基軸にしながら見ていくと、そのズレが明確になります。端的にいえばソーシャルメディア上の書込は『世論』とは別種の性質を持つ、コミュニケーションの過程が可視化されたものだといえそうです」

■「無投票層」の声をネットから探る

「投票に値する政治家がいない」「議会制民主主義は行き詰まっている。新しい政治の仕組みを検討しないと、投票率がますます下がるだろう。投票を拒否して新しい民主主義を模索しよう」

これは、朝日新聞のサイト「#投票する?」というページで書かれたコメントだ。ここでは、「政治に言いたいことがあるか、ないか」「投票に行くか、行かないか」をそれぞれ縦軸、横軸として、自分の立ち位置をコメント付きで投稿できるマップが掲載されている。

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朝日新聞「#投票する?」から

昨年の衆院選の投票率は戦後最低を更新して、59.32%。6月の東京都議選も43.50%と低調だった。「無党派層といわれる中で、無投票層というのを取材対象にしたいというのが、企画のねらい。現在、投票に行かない人たちは半数を超える状況になっています。投票しようと呼びかけても反応はない。しかし、考えるヒントを作ることがメディアの仕事です。従来の取材ではなかなか難しいだろう選挙に行かない人たちの意見を汲み取っていきたい」。朝日新聞デジタル編集部の平栗大地次長はその目的を語る。

投稿した人に取材をしている朝日新聞デジタル編集部、古田大輔記者は、「一番聞きたかったのは、投票になぜ、行かないのかということです。投票に行くという人でも、政治に言いたいことがないとか、期待はしていないとか。実際に取材をすると政治不信がある。でも、棄権することもできないという有権者の苦悩がありました」と話す。

企画では、ツイッターも積極的に活用している。古田記者は7月17日から19日にかけ、政治学者、東京大学先端科学技術研究センターの菅原琢准教授にツイッター上で「低投票率」についてインタビュー。2人の往復ツイートに、他のユーザーも参加して議論を繰り広げた(菅原琢 東京大准教授「低投票率、何が問題ですか?」朝日新聞デジタル古田大輔記者とのQ&Aセッションで #投票する?)。

また、企画メンバーの朝日新聞デジタル編集部、魚住ゆかり記者も自身のツイッターで、「 #投票する? マップへの投稿は、約870件。『あきらめないで投票しよう』『白紙も民意。『空席』として議席獲得できる仕組みにできないか』など、さまざまな声が届いています。投票を迷っている方、ぜひ見に来て下さい」と呼びかけている。

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