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ネット選挙におけるテクノロジーとは? オバマ大統領再選を支えた技術チームに松浦茂樹編集長が聞く【読解:参院選2013】

2013年07月20日 14時02分 JST | 更新 2017年08月20日 23時15分 JST
猪谷千香

参院選の投票日、直前。日本では初めてインターネットを選挙活動に利用する「ネット選挙」が繰り広げられている。2012年の米大統領選で、ネットやビッグデータを活用し、オバマ大統領の再選を支えたといわれる技術チームの責任者、ハーパー・リードさんと、そのメンバーで米アマゾンの技術者、マイルズ・ワーズさんに、ハフィントンポスト日本版の松浦茂樹編集長がインタビュー。ネット選挙におけるテクノロジーの役割と課題、そして、その未来について聞いた。

■「選挙戦にはソーシャルメディアやビッグ・データが必要不可欠」

松浦編集長(以下、松浦):自己紹介を兼ねて、オバマ大統領の選挙陣営「オバマ・フォー・アメリカ」で、どのような役割を担ったのか教えてください。

リードさん:私は、「オバマ・フォー・アメリカ」の技術チーム責任者(CTO)として、技術的な管理を担当していました。オバマ大統領の選挙活動は、技術を基盤にすべてが構築されていたので、非常に大きな役割でした。ただ、選挙活動自体は長い期間、受け継がれてきたものですから、伝統的な部分も多かった。そこへ、色々な新しい技術を加えることによって、より速く、効率的に活動することが可能になりました。

そして、さらに進化していくためには、ソーシャルメディアやビッグデータなど新しいものをどんどん取り込まなければいけませんでした。これは、私たちにとって必要不可欠でした。

松浦:チームは、どの程度の規模だったのですか?

リードさん:2008年の大統領選では10から20人程度のチームでしたが、2012年では、分析チームが40〜45人、デジタルチームが150人など総勢で10倍に増えていました。

松浦:人材はどのように集めたのでしょうか?

リードさん:新聞社が、ジャーナリズムを知っている技術者を求めるのと同じような感覚で、私も技術者を求めました。日本のことわざにある「モチハ、モチヤ」(餅は餅屋)ですね(笑)。私は人材のネットワークを持っていましたから、「大統領のためにひと肌脱いでくれないか?」とあちこちに電話をして、技術者を集めました。彼らには、どういった問題があり、どうやってそれを解決しようとしているのか、話しました。エンジニアにとって最大のモチベーションは報酬ではなく、興味深い問題をいかに解くか、なのです。

松浦:具体的にはどういう問題でしたか?

リードさん:まず一つ目は、スケールの問題です。選挙活動は後半になって急激に盛り上がります。エンジニアが「わああああああ!」と叫びたくなるぐらいのデータを一度に処理しなければなりません。でも、絶対にクラッシュさせるわけにはいきません。技術だけで選挙に勝つというわけではありませんが、でも、技術の不備で選挙に敗れてしまう可能性はあります。それに気づいておくことはとても重要です。二つ目は、システムのサステナビリティ(持続可能性)です。きちんと長く使えるソフトウェアをゼロから作っていかなければなりませんでした。

ワーズさん:私は、米アマゾンの「Amazon Web Services」(AWS、クラウドプラットフォーム)のソリューションアーキテクトです。「手伝ってくれ」と呼ばれた一人ですね(笑)。システムの設計をしていましたが、私たちはボランティアベースで動きました。企業が選挙活動に関わる場合は、ボランティアでなければならないという規定がありますので、早朝や深夜など勤務時間外に働きました。

松浦:「オバマ・フォー・アメリカ」におけるAWSは、どういう役割が?

ワーズさん:たとえ、一つのシステムがブレイクしたとしても、他のシステムでその負荷を処理できるようにしました。いつでもサイトを見られるという安心感、その安心感が価値になり、それが大統領選においてとても重要になります。それを技術的に裏付けました。もし、技術的に「大きな問題」が発生したとしても、AWSのインフラでは「問題」ぐらいで済ませられます。

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ハーパーリードさん(右)とマイルズ・ワーズさん

松浦:皆さんは、200種類ものアプリを作ったと伺っていますが、中でも代表的なアメリカ全土に散らばる4万人ものボランティアが使ったというSNS「ダッシュボード」とは、どのようなものですか?

リードさん:「ダッシュボード」は、以前なら紙媒体でやりとりしていた情報の共有を、オンラインで行えるようにしたと考えてください。これは、選挙活動の重要なミッションでした。誰でもどこからでもアクセス可能な「アクセスの民主化」は、ネットの素晴らしい恩恵です。「ダッシュボード」のおかげで、2008年には、参加できなかった人々が気軽にボランティアができるようになりました。とあるベテランの活動家が私にメールをくれました。「お陰で、支援活動ができるようになりました。ありがとうございます。私は直接はお伺いできませんが、今、病院のベッド上からお手伝いができます」とお礼を言われました。

松浦:「キャンバス」というスマートフォン用アプリはどうでしょうか? ボランティアが個別訪問を行う際、重複がないように地図上で示すアプリですよね。実際にはどのような効果があったのでしょうか?

リードさん:このアプリを利用して効率よく戸別訪問できるようになりました。それにより、投票に足を運んでもらえるというメリットがありました。民主党の支持者はなぜか怠け者が多くて、なかなか選挙に行ってくれません(笑)。彼らに投票させるということに貢献しました。

松浦:2012年の大統領選で、オバマ陣営はビッグデータ分析を行い、選挙戦を制したと報道されています。関係するのは「オプティマイザー」というアプリでしょうか。

リードさん:そうですね。「オプティマイザー」は、テレビの視聴データを集めそのパターンを分析するものです。どこの誰に、どの広告を見てもらうか。テレビ広告を打つのに適切な場所を探します。そうすることによって、広告コストも削減できます。

■「テクノロジーを拒否する人はやがて消える」

松浦:聞けば聞くほど、選挙活動における技術の力を感じますが、陣営にはテクノロジーに明るくない人たちもいたと思います。どうやって彼らの理解を得たのでしょうか?

リードさん:ちょっと無礼な言い方をしますが、そういう人たちはいずれ消えます。技術は、使ってこそパワーを持ちます。例えば今、一番伸びているフェイスブックのユーザー層は、65歳以上の白人女性。私たちの母親世代です。そういった人たちもソーシャルメディアという技術を使っているわけです。それを拒否する人たちは、時流から外れてしまっているわけですから、最終的には消えて行くでしょう。

ただ、技術的にそうしたデジタル・デバイドを解決する努力はしました。容易にアクセス可能にするため、私たちがフォーカスしたのは、スマートフォンやタブレット端末です。これは私たちの経験則ですが、まず最初にタブレットからのアクセスを容易にすれば、後々、PCにもスマートフォンにも広がります。最初からスマートフォンに絞ってしまうとだめなんです。

松浦:ビッグデータ分析で注意が必要なのは、プライバシーの扱いです。日本でも最近、議論が起こりつつあります。個人情報を扱う上で、何か留意したことはありますか?

リードさん:いろいろな側面から答えることができますが、まず、やはり日本は独特だと思います。ネットでのプライバシーの扱い方がユニークです。アメリカなら、アバターに本人の写真を使うのに対し、日本では必ずしもそうではありません。また、日本のソーシャルメディアを利用する際、欧米に比べてプライバシーポリシーが複雑で厳しいと感じます。

しかし、我々にとってもプライバシーはとても重要です。なぜかといえば、ユーザーの方々に信頼してもらいたいからです。我々の活動は大統領そのものの価値につながります。その価値とは、オープンであること、透明性です。ですから、サービス基準はとても厳しくしました。信頼こそがブランドだからです。

もうひとつ大切なことは、使ったデータの大半が、誰でも使えるパブリックデータだったことです。その基盤となったのは、NY市の有権者1000万人の登録ファイルです。その情報に、電話や個別訪問、フェイスブック、ツイッターなどソーシャルメディアで得たデータを肉付けしていきました。その分析のお陰で、その人が投票してくれるかどうか、ボランティア活動をしてくれるかどうかを判断することができました。規模においても精度においても、なかなかの仕事ができたと思います。

しかし、おっしゃる通り、データがパブリック、もしくは自己報告してもらったデータものでも、使用方法を間違えばプライバシーを侵害する恐れがあります。私たちは、かなりの時間を割いて、その安全な扱いを議論しました。使用を間違ってはいけないということです。

松浦:なるほど。日本では今回の参院選で初めてネット選挙が解禁となり、さまざまな課題が出てきています。お話は参考になりますね。

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松浦茂樹編集長とマイルズ・ワーズさん、ハーパー・リードさん(左から)

■「意思決定をするのは正しいデータではなく、人間」

リードさん:逆にお伺いしたいのですが、日本のネット選挙はどのようなものなのですか?

松浦:政党や立候補者はソーシャルメディアやメールを選挙活動に利用することが可能になりました。ただ、全面解禁というわけではなく、たとえば有権者はメールを使ってはいけないことになっています。

リードさん:それはどうやって確認するのですか?(笑)

松浦:日本において政治とネットの世界はまだまだ乖離していますから。テクノロジーに明るくない政治家も多いです。ネット選挙については、今回がテストケースになると思います。ネット選挙に反対する政治家の中には、「ツイッターとフェイスブックのそれぞれの担当秘書を雇わなければいけない」と本気で考える人もいました。しかし、ネット選挙は実際にコストがかかるものなのでしょうか?

リードさん:ロムニー氏は、選挙が終わった時点で5000万ドルもの予算が残ってしまった。これは本当に無駄で、もっと効率よく広告が打てたかもしれない。あるものは全部使うというのが基本ですが、大事になるのはどうお金を割り当てていくかです。でも、アメリカ人はこと大統領選について非常に熱狂的ですね。今回も14億ドルが集まりました。これは、大統領選挙にしか使われません。経済に貢献するわけでもない、何かの生産性があがったわけでもありません。でも、大統領選は私たちにとって非常に重要なのです。

松浦:私は元々、技術者で、人工衛星のエンジニアをしていました。元技術者としての質問ですが、これだけビッグデータが集まれば、人々が選挙で議員を選んで議会を開くことなく、データを分析してより良い政策を決めていけるようなシステムができあがる可能性があると思うのですが、どう思いますか?

リードさん:それはないと思います。データによって、いろいろな予測や期待ができますか、人間は予測や期待から外れていきます。事前に定義された世界があっても、その通りには生きられません。大学を卒業したらお給料が上がるよといっても、大学を辞めていく人もいる。正しいデータが示されていたとしても、意思決定に影響を与える力はありますが、意思決定をするのは、結局、人間なのです。

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