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「TPPに反対する日本のマンガやアニメのコミュニティの意見可視化を」 福井健策弁護士と「電子フロンティア財団」マイラ・サットンさんの対話から

2013年08月20日 23時58分 JST | 更新 2013年08月22日 01時40分 JST
猪谷千香

日本は7月、マレーシアで開かれた環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に初めて正式参加、8月22日からはブルネイで交渉の閣僚会合が開催される。交渉参加に先立ち、日経新聞は7月9日、政府が著作権保護期間を権利者の死後50年から70年に延長する方針を決めたと報道、甘利明経済財政・再生相はこれを否定している。しかし、アメリカは自国と同じこの「保護期間70年」や、著作権侵害を権利者の告訴無しに起訴・処罰できる「非親告罪化」を求めているとされている。「クールジャパン」に大きな影響を与えるTPPの知的財産条項。著作権に詳しい福井健策弁護士が、アメリカでデジタル時代の自由な言論を守るために活動しているNPO「電子フロンティア財団」(Electric Frontier Foundation, EFF)や国内の著作権関係者と対話、問題の所在を明らかにしていく。

「電子フロンティア財団」はサンフランシスコに拠点を置き、個人や企業からの寄付で運営、スタッフの半数近くが弁護士というNPOだ。インターネットユーザーの利便性向上などを目的に活動する国内の一般社団法人「インターネットユーザー協会」(MIAU、小寺信良・津田大介代表理事)のロールモデルにもなっている。

EFFの国際政策アナリスト、マイラ・サットンさんが東京・高円寺のMIAUのオフィスを訪問。かねてから、ツイッター上で交流のあった福井弁護士と初めて対面した。2人の話題は、著作権保護期間から「非親告罪化」などの問題へ。

■コンテンツを無差別に削除する米企業のプログラム

福井弁護士(以下、福井):TPP、特に知的財産条項ですが、著作権保護期間以外で議論になっているものはありますか?

マイラ・サットンさん(以下、マイラさん):1つは、「インターネット・サービス・プロバイダの責任制限」です。これはインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)が、ユーザーの行為に責任を持つというもので、ユーザーが著作権侵害を行った場合は、ネットへの接続を禁止するなどの措置が求められていると言われています。これには、EFFもISP企業も心配しています。もしそんなことになってしまったら、ISP企業はユーザーの通信を監視しなければならなくなります。

ユーザーが違法なコンテンツをダウンロードできないようなシステムをISP企業が導入すれば良いという意見もありますが、大手の企業は可能でも、小さなベンチャー企業にとってそれは現実的ではありません。また、大手の企業はプログラムによる自動認識によって違法コンテンツとみなされたものを自動的に削除しています。

本来であればそのコンテンツが本当に違法なコンテンツかどうかは人間によって判断されるべきですが、しかしそれには大変なコストがかかってしまうため、プログラムによって自動化されているのです。しかしこのような自動処理による削除は、フェアユースのことをまったく考えていません。プログラムは、そのコンテンツが著作物を公正に利用されて作られたものかどうかは判断できないからです。

2つ目は、「DRMの単純回避規制」です。DRMはデジタル化されたコンテンツの著作権を守るためにその利用や複製に制限をかけるものですが、DRMを外しただけでも違法になるというのは、とても怖いことです。目の不自由な人がDRMを外して自由に電子書籍を点字化することも許されなくなります。また、ゲーム機にはクレジットカード番号などのさまざまな個人情報が入っています。そのような情報が正しく守られているかどうかを研究するためにはDRMを回避する必要があるケースがあります。しかしこのような正当な研究を行うことが違法となってしまいます。メーカーによる研究の結果の公表も難しくなります。

3つ目は、「著作物の一時的なデジタル複製」の問題。私たちは今、コンピューターで写真や映画を見る時にはメモリーやハードディスクに一時的な複製を作っています。現在、このような複製も複製権の対象とし、著作権侵害の対象とする議論がされています。一時的なデジタル複製を著作権侵害の対象とすることは、あまりに適用範囲が広く、実際に取り締まるのは無理でしょう。しかしもしこれが著作権侵害の対象となれば、当局がなにかを執行したい時に違反を問える、別件逮捕を可能とするものになってしまいます。

■TPPで懸念される6つの論点

福井:マイラさんがおっしゃった3つのポイントは、日本でも議論されています。加えて、日本にはさらに3つの大きな問題があると言われています。アメリカと日本の法律は違いますが、TPPの条文が日本の現行法にすぐ影響を与えそうな分野です。

1つは著作権の保護期間です。日本は先進国の中では、カナダ、ニュージーランドと並んで死後50年を守っている国ですが、これを70年に延長すると、世界の著作権に長期化にかなり影響を与える。2006年、アメリカは保護期間を伸ばすよう日本に要望し、国内の著作権団体も働きかけをしました。そこで、津田大介さんと僕が知り合い、日本では著名なクリエーターや研究者、実務家たちが大勢参加されて保護期間延長に反対するムーブメントが起こりました。

マイラ:保護期間延長はストップしたのですか?

福井:はい。2006年から2010年まで議論が続き、結局、政府は見送りました。でも、今回はTPPなので、保護期間問題の最大の山場、あるいは危機と言えます。

それからもう2つ目ですが、著作権法の非親告罪化です。日本では告訴といって、著作権者の希望がないと、著作権侵害を起訴・処罰できません。親告罪といいます。アメリカでは処罰できますが、日本は告訴がないとできないということです。日本では、コミケ(同人誌即売会)など二次創作の作品が文化の大きな特徴と言われていて、厳密には著作権侵害かもしれないけれど、やり過ぎでなければ著作権者から黙認に近い放置を受けている状態です。

なぜなら、二次創作はクリエーターや作家のゆりかごなのです。こういう土壌から新しい人材が育っています。それに彼らは、作品や作家のファンでもあります。でも、著作権のライセンスがもらえるかといったら、色々と難しい問題があり、公式ではもらえない。もし、非親告罪化したら、こういう活動が萎縮する可能性があります。「こいつは気に入らないから、警察に電話してやれ」と第三者に通報され、いつ訴追されるかわからない、という懸念も語られています。

前提として、私たちの著作権法にはフェアユースがないので、多くのパロティ作品は論理的には非合法的になりかねないわけです。

3つ目は、「法定損害賠償」。これは、実損害の有無の証明がなくても、裁判所が賠償金額を決められる制度で、日本にはない制度です。現在、日本では著作権侵害の裁判を起こされても、おおむね実被害額に応じて算定されるために一般に賠償金はそれほど高くない。被害者からすれば泣き寝入りもある。しかし、日本人は裁判が得意ではありませんので、急にそういう賠償金を高額化する制度が入ると混乱するかもしれません。韓国はアメリカとの自由貿易協定(FTA)で、著作権保護期間を延長し法定賠償金を入れ、また先行して非親告罪化も導入していましたが、その代わりにフェアユースも整備しました。日本も、現在伝えられているようなTPPの条件を入れるのであれば、フェアユースを導入しようという議論はかつてないほど高まるでしょう。もし、フェアユースその他の安全措置がないまま、TPPに参加した場合、日本の文化に大きな影響を与える可能性があります。

マイラ:なるほど。しかし、日本はマンガやアニメのコミュニティがとても強いので、彼らの反対意見が可視化されると良いのではないでしょうか。他の国の人たちも注目しています。

福井:日本での議論がどこまで状況に影響を与えるか、楽観は全くできませんが、多くの方々が前向きに発言を続けています。日本での動きを英語に訳して発信をお願いします。僕もできる手伝いをしますから。

マイラ:はい。できるだけ世界中の動きを可視化したいと思います。良い意見を広く伝えることは、とても大切です。日本には世界からの期待があります。

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