「ドイツにだって待機児童はいる」EU最大の経済大国 子育てと働きかた

ベルリン市内にある拙宅の近くには、公園がある。その前を通り過ぎるたびに、母親たちに混じって、小さな子どもと一緒にいる父親の姿がよく目に入る。歩道でベビーカーを押している男性も珍しくない。

ベルリン市内にある拙宅の近くには、公園がある。その前を通り過ぎるたびに、母親たちに混じって、小さな子どもと一緒にいる父親の姿がよく目に入る。歩道でベビーカーを押している男性も珍しくない。

言わずもがなだが、ドイツの現首相であるアンゲラ・メルケルは女性である。現在のメルケル内閣の顔ぶれを見ると、15名の大臣のうち、3分の1を占める5名が女性だ。

こうした状況を見ると、「ドイツは、女性にとって働きやすい国なのではないか」と思える。性別に関係なく、働く意志を持った人が働ける環境にあるのならば、その仕組みを知りたい——そんな気持ちから、特に女性が会社で働く環境について、ベルリンの男女に聞いてみた。

■ドイツの子育て——仕事と育児は男女がともに考えること

女性が会社で働きつづける上で、最も大きなテーマとなるのが、仕事と出産・育児の両立ではないだろうか。

管理職という立場で働くインドレ・ツェッツシェさん(写真)は、5歳の女の子の母親でもある。出産前後に7ヵ月2週間の産休・育休を取り、生後6ヵ月で通常の70%に当たる週28時間の契約で元の職場に復帰。その6ヵ月後に週32時間、さらに6ヵ月後から現在までフルタイムで働き、2週間に一度は泊まりがけの国内出張をこなしている。子供が10ヵ月を迎えたときから保育園に預け、現在も終日幼稚園に預けている。子供の送り迎えは、ツェッツシェさんと夫、依頼している保育士がそれぞれ分担して行っている。

「仕事を続けたかったんです」というツェッツシェさんは、女性の働き方について「仕事と育児に関しては、女性だけが問われがちですが、本来このテーマは男女がともに考えることです」と、強調する。ツェッツシェさんによると、地方はそれほどでもないが、都会に住むリベラルな男性ほど育児休暇を取っているという。

■育児休暇——男女ともに育休をとると2カ月長くなる「両親手当」

ドイツで「両親時間」と呼ばれている育児休暇は、被雇用者が雇用主に対して要求できる権利だ。子供が生まれてから満3歳になる前までの最長3年間、両親それぞれが取得でき、両親が同時に取ってもよい。育児休暇中は仕事をしない代わりに無給だが、育児休暇取得者が希望し、雇用主が認めれば、週30時間以内の範囲で働くことも可能だ。

またドイツには、育児休暇を取得した際の金銭的な保障として「両親手当」がある。これは学生や自営業者も要求できる制度で、それまでの収入に応じて月額300〜1800ユーロ(1ユーロ=約140.9円、2014年2月22日現在)が支給される。通常の収入が月額1000〜1200ユーロの人の場合は、その67%が支払われるという。

支給期間は、両親合計で最長14ヵ月。ただし、父母どちらかは最長12ヵ月しかもらえない。つまり、14ヵ月受給したい場合は、どちらかの親が最低2ヵ月は育児休暇を取得する必要がある。これにより、男女ともに育児休暇を取得しやすくなっている。一人親の場合は、最長14ヵ月支給される(日本でも2008年に「パパ・ママ育休プラス」が導入され、父親、母親ともに育休を取得すれば、2ヵ月延長することができる)。

■父親も仕事と育児を両立——週3回は子供のお迎えを担当

ベルリンで建築事務所を経営するマルクス・ミュラーさん(写真)は、「両親手当ができたことによって、男性も育児休暇を取りやすくなったし、実際に取得しています」と話す。

ミュラーさん自身には6歳の娘がおり、妻は同じ建築事務所で経理を担当している。子供が生まれた直後は、約3カ月間仕事をセーブした。多忙な時期は妻が主に育児をしていたが、今ではミュラーさんが週3回は16時に仕事を切り上げ、幼稚園に迎えに行く。仕事が終わらないときは、お迎え後に夜に自宅で残った仕事をするか、土曜日も出社しているという。

「一般的に建築事務所では、女性の管理職は多いんです。女性にはコミュニケーション能力が優れている人が多いので、管理職に向いていると思いますね。ただ、やはり女性経営者は少ないです。経営者になると公私の時間の区別がつきにくくなりますし、経営のリスクを背負うことにもなります。そういう面は避けたいのかもしれません」

■ドイツの出生率は日本と同じ——少子化は深刻な問題

男女が平等とはいえないが、日本に比べると、ドイツの女性は管理職や役員などでも活躍している。

内閣府・男女共同参画推進連携会議によると、就業者全体における女性の割合は、ドイツ45.3%、日本42.2%。それほどの大きな違いは見られないが、「就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合」は、ドイツが37.8%、日本が10.6%。これを見ると、日本では管理職になると女性の割合が下がることがわかる。ちなみに、「企業などの役員会の女性比率」はドイツ13%、日本1.23%となっている。

ただ「会社で責任のある立場で働くのであれば、フルタイム勤務でないと難しい」と、今回取材した人々はいう。もちろん、もし女性で仕事に専念したければ、子供を持たないという決断もあるだろう。ドイツの出生率は、日本と同じ約1.4人。少子化は、ドイツが抱える問題でもあるのだ。

■ドイツの待機児童問題——働けるかどうかは、託児所次第

ドイツも日本と同じように待機児童の問題を抱えている。2008年に「児童助成法」を制定し、1歳以上3歳未満の児童が保育園に入る権利を認めてからは、保育施設の整備を急ピッチで進めている。2013年までに3歳未満の保育の定員数を75万人にする目標を掲げていたが、希望定員数は78万人ともいわれる。実際のニーズとは開きがあるようだ。

日本では3月1日、ドイツが待機児童ゼロ目標を達成したと報じられたが、それは単純に受け入れ可能な児童の定員数だけを指しており、各都市や地域ごとに見ていくと、託児所の需要と供給が一致していない。託児所が求められる地域には、待機児童がいる。筆者が暮らすベルリンでは、託児所の数は増えたが、約3分の1の地域で託児所が不足しているのが現状だ。

生後5ヵ月の娘のために、2年間の予定で育児休暇を取得中のジャネット・レムケさん(写真)。現在は、家で子育てをしているが、託児所探しに苦労しているという。「託児所は、公立・私立共にすべて満員。3ヵ所の待機リストに登録していますが、空きが出るかはわかりません」

女性が職場復帰する際に欠かせないのが、託児所である。レムケさんは、会社員、自営業者、陶芸家という3つの顔を持つ。育児休暇終了後は、ひとまず労働時間を週22時間に短縮して会社に復帰する予定だが、託児所が見つからないままでは、それもできない。

「働けるかどうかは、託児所に入れるかどうかにかかっているんです」とレムケさんは語る。

こうした状況で、レムケさんは新たな仕事の可能性も模索し始めている。本職のコーチングやコンサルタントと、陶芸家としての経験を生かせる、カルチャーやアート関連プロジェクトのマネージメントの仕事だ。これなら、子供を職場に連れて行くことも可能かもしれないと考える。しかし同時に、経済的に成立するか不安もあると話す。

■ドイツと日本——女性にとって働きやすい環境とは

ドイツの人気女性誌『ブリギッテ』が、社会研究機関とともに、女性の生き方について調査したレポートがある。これは、2007年から2012年の間に4回に渡り同一の男女を対象に行ったもので、それによると、女性は人生において経済的自立、職業、子供を持つことを強く望んでいるそうだ。

しかし実際には、子供を持つことが出世を阻害すると答えた人は、2007年に比べて増えており、調査対象者で子供を持っている割合は42%にとどまっている。仕事を持つ人は80%だった。

ドイツには、育児休暇や両親手当以外にも、金銭面でのさまざまな支援制度がある。しかし、子育てをサポートする環境が整い、子育が仕事に不利に働くことへの不安が消えない限り、女性にとって働きやすい環境とはいえないだろう。

今回の取材と統計上の数字から見ると、ドイツは日本よりは女性が働きやすいといえそうだが、根底に横たわる問題は似ているのかもしれない。託児所の問題や将来のキャリア……それぞれが悩みを抱えながら、働き方を模索している点は同じだといえる。ただ、目の前の課題を、ともに家族で解決していこうとする男性の取り組みは、日本よりも少し進んでいるように感じた。

経営者でありながら16時に仕事を切り上げて幼稚園へ行くミュラーさんの働き方や、夫婦で取得すれば育休期間が延長される「両親手当」の普及、そして子供たちと公園で積極的に遊ぶ父親の姿勢(画像集)などは、働く両親の新たな方向性を感じさせる。

家族で子育てしながら、短い労働時間で生産性を上げるドイツの人たち。私たちが、日々のワークライフバランスや、これからの子育て、キャリアについて考えるとき、彼らの働き方は一つの参考になるのではないか。

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