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「お金より時間、ゆとりの価値観が変わった」 映像・音楽アーティストusaginingenに聞くドイツの暮らし

投稿日: 更新:
USAGININGEN
Yuki Kubota
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usaginingen(ウサギニンゲン)という名で活動するドイツ・ベルリン在住の映像・音楽アーティスト、平井伸一さんと平井絵美さん夫妻(写真)。アイスランドのレイキャヴィクで開催された音楽祭「Reykjavik Visiual Music Punto y Raya Festival 2014」のライブ・シネマ・セッション部門でグランプリを獲得するなど、世界を舞台に活躍している。

東京で多忙な日々を送っていた2人は、ベルリンへの移住をきっかけに、価値観が激変したという。「東京もよかったけれど、今の暮らしはもっと幸せ」と話す2人に、ドイツで気づいた「仕事」と「暮らし」の関係について聞いた。

■2年間、キャリアアップのつもりで海外へ

ステージ上に置かれた、見たこともない道具(写真)から、不思議な映像と音が流れ出る。こんな映像・音楽パフォーマンスは初めて、と思うのは当然だ。なぜなら、この道具はこの世に一つしかないのだから。

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生み出したのは、ベルリン在住の映像・音楽アーティストusaginingenこと、平井伸一さんと平井絵美さん。現在は、オリジナルの道具を使った映像・音楽パフォーマンスを行っているが、以前は東京で、それぞれ診療放射線技師とフリーランスの広告アートディレクターとして働いていた。

「私たちは東京が大好きで、仕事も充実していました。ただ、海外にも興味があったので、広告デザインの仕事にプラスになると思い、長くても2年間の滞在のつもりでベルリンに来たんです」と、絵美さん。

当時、病院に勤務していた伸一さんは、以前イギリスに滞在した経験があり、海外に対する不安はなかったという。音楽が好きで、ドイツに好きなミュージシャンがいたこともあり、絵美さんと共にベルリンで暮らすことにした。

ところが、キャリアアップのつもりでやって来たベルリンで、2人の人生は大きく変わっていった。

■小さな親切があふれる街・ベルリン

「みんな、なんでこんなに穏やかなんだろう」伸一さんと絵美さんは、ベルリンに来て、人々の対応に驚いたという。重い荷物を持っていると、誰かがさっと手伝ってくれる。困っている人を助けたり、譲ったりという行為が自然に行われている。小さな親切が、町にあふれていた。そんなことは、これまで経験したことがなかった。

こうした人々の親切な対応は、時間や環境のゆとりが大きな役割を果たしているのではないかと2人は考える。

「広い公園があちこちにあって、みんな芝生でのんびりしています。そういう時間があるから、ベルリンには優しい人が多いし、物事を深く考えているんじゃないかと思います。気楽な会話でも、みんな自分の意見を持っていて、流行に流されたりしないんです」と絵美さんは話す。

■難航した仕事探しが、考える時間を生んだ

ポジティブな驚きとともにベルリンを好きになった2人。一方でキャリアアップの目的は難航した。

絵美さんは、これまでの広告作品をまとめ、デザイナーとして売り込んでみたが、日本とドイツの嗜好の違いから、現地ではなかなか受け入れられなかったのだ。

そして、東京での生活から一変、急に有り余るほどの時間を手に入れることになった。お金はあるが時間はなかった東京生活から、お金はないが時間はあるベルリン生活へと、意図せずに移行したのである。

「毎日節約するわけです。例えば、外食は止めて自炊して。家で和食を作るときは、日本から持参した昆布やいりこで、一からダシを取るようになりました。すると、家で普通に作る料理がおいしいと気づいたんです。味覚が敏感になった気がしました。なぜそうなのかと思い、食品添加物や農薬のこと、生産者や食材を育てる環境について考えるようになりました」と絵美さんは話す。

■「お金」から「時間」へ——ゆとりに対する価値観が変化

お金が第一ではない生活が始まり、日本とドイツの違いに直面するなかで、考える時間が生まれた。いつしか、一つの出来事や商品から、それに関する歴史や工程などにも考えを巡らす習慣が身についたという。

「東京にいたときも、調べれば情報はあったのだと思います。でも、仕事に忙しく、自分たちに考える余裕と興味がなかったから、気がつきませんでした。ただ消費していただけだったんです」と2人は語る。

伸一さんは、「好きなものを買えるお金は、自分の理想を叶えてくれる道具。お金を稼いで、好きなものを買うことが幸せだと思っていました。東京での幸せは、お金が重要な存在だったと思うんです」と振り返る。

■行動が、社会を変える——オーガニック食品を選ぶドイツ人

2人は、身の回りのことを通じて、その社会的な背景を考えるようになると、個人の生活は、あらゆる社会の分野につながっていると思うようになったという。そして、一つひとつの物事を考えていくことで、自分なりの価値観が明らかになり、自分の行動に確信が持てるようになった。

例えば、買い物をするとき。ドイツではオーガニック食品が人気だが、一般の食品に比べてやや価格が高い。しかし平井さんは、自炊をすることで野菜の農薬や食品添加物、食材を育てている環境について気になり出し、実際に食べ比べ、味の違いを実感して、オーガニック食品を支持したいと思うようになった。

食品の値段を安くするためには、効率を重視して生産量を上げる必要がある。しかしそれは、自然環境や動物の生育に大きなダメージを与えることにもつながりやすい。安さだけで選ぶと、その生産体制を後押ししてしまうことになる。そう考えて、オーガニックを選ぶドイツ人は多いのだ。

■環境問題への意識が高いドイツの人たち

ベルリンには、オーガニック専門店やオーガニック専門のチェーン店が至る所にある。ごく一般の家庭でも、オーガニックの食品を選ぶ人がそれだけいるということだ。また週末には、新鮮な食材が買える市場が、市内あちこちの広場に立つ。そこにはオーガニック農家も、野菜や卵を販売に来るので話もできる。食の安全や、環境への関心が高いという表れだろう。

筆者も、ドイツ人は食品に限らず、商品が生産された環境や、企業の労働環境を気にする人が多いと感じる。以前、アメリカ大手の通販会社の過酷な労働状況がドイツで報じられた際は、その会社の利用を止めようというボイコットが起きた。普段から「私は○○会社は支持しない」という言葉もよく耳にする。商品を買うという行為ひとつにしても、企業や生産者の姿勢を重視するのだ。

だから、世間話をしていても、社会問題に発展することが珍しくない。自分の意見も求められるので、考える機会が自然に増えてくる。

伸一さんと絵美さんは、ベルリンで人々と接したり、興味があることを調べたりするうちに、「たとえ、多少値は張っても、いいと思うものになるべくお金を使う」「自分たちの行動が、生産者や企業の応援につながる」と思うようになったという。「一人一人が考えながら行動するようになれば、きっと社会は変わるはず」と話す。

もちろん、オーガニック食品を中心に買えば、一般食品に比べて食費はかさむ。しかしその分、服飾費は、ほとんどかからなくなった。ここでは、毎年流行の服で着飾らなくてもいいからだ。

そして、ベルリンに来て1年も経たないうちに「滞在は長くても2年」だったはずが、「日本は好きだけど、たぶんもう東京には住まないだろう」と考えるようになった。

■日々の暮らしが、創作活動につながる

デザイナーの絵美さんがキャリアアップする目的で、ベルリンに来たはずが、ゆったりした時間のなかで新たな価値観が生まれ、創作活動をするようになった2人。

ドイツに来て1年半が経った頃から、絵美さんが考案し、伸一さんが作ったオリジナルの道具(写真)でパフォーマンスをする映像・音楽アーティスト・usaginingenとして活動するようになった。

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今は、社会や環境について考えながら、料理を作り、人と語り合う毎日が、アーティストとしての創作活動につながっているという。

「そういう、ごく当たり前の生活が作品に反映します。だから、仕事とプライベートは切り離せない。いい作品を作るには、日々人間らしく暮らすことが大切だと思います」と伸一さん。

■生活を大切にして、自分のやりたいことを考える

2人は「東京の暮らしも充実していましたが、時間に追われることなく、考えながら生活できる今の暮らしは、もっと幸せ」と、明言する。

「心から願えば、いつからだって変われる。生きていくって、楽しい」という2人。それは、東京を離れて海外に出てみて、初めてわかったことだった。

贅沢な暮らしはできないが、アーティストとしての収入がある。また、絵美さんのデザイナー時代を知る人を通じて、仕事の依頼も入るようになった。シンプルで豊かな生活を送ることができる。

usaginingenは現在、ベルリンでの経験や考えかたを日本の人たちに伝えるために、日本各地で公演やワークショップ(写真)を積極的に行っている。

usaginingen

ドイツにいなくても、アーティストでなくても、日々の生活を大切にして、自分のやりたいことや好きなことを考えていくことで、自分の行動や価値観を育むことつながるのではないか。幸せの答えは、一人一人で違うはずだ。時間をかけて、自分で考えて、探していけばいい。

2人が、ベルリンで学んだ日々の暮らしを大切にする姿勢は、私たちがどう働き、どう生きるかを考えるうえで、参考になるのではないか。

久保田由希・ベルリン在住フリーライター

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