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ワールドカップ決勝をデータ分析 ドイツの「カメレオン」サッカーがアルゼンチンの交代策を上回る

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7月14日、FIFAワールドカップブラジル大会も最終日を迎え、決勝戦でドイツがブラジルを延長の末、1−0で下して4回目の優勝を果たした。120分間にも渡る熱戦は、どのようなストーリーだったのか。データ・ダッシュボードからひもといた。

  • 細かく真ん中から攻めるドイツ(前半30分まで)
    ドイツは、攻めのときは4−3−3。トップに近い位置にいるエジル、ミュラーがボールを受けに下がり、攻めの組み立てにも参加する。一方で守備時は4−5−1とクローゼを前線に残してしっかり9人で守る形だ。

    ドイツの布陣は、シュバインシュタイガーを中心に、クロース、ミュラー、エジル、クラマーが真ん中にギュッと詰まったポジショニングであることに注目。あくまでも平均位置を示したもので、実際に真ん中に固まっていたわけではない。しかし、真ん中方面を崩そうと動き回ってパスを受ける、パスを出す、の繰り返しをしているため、このように見えている。

    ドイツの狙いは、相手のディフェンスラインと中盤の間のスペースを突いて前を向き、スルーパス、サイド攻撃など攻めの選択肢を増やした上で、アルゼンチンの固い守りを崩し切ること。映像を観てもわかるが、ドイツは攻めの選手が一人で孤立するシーンがほとんどない。パスを受けると、かならずその近くに一人、二人と仲間がいて、パスが入った瞬間にまた次のパスを受ける動きを起こしている。

    4分には今のドイツを象徴する崩しで、最終ラインに下がったシュバインシュタイガーがサイドにいるセンターバックにボールを預け、そこからボランチに縦パス、すぐにセンターバックに戻してサイドのラームへ。ラームがダイレクトパスで、先ほどのボランチへの縦パスに相手が食いついたために空いたスペースにいるエジルに渡し決定的なチャンスとなったシーンだ。

    ボールを常に動かしながら、同時にボールのないところで3人目、4人目の選手が連動しながら崩していく。

    ブラジル戦では、攻めさせて「マルセロの裏」を突く、という狙いが見えたドイツだが、決勝のこの日は受けるアルゼンチンを見越して、自らボールを持って積極的にアルゼンチンを崩しにかかっている。

    しかし、バイタルエリアをきっちり守られると、外側にボールを出さざるをえないシーンが多くなり、攻めあぐむ。ボールを持っていても、なかなかシュートまで辿り着かないシーンが増えてくる。
  • 受けから入るアルゼンチン(前半30分まで)
    一方のアルゼンチンは4-4で守備陣形を作り、メッシとイグアインが前線に残ってカウンターを狙う形。ゴール前、中央から崩されるのを嫌い、今大会、固い守りを見せているガライ、デミチェリスのセンターバックコンビの前に守備に優れるマスチェラーノを置く。
    アルゼンチンは左側で守って右側で攻め、が基本の形で、左ハーフのペレス、左サイドバックのロホそれにマスチェラーノでドイツの厚い、右サイド攻撃を受け止めているのがわかる構図だ。

    バイタルエリアに入ったボールを奪ってすかさずメッシ、ラベッシに展開というのがアルゼンチンの狙いで、8分のカウンター攻撃はまさに狙い通り。9分には、これまでの試合でもよく見られた、右サイドバックのサバレタからシンプルにメッシ、ラベッシら個人技のある選手とワンツーで絡めて突破、という形も出ている。

    アルゼンチンの強みは、中盤からでもドリブルが仕掛けられること。ただ守って前線にボールを送るだけなら、フォワードのマークを厳しくすればよいが、ボールを持つ選手自らがドリブルで仕掛けることができるので、カウンター攻撃の厚みが増している。

    お互いが狙うサッカーを繰りだそうとする、最高のスタートで決勝戦は始まった。
  • クラマー交代でシンプルな攻めに(前半終了まで)
    31分、接触プレーで頭を打ったドイツのクラマーがプレーを続けられず、シュールレと交代。シュールレはエジルが入っていた左サイドのトップに、エジルはクラマーが入っていた右よりのボランチの位置に入る。

    シュールレは左サイドに張り付いてプレーし、エジルやミュラーのように中盤まで下がったり動きまわってボールを受けるタイプではない。ここからドイツは、今までの戦い方と少し変え、シンプルにサイドを走らせるようなプレーが目立つようになる。30分までの真ん中に選手が詰まったポジショニングから、若干、両翼が広がっているのがわかるだろう。左サイドのシュールレ、右サイドのミュラーが抜け出すシーンが目立つ。

    前半アディショナルタイムには、サイド突破から得たコーナーキックから決定的なヘディングシュートが生まれるが決まらず、前半を終える。ドイツとしては、ボールを支配しながらなかなか決定機を作れず、逆にカウンターで肝を冷やすシーンが目立つ、難しい終わり方になった。
  • 逆襲が決まり始めるアルゼンチン(前半終了まで)
    アルゼンチンはバイタルエリアに入ったボールを奪って速攻を狙うが、シュールレの投入位よりドイツの攻めがより、シンプルにサイドへの展開やスルーパスを狙うものになった。ラーム、ミュラーらに左サイドを完全に押し込まれながらも、28分、29分、35分、39分と立て続けにメッシ、ラベッシらがカウンター攻撃。ラストパスがつながらなかったり、オフサイドでチャンスを逃したりと得点できずに前半を終える。

    ボールは持たせてもしっかり守って、逆襲。シュート数も3対3の同数。ただ、点が奪えない。
  • 真ん中をしっかり受け止めるアルゼンチン
    ドイツの真ん中からの攻めに対して、しっかりと真ん中に人数をかけて守る。
  • 前半のドイツは真ん中から攻めた
    前半のドイツの平均位置。真ん中に人数をかけてせめているのがわかる。
  • 攻めに賭けるアルゼンチン、守りを減らす(後半開始から15分まで)
    ハーフタイム、アルゼンチンが動く。後半頭から、ラベッシを下げてアグエロを投入。メッシ、イグアインと前線が3人の4−3−3フォーメーションにして、攻めを厚くする。この交代が、このゲームの今後の流れを決定づける。

    始まってそうそう、ドイツが対応しきれていない46分にイグアイン、アグエロ、メッシが次々とスルーパスから抜けだして、さっそく「3トップ」への戦術的変更を活かしてチャンスを作った。中でもメッシの決定機はゴールキーパーと一対一の状態にまでなったが、シュートは枠を外れた。

    守りの時は、メッシ、イグアインが前に残る。アグエロもほとんど守りには戻らないため、ディフェンス陣が4人、中盤が3人で守る形だ。ポジショニングを見て欲しい。アルゼンチンの中盤、ペレスとビリアの脇に大きなスペースが空いている。

    取るか。さもなくばやられるか。アルゼンチンは点を取るためにリスクを取って勝負に出た。
  • ワイドに広く相手の穴を突くドイツ(後半開始から15分まで)
    アグエロ投入でバタついた後半立ち上がりを過ぎ、53分あたりから、ドイツも落ち着きを取り戻す。60分以降は、アルゼンチンの戦術変更でできた、ボランチの脇のスペースを使って、試合を優勢に進め始める。

    布陣からも前半立ち上がりの真ん中重視の攻めとは違って、サイド起点の攻めになっていることがわかる。
  • 守備の負担がのしかかるアルゼンチン(後半15〜30分)
    守備を減らした負担がのしかかる。64分、65分と立て続けにイエローカードをもらっているのも、偶然ではない。ファールも増えている。そうまでして、前を3人にした効果は出ているのか。アグエロとイグアインへのパス線が極端に細く、孤立していることがわかる。アルゼンチン、苦しい流れ。立ち上がりに通じた、3トップへのスルーパスも読まれている。

    苦しくなった時間帯以降、貴重なチャンスだった74分は、メッシが下がってゲームメイク、前線のアグエロ、イグアインを活かすふりをして自らシュートというシーン。しかし枠を外れる。前線を3人にしたメリットが、守りの負担増というデメリットを上回れない。
  • サイドで勝るが攻めあぐむドイツ(後半15〜30分)
    相手が空けたサイドを突いて、サイドバックを中心にパスを回す。この時間帯、サイドの選手のパス成功率は合計で9割超。一方のアルゼンチンは一番良いサバレタでも8割。しかもバックパスばかり。サイドの攻防で勝るドイツ。しかし、なかなかシュートには結びつかない。サイドは支配するが、アルゼンチン守備陣の球際が厳しく、シュールレ、エジル、ミュラー、クローゼ、最前線の間でボールがつながらない。
  • 右サイドを攻め潰せ!ドイツの攻勢(後半30〜45分)
    ドイツ攻勢が続く。81分のシーンはまさに後半の陣形を象徴するような攻め。アルゼンチンのサイドの守りが緩くなったところをラームが持ち上がってスルーパス、折り返しをクロースがミドルシュート打つが外れるシーン。ラームとエジルを中心に右サイドを攻め立てる。ボランチの脇を狙ってサイド攻撃。ドイツはしつこくしつこく、敵の弱みを突き続けるが、点を奪えない。延長戦を見越した88分、クローゼに代えてゲッツェを投入。90分が終了する。
  • 下がってゲームを作り出すメッシ(後半30〜45分)
    3トップが機能しないのを見て、アルゼンチンが最後のカードを切る。運動量が落ちていたイグアインに替えてパラシオを投入する。83分、パラシオは左サイドで持ち上がって、メッシにパス。中央で受けたメッシがアグエロにスルーパスを出すが通らず。アルゼンチンはこの3人の攻めが通用しないと、活路が開けない。

    前半に比べて苦しいのは、前にボールを運べるラベッシがいないこと。そのため、下がって前に運ぶところからメッシがやらなければならず、そうしてしまうとメッシがゴール前で仕事ができない。単発のスルーパスか、下がったメッシか。これだけでは攻め手が少ない。粘り強い守りに、あまりにも選択肢の少ない攻め。アルゼンチンにとっては、その内容がそのままでた形で0−0のまま終了する。
  • サイドから攻め続けたドイツ(後半)
    前半と比べると、横方向の線が薄い。サイドバックから縦への展開が多いことがわかる。
  • 3トップにかけた後半
    アルゼンチンが勝利を託したのは、3トップだった。しかし、前線同士のつながりが薄い。
  • さらに揺さぶるドイツ(延長前半)
    ドイツはサイド狙いの大きな方針はそのままに、細かい戦術を修正する。後半終了間際に少し見られた、縦への無理攻めではなく、サイドで縦方向に押し込んでから、横パスを使って、アルゼンチンの3人の守りを横方向に揺さぶる崩しを試みる。ポジショニングこそ大きく変わらないが、後半より格段に横方向のパスが多い。
  • 押し込まれて前後分断するアルゼンチン(延長前半)
    横方向への揺さぶりを受けて、アルゼンチンはさらに押し込まれる。しかし、押し込まれている中で、相手が横パスをするということは、それをインターセプトして相手にとって危険なカウンター攻撃に繋げられるという利点もある。9分、10分、14分とそういったシーンが見られるが、奪った後に前に預けたフォワード陣が一対一に勝てなかったり、ファールで潰されたりと、チャンスにつながらない。
  • 決め手はやっぱりサイド(延長後半、ドイツ先取点まで)
    そして、ついにその時が訪れる。ドイツはバックラインで右サイドから攻めようとボールを回す。アルゼンチンが人数をかけたところに、すかさず逆サイドに展開。左サイドでシュールレがボールを持って得意のドリブルを始めると、アルゼンチンディフェンスは後手に回ってしまい、今まで跳ね返し続けてきたマスチェラーノが外に引っ張り出されてしまう。そして、そのクロスをゲッツェが鮮やかなボレーで沈めて決勝点となった。

    右が得意なドイツが、さんざん右から攻め立てた後、左のドリブルから崩して決勝点。右サイドの密集と、左サイド高い位置のシュールレ。延長後半開始時から得点時までのポジショニングマップは、まさにそのドイツの「多彩さ」を表している。
  • 揺さぶりに負けたアルゼンチン(延長後半、ドイツ先取点まで)
    アルゼンチンの延長後半開始から失点までのマップ。ドイツに比べてボールが繋がっていないのは、カウンター狙いだから致し方ないものの、結局、失点までの時間帯、チャンスらしいチャンスを作れなかった。右中心に攻めるドイツに左で持ちこたえたが、最後にやられたのはドイツの左、アルゼンチンの右だった。

    両者の戦い方の変化がわかるプレーデータを2つ紹介しよう。
  • 1)アルゼンチンの守りの変化
    前後半の比較。後半、サイドやバイタルエリアでボールを奪えていない。
  • 2)ドイツの攻めの変化
    左から、前半、後半、延長。真ん中を攻め、サイドを攻め、それでもダメなのでサイドチェンジを使う、という変化がよくわかる。

こうして振り返るとひとつ、ゲームの大きな転機になったのはハーフタイムでの戦術変更だろう。4人で守っていた中盤を一人削って、トップにアグエロを入れて攻撃の威力を増そうとしたが、得点につながらなかった。

3トップにした意図は、守りを1枚削ってでも先に点を取って優位に進めるため。もうひとつはメッシに下がってボールを受けさせ、前に2人いる状態を作って厚く攻めるため。しかし後半始まって、最初の2分こそ、次々とラインの裏に飛び出して撹乱させる3トップの良さが生きたが、その後、替わって入ったアグエロが、一対一の仕掛け、4回すべてで敗れ、メッシからの決定的なスルーパスに足を滑らすなど、実力を発揮しきれず、チームとしてもパス数は前半よりも増えたが、作り出したチャンスの数は前半と同じ2つ。枠内シュートも試合を通してゼロで、得点が遠かった。

一方、後半以降は3トップにしたデメリット、守りの穴を突かれるプレーが目立った。中盤を3人にしたことによってサイドの守りが甘くなり、ドイツがサイドを支配。前半、わずか1つだったドイツのチャンスは、後半になって4つに増えた。しかもそのうち、3つが右サイドから生まれている。延長に入ってからの決勝点も、ドイツの左右の揺さぶるパスからのサイド攻撃からだった。

ただし、「システムを替えずにそのままやっていれば……」と簡単に言うのは難しい。たしかに前半は相手にチャンスを作らせなかったが、攻撃面はというと、アルゼンチンが敵陣で成功したパスはわずかに9本(後半は39本。ドイツはなんと前半だけで76本)。鋭いカウンターを見せてはいたものの、ほとんど自陣に釘付けの状態で、そのまま90分持ちこたえる保証はない。リスクを冒してでも攻めのテコ入れを、と考えても不思議ではない。

そうした点から考えると、メッシのほかにも一人で仕掛けてチャンスを作れる、ディマリアを欠いたのはやはり痛かったといっていいだろう。アルゼンチンからすれば、カウンターでのチャンス、ひとつでも決まっていれば……という試合だった。

一方、ドイツの強みは常に動きながらパス回しで崩せる、という自らの特徴に加え、相手に応じて様々な戦い方ができる、選択肢の多さだろう。たとえば決勝戦でも、中央を使ったショートパスでの崩しを試みたかと思えば、相手が布陣を変えるとサイドを突き、簡単にサイドだけではダメだとわかるとサイドチェンジを交えてドリブルを使う。

それは選手一人一人に徹底されており、相手が前から守ろうとすれば裏を狙う動きをし、引いて守るならば、位置を次々と他の選手と交換して相手の陣形を乱そうとする。「自分たちのサッカー」がたった1枚のカードに頼っているのではなく、何枚ものカードからなる、その多彩さが素晴らしかった。

決勝点も、普段重心をおいている右のパスからでなく、左サイドのドリブルから交代選手のシュールレがクロスを挙げ、同じく交代選手のゲッツェが決める、まさに「選択肢の多さ」から生まれたものだ。

こうしたドイツの「カメレオン」な戦い方はデータにも現れている。たとえば、接戦だった決勝戦は60%を超えるボール保持だったが、ブラジルに大勝した準決勝では半分以下。ボール保持を志向するサッカーを基本としていながら、それにこだわらず、引いて守ることも含め、様々なプレーができる証拠だ。

もうひとつ、ドイツの強さがデータで現れているのが走行距離。「守っているチームは走らされるから疲れている」――よくテレビ中継の解説で聞かれる言葉だが、ドイツには当てはまらない。決勝戦のようにボールを支配していようが、ブラジル戦のように逆襲を狙う展開だろうが、走る距離は常に勝っている。ボールの局面で顔を出す、細かい走りが圧倒的に多いからだ。今大会では、グループリーグ最終戦のアメリカ戦を除いて、すべての試合で相手よりも多く走っている。

ボールを保持でき、手放すこともできる。そしてゲーム展開がどうであれ、走っている。それが2014年ブラジル大会の覇者であった。

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