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「マタハラ」で起こる女性の人生ドミノ倒し 味方にならない労働局、心ないバッシングに疲弊

2014年10月22日 23時38分 JST | 更新 2014年10月23日 00時08分 JST
猪谷千香

妊娠を理由に職場で降格されたのは法律に反するとして、広島市の病院に勤めていた女性が病院を訴えた訴訟の上告審判決が10月23日、最高裁で言い渡される。妊娠や出産をきっかけに解雇・雇い止めされたり、減給、降格されるなどの嫌がらせを職場で受けるマタニティ・ハラスメント(マタハラ)が近年、社会問題化。判決の行方に注目が集まっている。

マタハラは、雇用が脅かされるだけでない。女性の人生に二次被害、三次被害をもたらし、「人生のドミノ倒し」に陥る危険がある。「二度と、子どもは産めないと思いました」と最も辛かった時期を振り返るのは、東京都内に住む30代の女性だ。

勤めていた会社でマタハラに遭い、出産後に一方的な解雇通告を受けた。労働審判で会社側と戦い、10月に「解雇無効」と解決金を勝ち取ったが、その道のりは平坦ではなかったという。マタハラによって何が引き起こされるのか、女性が語った。

■出産後、「あなたの戻る場所はない」と突然の退職勧奨

「今なら産んでも大丈夫と思えたので、出産に踏み切りました」。女性は、2010年に正社員として入社、2年半にわたり専門的な仕事の実績を積んでいた。「上司に妊娠を報告をした時も、あなたを採用した時から、いずれ産休・育休を取ることは想定していた、できるだけ早く復帰してほしいと言われました。これまでの仕事が報われた思いでした」

女性は半年間の産休と育休を取得、保育園の入園も決まり、職場復帰への準備を進めていた。しかし、復帰直前だった2014年3月、会社側は女性に手のひらを返す。

「あなたの戻る場所はない」「子どもの病気や迎えで仕事に穴が空くのは困る」。女性に会いに来た上司は突然、退職を迫った。退職しないのであれば、契約社員への降格や減給をするとも言われた。

正当な理由なく、産後1年以内の女性を解雇したり、退職を強要する行為は男女雇用機会均等法で禁じられている。もちろん、女性のそれまでの仕事に非はなかった。そうした知識があった女性は、会社側の退職勧奨に驚いた。「あまりにひどい裏切りに絶句しました。自宅に帰ってから、将来この子が女性を差別するようになったらどうしようと、子どもの顔をぼんやり眺めていました」

■被害者に、会社との「譲り合い」を求めてきた労働局担当者

マタハラ被害にあった場合、各都道府県の労働局雇用均等室に窓口が設けられ、相談に応じてくれる。女性も退職勧奨をされた翌日、会社を休んでもらった夫に子どもを預け、雇用均等室を訪ねて相談をした。解雇は免れたとしても、遵法意識の低い会社でこのまま働き続けることは難しいと判断した女性は、均等室のアドバイスを受け、退職の条件をまとめて会社側に伝えた。

しかし、会社側は一方的に、理由を明示しないまま4月に解雇することを伝えてきた。そこで、女性は労働局に紛争解決援助を依頼した。労働局は、労働者、特に出産や育児で弱い立場にある女性の味方であるはず。女性はそう信じていた。

「明らかに不当な解雇でしたので、労働局長による紛争解決援助という制度を使ったのですが、依頼を境に担当者が弱腰になってしまいました。会社側はたった3カ月分の賃金を受け取って辞めろという内容を提案してきたのですが、これに歩み寄るように私に勧めたのです。これを担当者は『譲り合い』と表現していました。労働者の味方であるはずの労働局が、こういう表現を言ってきたことに深く傷つきました」

この「譲り合い」「歩み寄り」という言葉は、制度を説明するパンフレットにも堂々と載っている。本来、解雇自体が無効であることを、なぜ会社側に指摘しないのかと女性は担当者に訊ねた。「解雇理由はないが、無効とまでは判断できない」「退職にともなう請求額が高すぎる」というのが、返答だった。

「これ以上、紛争解決援助をしても、会社側に利することになると判断して、私から打ち切りを希望しました。労働局が労働者の味方をしない、こんなお粗末な対応だとしたら、もう二度と子どもを産めないと思いました。味方をしてくれると思った人が味方をしてくれない状況が、一番つらかった。ものすごく不安になっていた時期でした」

女性は弁護士に依頼、最終的には労働審判となって10月、完全勝利を得た。「解雇無効」と請求どおりの解決金を勝ち取ることができた。

■解雇されれば保育園は退園の危機、転職活動も不利に

労働審判に勝利したとはいえ、女性はマタハラの理不尽さをあらためて訴えた。

「労働審判に勝ったとしても、会社側にはお金を払えば解雇できたということです。そういう意味では、会社側は目標を達成できているし、結局、私は会社を辞めなければいけなくなりました」

さらに、女性はマタハラによる二次被害、三次被害にも遭っていた。

「職を失えば、認可保育園の入園要件を満たさなくなってしまいます。役所の担当者には、会社側との紛争が終わるまで待ってもらうようにお願いをしましたが、『半年、一年は待てない』と言われ、いつ退園させられるかヒヤヒヤしました。

私のケースではありませんが、別の女性がマタハラ被害に遭い、産前にパートに降格させられたために入園できず、転職活動もできなかったということもありました。マタハラと保育園問題は、どちらも女性の就労継続を阻む大きな問題だと思っています」

また女性は、小さな子どもを育てながらの求職は不利にならざるを得ないと話す。

「転職活動にも、色々と問題があります。私は生後間もない子どもを育てながら活動しています。マタハラに遭わなければ、以前の会社で制度上は時短勤務ができていたはずなのですが、採用の場で最初から定時退社や時短勤務を求めることは難しいです。ある会社の面接では、そのような求めをしていないのに、時短勤務は出産前から在籍している社員だけのものなので、取らせるわけにはいかないと釘を刺されました」

マタハラは、女性の人生に大きな負担を課すのだ。

「子育てと転職活動をしながら、会社と戦うのはすごくしんどいです。私は、子どもが人並み程度しか手がかからないのでなんとかやれたけれども、病気がちだったり、自分も産後で体調が悪かったり、家族の協力が得られなかったり、そのうちひとつでもあてはまってしまったら、厳しいのではないかと思います」

■マタハラ被害者を傷つける心ないバッシング

慣れない子育てをしながら、会社側との厳しい紛争解決や労働審判。追い打ちをかけるように保育園問題や転職活動問題が女性には降りかかった。さらに、この女性のように、弱い立場にありながら、やっと声を上げた始めたマタハラ被害者に対する心ないバッシングも、女性たちを深く傷つける。

マタハラの撲滅に向けて情報発信している「マタハラNet」(正式名称:マタニティハラスメント対策ネットワーク)で活動している被害女性たちに寄せられたメールを、女性は紹介した。

「ひどくわがまま」「出産に対して理解のある企業に入る努力もせず、女性であることを利用して権利ばかりを主張するのは、同じ女性として恥ずかしい」「子どもが大きくなってから復帰すれば良い」

まず大前提として、女性が妊娠や出産をしても安心して働き続けられるよう、男女雇用機会均等法をはじめ、さまざまな法律が制度が整えられている。女性たちは自身の正当な権利を求めているにも関わらず、こうしたバッシングを受けることが少なくないのだ。

「私自身、マタハラに遭って、自分の味方をしてくれる人がどれだけいるのだろうか考えました。被害者の主観的な話であって、あなたにも原因があるのではないかと見られることを恐れていました。弱い立場にある産前産後の女性が、こうしたバッシングのような考えを持つ人たちの中で働かなければならない状況を想像していただきたいと思います。

こんな状況では、出産を迷っている女性は出産を思いとどまるのではないのでしょうか。今、少子化の原因である晩産化が問題になっていますが、産後にそれ以上か同等の仕事や給与水準が維持できなければ、出産を遅らせることに経済合理性があります。ですので、晩産化は起こるべくして起こっていると思います」

■10月23日午後にマタハラ訴訟の最高裁判決

それでも、少しずつマタハラに対する認知は進んでいる。10月23日午後には、最高裁まで争われているマタハラ訴訟の上告審判決がくだされる。女性のケースと違い、訴訟で争点となっているのは妊娠による降格だが、女性が敗訴した一審、二審の見直しがあるとみられている。

matahara

女性の労働審判を担当した岸松江弁護士

女性の労働審判を担当した岸松江弁護士(きし・まつえ)は、こう指摘する。

「労働審判では、裁判官から女性の権利保護がおろそかになっていると指摘がありました。最近、働く女性たちが色々と法律を調べて、自分たちの権利を守ろうと立ち上がっている流れがありますが、一方で男女雇用機会均等法ができて何十年も経つのに、いまだ状況が変わっていないということです。泣き寝入りしている人もまだ、たくさんいますので、ぜひ弁護士に相談してほしいと思います」

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