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「世界をねじ曲げずに、出会ったものを記録する」K2遠征直前の写真家・石川直樹に聞く、地球の楽しみかた

2015年06月12日 21時34分 JST | 更新 2015年06月15日 22時28分 JST
Naoki Ishikawa

旅をして、写真を撮り、言葉を紡いで作品にする。

それが石川直樹(いしかわ・なおき)さんにとっての生業であり、ライフワークだ。世界7カ国の若者とともに北極から南極まで人力で踏破した「Pole to Pole」を皮切りに、翌年には23歳で世界七大陸最高峰登頂(当時最年少)に成功。その後も熱気球による太平洋横断を試みた記録『最後の冒険家』で開高健ノンフィクション賞を、写真集『CORONA』では土門拳賞を受賞するなど、写真と文章の両輪で広大な地球の魅力を表現し続けている。

そんな石川さんが、この夏パキスタンの「K2」登頂を目指す。


すでに世界最高峰エベレストに2回登頂しているにも関わらず、8000m峰14座の中でも最も困難な山といわれる世界第2位の高峰K2になぜ挑むのか。2015年6月13日からの遠征を直前に控えて、現在の心境、そして表現者として大切にしていることについて聞いた。

naoki ishikawa

■K2は登山を知っている人たちが憧れる、難しい山

――明後日、5月13日から現地に下見に行かれるそうですね。K2とはどんな山なのでしょう。

難しい山ですね、だからこそ山屋(登山家)の人たちが憧れる山でもあります。誰でも知っているのがエベレストですが、山を知っている人たちが反応するのがK2。K2に登ったら高所登山はもう本当に卒業してもいいかなと思えるような、そんな山でもあります。だからぼくみたいな旅人風情には登れない山だとずっと思っていました。

でも2011年から毎年、エベレスト、マナスル、ローツェ、マカルー(いずれも8000m峰)と登って、だんだん経験を重ねていくうちに、そうした場所のことを具体的に想像できるようになったし、一緒に登ってきた仲間たちに「K2、ナオキも行くか?」と声をかけてもらえたので、じゃあ登りにいこうかなって。

去年、マカルーという難しい山を登れたので「高所登山はもういいか」とも一瞬思ったんですが、K2はやっぱり憧れの山だったし、それが手の届くところに近づいてきた。じゃあ万難を排して行かざるをえないな、と。

一緒に登る人は多分6、7人。それに加えて、ネパールからなじみのシェルパやキッチンスタッフが来る予定です。メンバーの国籍はほとんどがヨーロッパですね。

――過去のエベレスト登頂をはじめ、これまで海外の仲間とチームを組む機会も多かったのでは? 違うバックグラウンドを持つ人と上手にやっていく秘訣はありますか。

国内か海外かはあまり関係なく、初めての人に会ったら正直になること、それが一番いい。なぜここに来ているのか、何に興味があるのか、ちゃんと言う。外国でも同じ。自分はこういうものです、と人間として自然に振る舞うだけですね。正面から向き合って、変に構えないし、隠さない。

誰に対してもそういう風に同じように接すればいいと思います。もちろんただぼーっとしていればいいというわけではなくて、相手との絶妙な距離感みたいなものもありますけど。警戒しすぎないし、でも近づきすぎないという感じですかね。

――4月のネパール大地震の影響はなかった?

エベレスト界隈の登山は、今季はどこの隊も中止になりましたね。ルートが作れないとか、物理的に不可能な面もあったから当然でしょう。でも、K2はパキスタンにあって、山域も全然異なるので、まったく影響はなかった。皆さんが思っているより、ネパールとパキスタンは遠いんですよ。

■主観で世界をねじ曲げず、反応をそのまま記録する

――K2は死亡率が高いことでも有名。生命の危険度は過去の冒険の中で一番高いのでは?

一番とは言い切れませんね。ただ、世界にたくさん山がある中で、たしかに死亡率は高い。ぼくが目指すルート上には“ボトルネック”と呼ばれる難所があって、落石や雪崩に注意しなくてはいけない。よけようがないですからね。でもまあ、山ってどこへ行ってもそういうもんだから。

よく「出発前は特別なトレーニングしてるんですか?」って聞かれるんですけど、特別なことは何もしてないんですよ。どこか国内の山に登る機会があれば、自分なりに負荷をかけてみたり、ちょっとは食生活に気をつけてはいますが、それくらいで。現地に行って高所に体を慣らすことが、一番のトレーニングだから、直前に順応を兼ねた下見に行くわけです。

そういうのはどんな旅の前も同じで、ハチマキしめて腕立てとか筋トレとかして気合い入れすぎちゃうのはぼくには合ってないし、あまり効果があるとは思えない。「だめだったら帰ってくればいいや」って無理せず、いつも通りの感じで行ったほうがいいと思っています。

写真も同じで、変に格好良く撮ろうとか、猛々しく見せようとか、それらしく撮ろうという撮影の仕方は好きじゃない。天候待ちなんかもしないし、目の前に曇り空があれば曇り空を撮る。それに自分が出会ってるわけですからね。わざわざ晴れるのを待ったりはしません。

サマセット・モームじゃないけれど、ぼくは、雨が降ったら“雨が降った”と書く。「物悲しい雨が降っている」とか「今にも世界が終わりそうな雨が降っている」とかじゃなくて、ただ、雨が降っている、と。自分の主観で目の前の世界をねじ曲げるのではなく、出会ったものを体が反応するままに記録する。昔からずっと、そうやってきました。そういうスタンスは自分のあらゆることに現れているかもしれない。写真にも文章にも。

naoki

――写真集はもちろん、ルポや紀行文などの著書も多いですが、石川さんにとって写真と文章、それぞれの強みとは?

写真と文章は使い途が違いますね。写真というのはやっぱり言葉が追いつけない、言葉になる前の叫びのようなものであってほしい。逆に、文章は言葉じゃないと伝わらないと自分が思うものに使います。言語化される以前のもやもやした世界みたいなものをそのままポンと出せるのが写真のいいところで、目に見えないディテールを伝えたいときなどは文章ですかね。だから、写真にキャプションを付けるって、本当はすごい矛盾だと思っています。

■37歳、体力も好奇心も、なぜだか衰えない

――現在、37歳。北へ南へ、山へ空へといつも世界を飛び回っている印象があります。体力の衰えを感じることはありませんか。

それ、たまに聞かれるんですが、本当に全然感じなくて。山に関しては体力じゃなくて順応力や適応力のほうが重要ですね。高所に何度も行けば行くほど、体は順応しやすくなる。体力がなくて困ったことはまだないんですよ。よく飛行機の移動だけで「疲れる」っていう人がいるけれど、人力移動ならまだしも乗り物の移動で疲れるってどういうことなんだろうって。だって空港に行って飛行機に乗って、数時間座っているだけでしょ? それでなんで疲れるのか、ぼくには全然わからない(笑)。

――好奇心や気力が萎んだりすることは?

それも今のところは全然なくて。何でなくならないのか、自分でもわからない(笑)。やっぱり「驚き続けたい」「新しい世界に出会いたい」「自分の体で物事を理解していきたい」という気持ちが今も昔もすごく強くて、そのために一番シンプルな方法がぼくにとっては旅なんです。驚くことは未知のものに出会うことだし、未知のものに出会いたいという欲望はすなわち好奇心でもありますよね。

K2もそう。驚きがいっぱいあるに違いないことはわかっているので。あそこで何が見えるのか、どんな写真が撮れるのか。K2を登りながら中判カメラにフィルムつめてちゃんと写真を撮っている人なんてほとんどいないから、できる限りたくさんの写真を撮って帰ってきたいと思っています。

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石川直樹(いしかわ・なおき)
1977年、東京都出身。高校2年生のときにインド・ネパールへ一人旅に出て以来、2000年に北極から南極まで人力で踏破する「Pole to Pole」プロジェクトに参加、2001年には七大陸最高峰登頂に成功。人類学、民俗学などの領域に関心をもち、旅を通じて作品を発表し続けている。

阿部花恵

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