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「労働時間の上限を決めました」小室淑恵さんとリクルートスタッフィング社長に聞く、2016年の働きかた改革

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ワーク・ライフバランス
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2016年2月、株式会社ワーク・ライフバランスが企業経営者向けに開催した「ワーク・ライフバランス勉強会」に、ゲストとして株式会社リクルートスタッフィングの長嶋由紀子・代表取締役社長が登壇した。

長嶋さんが現職に就いたのは2008年。同社は2013年から、国内で最先端の「働きかた改革」に取り組んでいる。取り組み前の2012年と比べて、休日出勤を68%、深夜労働を86%も削減させながら、労働生産性を4.6%向上させたのだ。

それだけではない。驚くべきことに、女性従業員の出産数が倍増したという。同社の取り組みは注目され、長嶋さんは今や政府の有識者会議にも呼ばれている。

キーワードは「スマートワーク」。長嶋さんは、社内でどのような「働きかた改革」を行ったのか。経営戦略とは何か——。この日、長嶋さんから約3年間にわたる改革の内容が語られ、その手腕が明らかになった。

勉強会の最後には、同社で3年間コンサルティングをしている株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵・代表取締役社長が「なぜ急いで『働きかた改革』に着手しなければならないか」などを語った。当日の様子をレポートする。

■リクルートスタッフィング・長嶋由紀子さん「女性社長だから『働きかた改革』をするのではない」

長嶋さんは「成長戦略としてのスマートワーク」をテーマに、3年間の取り組みを紹介した。

nagashima

弊社は、リクルートグループの人材派遣会社です。人材派遣事業を中心に、人材紹介事業、アウトソーシング事業を行っています。登録しているスタッフ数は約90万人で、従業員は1896人です(ともに2015年4月現在)。今日はこの約2000人の従業員を対象にした「働きかた改革」についてお話します。

私は、次のようによく聞かれます。「女性の社長だから、働きかたの見直しに取り組んでいるのですか」と。でも、弊社では「202030(2020年までに指導的地位の女性の割合を少なくとも30%程度にするという政府目標)」は2004年から達成していました。2015年の時点では41.4%です。十分に女性管理職がいる状況は、現在も変わらず続いています。

ですから、私は働く女性を盛り上げるために「働きかた改革」を行ったわけではありません。より成長する会社にしていくために、未来でも持続的に成果を出していくために、取り組み始めたのが「スマートワーク」なのです。

■「スマートワークは、時短ではない」

「スマートワーク」とは、生産性を上げた働きかたのことです。誤解されやすいのですが、単に「スマートワーク=時短」ではありません。より中身にこだわり「限られた時間の中で、賢く・濃く・イキイキと働くことで、最大の成果を出すこと」と定義しています。

つまり「同じ成果を出すのであれば、もっと時短しよう」。あるいは、「同じ時間働くのであれば、もっと高い成果を出そう」という考えかたです。営業力そのものを強化してコアバリューを磨く一方で、生産性も向上させる。両方の筋肉を鍛えていこうと考えました。

■「トップコミット」と「現場主動」の両輪で推進

弊社の経営マネジメントのメソッドは「ユニット経営」です。これを「スマートワーク」に入る前からずっと実施していました。事業のまとまりや領域によってユニットに分け、各ユニットを1つの企業や事業体とみなすのです。ユニット長に経営の権限委譲をし、部門別会計で経営しています。

世間ではよく「トップダウンまたはボトムアップ、どちらがいいのか」という議論がされていますが、「働きかた改革」を推進するにあたっては、トップからのコミットメントがないと進まないと考えました。大切だけれどもすぐに大きなインパクトにつながらない取り組みや、数年かかる変革については、「トップコミット」で進めよう、と。フルコミットして従業員に伝え続けようと決意したのです。

ただし、私が旗を振っても現場がついてこないということのないよう「現場主動」と両輪で進めることにしました。ユニット長以上の役職者が49名いるのですが、彼らに中期事業計画を共有する場で、「働きかた改革が最大の経営戦略だ」と宣言し、議論したのです。

まず私から「なぜこれをやらないといけないのか」を伝えました。リクルートグループには“成果を出すために時間を惜しまず仕事をするのが大好き”といった企業カルチャーがあります。ありがたいカルチャーかもしれませんが、それだけでは次の時代へのインプットができません。一人ひとりがバージョンアップしていかないといけない時代なのです。全社各組織に「スマートワーク委員」を決め、全社的に推進していく形をとりました。

■「仕事大好きカルチャー」現場の混乱

当然ながら、現場では「1分でも長く働くことが、リーマンショック以降の業績回復につながるのではないか」という葛藤もありました。そこで、私は営業担当の役員に「スマートワーク担当役員」になってもらいました。労働時間と業績を相反させずに、これを進めるべきだと考えたのです。

私自身は、スマートワーク担当役員と共に、ランチ会や朝活の時間帯に毎回6〜7人と直接対話をすることを約1年半、週1回の頻度で続けています。若手従業員からは、こんな意見もありました。「自分がリクルートグループの会社に入ったのは、圧倒的に成長したかったからです。労働時間の制限を決められると、入社した意味がありません!」と。

10年前の私であれば、その言葉に「ありがとう!」と言ったかもしれません。でも、今の私は違います。「あなたは、何語と何語を話せるの? 英語や中国語はどう? 私はもうしばらくしたら引退できる年齢だけれど、今後もまだまだ働く世代は、グローバル競争のなかで生きていく。目先の業績を上げるためだけでなく、未来の自分へも投資をしなくては」と言いますね。

一方で、子どもを持つ従業員からは「インプットすることが会社の考えかたですか」と聞かれました。それに対する返事はこうでした。「これからの時代は育児だけでなく介護をする人も増えるでしょう。そういった社会の必然性から生まれる新しい事業領域は、机上ではなく“経験”から生まれる。あなたの経験則をぜひビジネスにフィードバックしてほしい」

このように、どの従業員に対しても真剣に話し、「なぜこれが必要なのか」のコミュニケーションも重ねました。

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朝活の様子

■いくつもの取り組みと、社内で生まれた変化

具体的には、「トップコミット」として年間労働時間の上限を決めました。そして「全社全員がそれを一人も超えない」ことにチャレンジしましょう! と旗を振りました。深夜や休日労働の事前申請書運用もスタートしました。

また、弊社では年に一度、業績のいいユニットと個人を表彰する機会があります。そこで、この「スマートワーク」も表彰選考の指標にすることを決めました。一人でも労働時間を超過するとそのユニットは表彰対象に入りません。当初は疑心暗鬼のユニットもありましたが、「やらないと表彰されないらしいよ、やらなくちゃ……」となったようです(笑)。こうして「スマートワーク」のルールが身についてくると、現場レベルでも変化が起こり始めました。

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表彰式で受賞者が挨拶

「現場主動」のボトムアップとしては、マネジメント研修や勉強会、ランチ会、朝活、全社広報誌の発行などを行いました。こうしたコミュニケーションや広報で浸透させる仕掛けの他に、システムとして営業支援組織のBPR(ビジネス目標を達成するため業務プロセスを分析し最適化すること)なども実施しました。

次第に各自が、時短のための便利な業務のサポートツールを作ってシェアしたり、自分の役割を明確にしてアシスタントにサポートしてもらうよう工夫したりするようになり、変化が生まれました。

また、子どもがいるため時間制約があっても効率的に働いている従業員たちの技を、個人のナレッジにしているのは大変もったいないので、これを組織のナレッジとして共有し、生産性を上げるようみんなで努めました。

3年目になると、さらにソリューションの粒度が上がっていきました。週3日の勤務で、営業スタッフとして活躍できるキャリアサポーターという職域を作ったところ、当グループのOGの方などにも数多く復帰してもらいました。今70名ほど活躍して頂いています。

そしてスタッフ部門ではワークフローの導入など、事務方であるバックヤードが限られた時間で働きながら、いかに営業の前線に有効な時間を創出するか、工夫が重ねられました。バックヤードがまきとるからこそ仕組み化できて、全社の生産性が上がります。その結果、年間約4万8000時間ものピュアセールスタイムが生まれました。

nagashima

■生産性がアップし、従業員が輝き始めた

仕事が大好きで、放っておくといつまでも仕事をしていた社内は、次のような成果を出せました。

一つは、年間労働時間の上限を従業員全員が守れたこと。

もう一つは、労働生産性の向上です。一日あたりの平均労働時間が3.3%ダウンした一方で、時間あたりの売上生産性が4.6%アップしました。

他にもいくつかあります。社内アンケートで「私は将来、より高い役職を担っていきたい」「私はこの会社で仕事と家庭を両立することは可能だと思う」という項目にイエスと答える人が、取り組み前と比べて0.5ポイント以上増えました。

また、2010年度から2014年度で女性従業員の出産数が1.8倍になりました。これは女性しかカウントしていないので、男性従業員のパートナーの出産も含めればそれ以上かもしれません。

さらに、新たに生まれた自由な時間を、自分のために使い、未来への投資をする人も増えました。研修を受講する人が以前と比べて1.6倍になり、グロービスの受講者はなんと14倍になりました。学びのカルチャーができあがってきています。

私自身、社内全体が明るくなり、活性化したと実感しています。現在は、従業員が世の中にある「不」の要素に向き合い、解決しようとする気概が高まっています。

■取り組む企業とそうでない企業で差がついていく

最後に小室さんが、「ワーク・ライフバランスに関する動向と最新情報」を紹介した。

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2015年6月30日、アベノミクスの第二ステージである、5年間の成長戦略「日本再興戦略 改訂2015」に長時間労働の是正について大きく記載されました。また、2016年1月29日の一億総活躍会議において、総理自身が「ニッポン一億総活躍プラン」の骨格を以下のように述べました。

「第一に、働きかた改革です。具体的には、総労働時間抑制等の長時間労働是正を取り上げます」

「総労働時間抑制」について、安倍首相が今までこれほど明言されたことはなかったので驚きましたが、それほど政府は今「働きかた改革」に力を入れています。女性活躍推進法のスタートに合わせて厚生労働省が2016年4月にオープンさせる、見える化のためのサイトでは、各企業の平均残業時間や育児休業の取得率などが掲載される予定です。

これが就職活動で参考にされるようになれば、人材の奪い合い時代が始まります。これらが企業のブランディングを左右していくでしょう。取り組む企業とそうでない企業で二極化し、人材獲得力に差がついていくのです。

■2017年までに改革できるかで、日本の競争力が変わる

長時間労働の是正は、今すぐにやらないと手遅れになります。なぜかというと、日本は第3次ベビーブームが起きなかったことにより、人口を増やせるか否かのキーポイントは、第2次ベビーブームで産まれた団塊ジュニア世代の出生数にあります。

私がちょうど今40歳で、団塊ジュニア世代なのですが、出産できる年齢はあと2〜3年といったところです。それ以降に、どんなに長時間労働を是正して産み育てやすい環境づくりをしても、産める年齢の女性が激減してしまうのですから、人口を増やすことはできません。

komuro

政府の「選択する未来委員会」の試算によると、このままの出生率では、2100年には日本の人口は現在の約4割になります。人口が減り続ける国では借金が返せないので、経済が破綻していくことでしょう。

でももしも、出産適齢期が2〜3年残っている世代で、出生率が1.8~2程度まで上がれば、日本の人口は2100年時点でも現在の7割で下げ止まり、均衡に入る可能性も出てきます。そうすれば安定した経済になることでしょう。つまり、ここから100年が転がり落ちる国になるか、経済的に安定した国になるかを決めるのは、たったこの3年だということです。

私たちがコンサルした企業で、労働時間を削減しながら業績が向上し、企業内の出生率が上がるメカニズムは、「月末や年度末までに成果を積み上げる個人戦」を「1時間あたりの成果を競うチーム戦」へと変えることです。

団塊世代が70代に突入し、団塊ジュニア世代が育児と介護と仕事両立の三重苦状態になるのは2017年。つまり、今は嵐の前の静けさです。だからこそ私は、長い時間をかけて取り組むのではなく、速やかにしっかりと取り組むべきだと考えます。今、一緒に日本社会を変えていきましょう。

小久保よしの

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