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ネット選挙は「裏社会」を超えた影響力を持ち始めた 解禁3年、参院選・都知事選の現場は

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東京都知事選で敗北したジャーナリスト・鳥越俊太郎氏のインタビューをハフポスト日本版に掲載したところ、大きな反響を呼んだ。その中に、鳥越陣営メンバーだった東京都板橋区議の中妻穣太(じょうた)氏(民進党)が「記事でブチキレました」というブログもあった。

中妻氏は、鳥越氏がネットを「しょせん裏社会」と述べたことに、以下のように反発していた。

私は裏社会の人間で、Twitterを見て応援してくれた方々も裏社会の人間ですか。

愕然となりますよね。

鳥越氏は、ネットについて、二重の間違いをしています。

ひとつは、上記のような、選挙へのインパクトを軽視しているということ。

もうひとつは、「あなたの味方をしてくれるメディアは、ネットしかなかったんだけど」ということです。

鳥越俊太郎「ネットはしょせん裏社会」。なるほど落選するわけですね。 | 中妻じょうたより 2016年08月12日 09時56分)

ネット選挙のノウハウはまだ、確立されたとは言えない。「裏社会」と呼ばれながら、空中戦の最前線をどう泳ぎ、どのような手応えをつかんだのか。解禁3年のネット選挙を語ってもらった。

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――ブログの反響はどうでしたか。上層部からのおとがめなどはなかったのですか。

上からはまったくありませんが、一般の有権者の方からはずいぶん、お電話などを頂きました。特に、いろいろ不満はありながら鳥越さんを応援して頂いた方には、かなりショックな内容だったようで「あの記事は消せないのか」といった問い合わせもありました。

――参院選と都知事選でネット選挙の一翼を担ったと聞きました。ネット選挙はまだまだ試行錯誤が続いていると思いますが、どのような経緯で担当したのですか?

2013年の参院選からネット選挙が解禁されて、今回の参院選で主要な選挙がほぼ一巡しました。私が板橋区議選を戦った2015年4月の時点では、およそ20%の方がネットを参考にして投票しているのではないかという仮説がありました。2回連続で最下位当選の私は、これをやっていなかったらきっと当選していませんね。

その中で、前からずっとやりたくてできなかったのが「番記者スタイル」でした。候補者が今、何を主張しているのか。どういう行動をしているのか。候補者にベッタリ張り付いて、リアルタイムで一挙手一投足を片っ端から流していく。マスコミはかなり取材しているのに、公平性という枠の中で、選挙期間中の報道にものすごい制限がかかっている。現場の記者の方々も、かなりフラストレーションを抱えているという印象を持っています。その結果、有権者はあまりに情報が得られないまま投票しているのではないかと、感じていたんです。

実際には、2016年7月の参院選も中盤にさしかかってから。東京選挙区で民進党の小川敏夫候補が大苦戦していて、私が「ネットに詳しいだろう」と、急に選対に呼ばれたんです。そこで番記者をやってみたところ、想像以上に奏功しました。総力戦の一翼で当選に貢献できたと思っています。都知事選の鳥越選対では、番記者4人のうちの1人として、ローテーションを組んで東京中を、主にスクーターで駆け回りました。

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TwitterはほとんどiPhone1台で、ツイートして写真も撮りました。中継用にiPhone5Sを2台レンタルしました。理屈は簡単だけど、今しゃべっていることを140字にまとめて、しかも言い過ぎたことを外して、と臨機応変にやるのはなかなか大変ですよ。若い人の方が得意なので、学生を連れてくるなどの方法で関わってもらう手もあると思います。

――ご自身の選挙と比較して、参院選・都知事選でのインパクトはどうでしたか?

今回、ネット選挙はガラリと変わりました。鳥越さんは落選しましたが、この参院選、都知事選では、ネットは20%どころじゃない、一つのメーンプレーヤーではなかったかという印象を強く持っています。以前はネットはネットユーザーしか見なかったけど、おそらく今回、ネットがネットの中で収まらなくなった。

マスコミが踏み込めなかったところにネットがどんどん踏み込んで情報を出せば、マスコミを含めていろんな人が注目し始める。そこでネットを超えたところに広がり始める。特に知事選では、マスコミが「主要3陣営のSNS戦略」という切り口で何度も取り上げてくれた。テレビで取り上げられると「候補の主張や今の動きがネットを見ると分かるのか」と、それまでネットを見ていなかった人が見るようになる。Twitterには必ず日程を載せたので、Twitterを見れば鳥越さんがどこにいるか分かると知れ渡れば、みんな見に来るようになる。鳥越さんの場合、主要ターゲットは高齢の方でしたが「Twitterを見て街頭演説を見に来た」という人が少なからずいました。

――ツールとしてはやはりTwitter、Facebookでしょうか?

そうです。政治家は原則、Facebookページを中心にすべきだと思うんです。地域限定の発信にいちばん強いのはFacebookページですから。

ただ、参院選と知事選は特殊な選挙なんですよね。都道府県全体が1つの選挙区。東京全体で1300万人の有権者がいます。今回、いざというときの爆発力はTwitterがいちばんだと見直しました。ある一定のアクセスを突破すると、一気に広がる臨界点があります。そのためには、候補者本人の強い思い、これをやらなきゃという主張など、やっぱり本質的など真ん中ストレートを投げ込まないといけないと思います。

――特に最近は動画が重要な役割を果たしています。その変化は感じましたか。

動画は非常に重要だと思います。選対のネットチームではプロモーションビデオを作りました。これもすごいアクセスが来ています。やはり滞留時間が全然違うんですよ。静的コンテンツで10秒滞留させるのはなかなか大変ですが、動画だと、動いていればつい見てしまうから、少なくとも10~15秒は見てもらえるんですよ。その中で少しでもメッセージを伝えられる。ただ、それ以上見てもらうには10秒の中にフックが必要です。

ライブもしました。「今こんなことをやっている」と、10秒ぐらい見てもらえればいい。TwitterはPeriscopeを使いましたが、Facebookライブの方が、もともと好感を持っている人が見に来るので盛り上がりますよね。

ただ逆に、見てもらえるのは10~15秒。そうなると、じっくり中身を伝えるためには足りない。主張などを一瞬である程度伝えるためには、Twitterの140字+写真がかなり効果的なんです。

これ、Twitterでパッと目を通せば、4つの基本政策を一瞬で理解できる。動画だとたぶん全部は見てもらえない。中身を一瞬で伝えるためのツールとしてTwitterは強力です。

――Facebookページの鳥越ページに「いいね!」している人たち向けに演説を流しても、広がらないのではないですか?

最終日の新宿ルミネ前のFacebookライブは3万6148リーチ(8月15日時点)。これぐらいになればコアファン以外に広がります。

それに、(1)候補者を知らない人(2)名前や街頭演説を聴いたことはあるけどよく知らない人(3)なかなかいいことを言っていると思っている人(4)投票しようと思っている人(5)自ら回りに勧めて回る人、それぞれの段階ごとにアプローチの方法は違います。4以上の人に「それじゃ足りないんです。電話かけてください、ポスティングしてください」というアプローチも当然あるんですよ。200万票とらないと当選しない都知事選では、20代のような、関心の薄い人に向けて、突破力のあるコンテンツをつくる、あるいは大学に行って個人演説会をやるなど、こちらから歩み寄って新たな層にアプローチしていかないといけないですね。

――今回の都知事選は、候補者が高齢でもあり、かなりネットに疎い部分はありましたよね。苦労などはあったのですか?

そうですね。この番記者スタイルのミソはフィードバックなんですよ。Twitterでいろんな主張をすると、当然いろんな反応がある。その反応を選対や候補者に上げて、次の戦略を考え直す。参院選はここが上手くいきました。小川敏夫さんは序盤、特に若い人への知名度がなかった。ところが意外なところからリアクションが来るものでした。

これを見て「あ、そういう視点なのか」と初めて気づいたんですよ。私も番記者しながら、小川さんが喋る低賃金、非正規雇用、ホワイトカラーエグゼンプションのことをツイートしていましたけど、重要ポイントだと思っていなかった。「これは最強調すべきだ。残業代ゼロをもっと強調して話してくれ」と情報を上げて、小川さんがそのことをさらに熱心に喋ると、「低賃金の問題を熱心にやっている、若者の味方」という像を帯びてくる。やがて「#残業代の守護神」といったハッシュタグが自然発生する。いいサイクルが出て、パイが広がっていきました。

都知事選は、これが効かなかった。フィードバックはかなり上げましたが、本人に届いているか分からない。野党共闘の急造チームで、あらゆる人が関わっているとは理解しつつも「届かないなあ」という思いがとてもありましたね。結局、私自身、本人と一度も話す機会がなかった。

繰り返し言ってきたことは、「その演説はバランスが悪い」と。非核や平和は、あってもいいけど、7割がそれでは絶対に勝てない。本人の周囲にいた国会議員も、おそらく言っていたはずだけど、これを全然変えなかった。障害者施策と防災の主張があまりに薄いとも指摘しました。

正直に申し上げれば、ひとえに本人がどう聞く耳を持っていたか。周囲の意見が聞こえてないわけがないと思うんですよ。

――ネット選挙以前に、そもそも、鳥越選対の風通しの悪さもあったんでしょうか?

うーん、それはまあ、誰を責めると言ってもしょうがない。野党共闘で、そもそも全然違う政策を、特に地域課題では完全に対立するような主張をしている政党が一緒にやるわけで、正直、準備の期間が少なすぎたととしか言いようがない部分はありますよね。時間がない中でベストを尽くしたと思いますけど。特に選挙で常に最大の責任を負うのは候補者ですから、候補者の責任としか言えないのではないかと思います。

――ニコニコ生放送の討論会をキャンセルしたり、本人が「ネットなんて裏社会」と言ってしまったり。選対関係者によれば「マスの効果の面を考えて、ニコ生は出演を見送った」と聞きましたが。

日程は、番記者チームに権限はなかった。ニコ生は、しょうがないかなあという気はしますね。

――実現しなかったアイデアは?

選対ネットチームで人気ゲーム「『ポケモンGO』に乗らない手はない」と言ったんですが、選対の方針として「ゲームの政治利用はやめよう」となり、「個々のメンバーが楽しく遊んでます」というレベルにとどめました。

アメリカ大統領選ではトランプ氏もクリントン氏もポケモンGOをやっている。ルアーモジュールを街宣場所に投入して聴衆を誘導する。すぐ真似できると思ったんですが、ルアーモジュールは有料アイテムなので政治資金規正法の対象になります。

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※「ルアーモジュール」は、ポケモンを呼び集めるアイテムの一つ。

――政治資金収支報告書に載った時点で「ポケモンにいくら使ってんだよ」と突っ込まれるかもしれませんね。

まあ、使うこと自体はいいんですが、お金を投じることで有権者が利益を得るのは利益供与、つまり賄賂のたぐいと見なされる可能性がある。その解釈はグレーだと思いつつも、百万が一でも選挙違反の可能性があることはできないので。

――結果に照らし合わせて、知事選ではどのぐらいの効果をもたらしたと思っていますか?

相当な効果があったと思いますよ。毎回、選対の内部連絡の瓦版で主要3候補のTwitter状況を書いて「いいねをもっと頑張ろう」といった目標を設定していました。TwitterのRT数は全候補者中トップでした。

――選対が上流だとするなら、下流で拡散を担う人たちが、積極的に担っていたように思えましたが。投票行動にはどれほど結びついたのですか?

それこそ一番わからないところですね。ただ、選対を上流と考えるとまずいと思うんですよ。参院選でSEALDsの存在はかなり大きかった。「私たちは小川敏夫を推す。できることは何でもやる」と主体的な意識を持って、イベントやコンテンツを積極的につくって「使ってくれ。このイベントは俺たちに仕切らせてくれ」とやってくる。一言で言うと周波数が違ってくるんですよ。普段の民進党や連合の発信では、周波数が合う人にしか届かない。そこへ、違う周波数を出す人が関わってくることで、より広汎な人に届く。そういった若い、違う感覚を持った人たちとコラボすることの重要さを痛感したんですね。

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都知事選では、近くまで入ってくるけど、本人の態度を見て離れてしまうんですよ。たとえば参院選では、新宿駅前の大街宣をSEALDsが関わってイベントに仕立ててくれました。知事選では、SEALDsは団体としては関わらなかったんで、若い人を中心に太鼓から始まるイベントを立てたんですが、鳥越さんがしゃべって引っ込んで、椅子に座って腕組みして見ていたりする。普通、候補者は最後まで横に立っているのが当然だと思うんですが、若者の低賃金の話を演説に反映させることもない。そうすると、プラカードを持っていた若い人が投げ捨てて帰ったりするんです。こういうことが積み重なって、いろいろな周波数を持っている、思いを持って集まった人たちが、徐々に散ってしまった。最後はやっぱり、ある特定の周波数の人だけが残って、おなじみの主張をずっとしている。そうしたらもう広がらない。ここが私は真の敗因だと思っています。

参院選では若い人たちが一生懸命に主張しているのを見て、候補者本人も「俺も先頭切ってやらなきゃ」と思い直す。それはお辞儀一つ、握手一つに現れてくるんです。最終日の演説も気迫がこもっていました。候補者が「俺が引っ張っていく。力貸してくれ」と進んでいくのが選挙。それがなきゃ負けます。そこはやはり、本人の姿勢ですよ。

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