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日韓関係の行方、若者の閉塞感...文在寅・新大統領誕生でどうなる 日韓学生が座談会

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意見交換をする日韓学生。左から中川侑、イ・ヒョンジョン、キム・ソンジュ、宮嶋友美、小室翔子の各氏=掲載写真はすべて5月10日、ソウル

隣国・韓国で文在寅(ムン・ジェイン)氏が5月10日、大統領に就任した。朴槿恵・前大統領の罷免につながった一連のスキャンダルで韓国社会は混乱、2016年末からソウル市内では朴大統領の退陣を求める集会が繰り返し開かれ、若者ら大勢の人たちが参加してきた。

今回の⼤統領選では特に経済政策に関心が寄せられた。ハフポスト日本版は文大統領の就任直後、ソウルのカフェで日韓学生計5人が参加する座談会を開催。閉塞感を感じている若者たちは何に怒り、新大統領に何を託すのか、また社会そして冷え込んだ日韓関係はどこへ向かうのかなどについて話した。

【参加者】

イ・ヒョンジョン(26、女)ソウル大修士課程(人文学)

キム・ソンジュ(25、女)ソウル大修士課程(教育学)

宮嶋友美(27)ソウル大修士課程(教育学)

中川侑(24)九州大修士課程(交換留学でソウル大に在籍中)

司会・小室翔子(24)ソウル大修士課程(人文学)、ハフポスト日本版学生エディター

■目立つ地域主義と世代間断絶

司会・小室翔子(以下、発言者の敬称略) 今回の大統領選挙は15人が立候補し、朴前大統領の罷免を受けたため選挙の準備期間が通常よりも短く、候補者の失言も多くて物議を醸しました。まず、全般的に韓国の人たちはどのように感じましたか。また日本の人は周りの韓国人がどう思っているように見えましたか。

キム・ソンジュ 昨年の悪い出来事(朴前大統領をめぐる一連のスキャンダル)が起こるまでは政治に無関心でしたが、それを機に、政治、そして指導者の役割や資質がいかに重要なのかを全身で感じました。これまでの大統領選は保革2強の構図でしたが、今回は多様な候補が立候補し、大きな政党が3つあり、保守が割れて2つの党になり……。選択肢が増えた点は良かったと思います。

一方、惜しかったのは、討論などの際にスキャンダルばかり掘り起こし、互いに過去のことを誹謗するところから抜け出せられなかったことです。失望しました。ただ、選挙結果には満足しています。

宮嶋友美 選挙討論や政治に関心がなくて、あまり見ませんでした。でも連休中にソウル駅に行くと選挙に関係する人がたくさん集まり、ある候補者の名前を叫びながら道を塞いだりする人もいて、なんだかおかしく見えました。一言でいえば、「やはり韓国だ」。こんな思いです。

中川侑 「ダイナミック(躍動的な)コリア」とは何であるかと実感しました。政治が大衆化している感じです。周りの人も、討論会の話をたくさんしていました。コメディを見るよりも面白いという声も多かったです。日本では政治に関心がなく、投票しても変わらない、無駄だと思っている人が多いですよね。今回の大統領選挙を見て、羨ましい部分もありました。

イ・ヒョンジョン 私は普段から政治参加をしてきた方です。今回(朴前大統領の友人・崔順実<チェ・スンシル>氏の国政介入疑惑)チェスンシルゲートが発覚し、「ろうそく集会」が次第に大くなっていくのが衝撃的でもありました。それにも関わらず惜しいのは、地域主義が相変わらずだったことです。一番衝撃だったのが、与党「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏への支持が少なくなかったということです。

——洪準杓氏は次点でしたね。地域だけでなく、世代間の断絶もあります。若い世代は比較的にリベラルを支持し、年配者は保守を支持する傾向が強いです。韓国では親戚や家族が集まって政治の話になり、きまりが悪かったり変な雰囲気になったりすることはありますか。

ソンジュ 父が全羅道、母が慶尚道の出身です。2人の支持傾向は似ていますが、互いがそれぞれの故郷を訪れた際、お酒が入ると自然に政治の話となり、地域感情が表に出て「こっちのせい、そいつのせいでだめだ」という話になってしまいます。父が母の実家に行けば父が少数派になり、言いたいことも我慢しています。

ヒョンジョン 先週の連休に実家に帰りましたが、親戚と食事しました。私たちの家族を除いて全員が釜山出身者の支持をしていて、もどかしくてご飯を食べるのが辛かったです。父と叔父との意見が対立して、私たちの家族だけ仲間外れになった気分でした。

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宮嶋友美さん(左)と司会の小室翔子・ハフポスト日本版学生エディター

■反日とは「帝国主義、右翼勢力への反対」

——ストレスが溜まりそうですね。ところで今回の選挙では、何が一番重要だと思って投票しましたか。日本の方は、韓国社会で重要だったと感じたことはなんでしたか。

ソンジュ 当然のことながら若者雇用です。ただしこれは、すべての候補者が重要視していました。私はむしろ、外交国防が大事だと思っていました。いつかは分からないけど、南北統一を目指すのが理想的です。北朝鮮は好きではないですが、彼らを完全に消してしまう対象として見るよりも、妥協する意志がある候補者がいいと思って、今回、支持しました。

中川 雇用や安全保障問題がよく話題になっていました。また個人的には、対日政策などを注目していました。慰安婦問題について日韓合意を再交渉するのかという問題も出ています。日本人としては「またやるのか​?」という感じを持っています。

——日韓合意について、韓国側は再交渉する方向に乗り出すように見えますし、一方の安倍政権は(再交渉を)受け入れないと明言しています。どうにも摩擦が生じそうです。

中川 日本のテレビ番組では、各候補者の「反日度数」が付けられていました。

——おそらく文在寅大統領が一番高かったんでしょうね。日本では、よく「反日」という言葉を使います。日本人にとっては「反日本」の意味ですが、では韓国で「反日」とはどんな感じでしょうか。私が韓国に住んで思うのですが、反日本というより、大日本帝国や現政権の態度・歴史修正主義への反対のようにみえます。

ソンジュ 考えてみたことがありませんでしたが、単純に日本に反対するのではなく、特定の態度や、「歴史的な過ち」と「それを繰り返すこと」に反対することでしょうか。

——帝国主義や植民地主義を復活させる、そんな方向に乗り出す日本政府ということですか。

ヒョンジョン 帝国主義、もしくは極右勢力。「反日」とはそれに反対することです。

——その点については、韓国と日本の認識の違いが大きいようですね。

宮嶋 「日本のすべてを嫌う人たち」だと思っています。

——そうなので、韓国に旅行に行くと必ず食堂で悪口を言われるのではと考えている日本人もいます。

ヒョンジョン 多くの韓国人も日本を親しんで旅行もたくさん行きます。私も京都に行きますし。美味しいお店を教えて欲しいです(笑)。

——今回の大統領選挙で何を重視しましたか。

ヒョンジョン 福祉です。雇用問題は私たちの世代では最も大切です。20~30代はそうですが、40~50代にとっても基本的な生活が維持できるかどうかの問題です。雇用は安定せず、基本的な所得をどのように保障してくれるのかという問題ですから、経済政策が裏付けになって雇用を増して発展がなければならないと思っています。そうしないと、私たちが基本的な生活を持つことができません。生活を保障する福祉政策が必要だと考えました。

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中川侑さん

■大企業重視、韓国学生の就活

——若者雇用については20~30代にとって大きな問題でしたが、皆さんは就業や社会人経験をしたことがありますか。韓国では「ヘル朝鮮(地獄のような韓国)、金のスプーン(金持ちや有力者など、持って生まれた有利な環境)」といった話になります。中世のように階級が酷すぎて、この造語ができたとされます。就職活動や社会人生活をしながら感じた苦労や不条理を教えてください。

宮嶋 私は大学を卒業して4年間仕事をしました。大学4年生の時、周りの友人はすべて行き先が決まったのに、一人だけ面接をしたりして大変でした。結局1月まで決まらず、「5年生をやろう」と考えましたが、急に企業から連絡が来て働くことになりました。

最初は有名な大企業、素敵そうな職業だけ希望していましたが、たくさん落ち、最終的に個人の法律事務所で働き始めました。大企業もいいですが、楽しく働き、自分に合ったこともあると分かりました。この点、韓国と日本ではだいぶ違うようです。韓国は大企業をいまだに重要視していますが、日本はそこまでではないと思います。

ヒョンジョン 私は就職準備をしたことがありません。就職については、日韓でシステムが違います。親友が日本の会社に就職して韓国の支社に通っていますが、卒業前の就職先を決めることが不思議な感じ。韓国はそもそも採用枠が多くないですし、学生がわざと卒業を遅らせて学生の身分を延ばそうともします。卒業前に決まるのも良いように見えますが、一方で日本は卒業後に休むことなくすぐ働き始めるので、少し大変そうです。

ソンジュ 学部を2015年に卒業しましたが、いまだに就職活動をしていて不安を抱えている友人もいます。就職しても、夜勤と週末勤務などを繰り返し、ストレスのせいでいろんな健康問題を抱えている知人もいます。1年働いただけで辞める人も多いです。こういった状況を見て「就職をしたとしても、果たして幸せなのだろうか?」と感じています。

——日本で周りの人たちはどうですか。

宮嶋 離職した友人が何人かいます。結婚やその準備のため忙しい大企業には通えず、小さな事務職に移ったりした女性はいます。

——大学院生としての今後の心配と、今の不満は何ですか? 私は博物館で働きたいと思っていますが、修士の学位を取らないといけないこともあり、就職に関して心配です。

宮嶋 大学院の卒業が一番大きな問題です。圧迫感があります。そして卒業しても韓国にとどまるのか、日本に戻るのか悩んでいます。韓国語教育専攻なので、日本に戻る方が仕事は多いでしょう。また韓国語教師ではなく、一般企業で働きたいという考えもあります。

ソンジュ とても軽く考えて進学したのを一番後悔しています。 2年経てば学部のように修士も終えられていると思っていました。(将来を)想像したとき研究職はちょっと違うと思い、生きていくことができる職業は何だろうか、いま悩んでいます。学部時代に国文科と英文科を複数専攻したのですが、教師になって上手くできるのかとも、今さら悩んでいます。

ヒョンジョン 私も似ています。面白そうだと思って進学したけれど、完全に予想とは別の世界が繰り広げられていました。不安なのは私が得た修士号でできる職業が限られており、博士まで行けばできることが多いということです。私が研究者として適切な人間なのかとも常に悩んでいます。就職すれば良かったのに進学したじゃないかともみられますし。やるせなさもあり、悲しくもあり…(こうした大学院生が置かれている状況を)知ってもらいたいと思っています。

中川 悲しいですね。日本は大きな失敗をしなければ、2年で修士課程を卒業することができます。日本に来てください(笑)。

ヒョンジョン 日本の大学院は制度が良いとよく聞きます。サポートもたくさんしてくれて、研究をするために良い環境を作ってくれると。

中川 研究するには良さそうです。私は博士課程まで行きたいのですが、どこで博士課程を学ぶか悩んでいます。ソウル大に進みたいとも思っていますが、周りの話を聞くと容易くなく、「大丈夫かな」と感じてもいます。

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イ・ヒョンジョンさん

■韓国社会「多様性が尊重されたらいい」

——今回の大統領選は、名門の梨花女子大学が(崔順実被告の娘)チョン・ユラ容疑者の不正入学を認め、出席も課題もなしに単位を与えたことが発覚し、崔順実被告と朴前大統領との関係が明らかとなって大統領の弾劾まで進みました。どんな感想を持っていますか。

ヒョンジョン ただただ呆れました。ただしチョン・ユラ容疑者の問題が朴前大統領と繋がっていたことが衝撃だったわけで、似たようなことは常に起こっているんだと思っています。

——コネということですか。

ヒョンジョン そうです。そのような事例は高位職の間での不正として出てくる話の一つと考えていましたが、後々大きくなっていき、大変な出来事になりました。初めはいつもの不正だと思いました。

——私は「ろうそく集会」から大統領選までつながっていくのを見て、韓国の若い世代の怒りや閉塞感を痛感しました。皆さんは、これから社会に関して必要だと思うものや、社会がこうなってほしいという希望はありますか。日本の方々は、日本の社会に求めることはありますか。

ソンジュ 不満は多いけれど、何を求めるのか具体的に考えてみなかったことに反省もしています。基本的に(普通の生活をしながら)就職活動ができる環境を作らなければいけないと思います。就職しても出産できる環境もつくらないといけません。

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座談会で活発な意見交換をする日韓学生

■多くの人が中小企業に入れば生活していけないと思っている

——日本の状況に関して今回の座談会などで感じたことはありますか。

ソンジュ 私たちの世代は政治に大きな関心がなく、それを恥ずかしく思っていたのですが、日本では私たちよりもさらに関心がないということにとても驚きました。日本は政治に無関心なのに、韓国よりも制度面でよく整頓されどうして社会がうまく回っているのかが不思議です。

中川 朴前大統領の事件も「ろうそく集会」もそうだけど、デモをたくさん行うのを見ると、それが「やはり韓国だ」と感じます。デモをして本当に変えられるのか、役に立つのかと疑問に思うこともありますが、それに比べて日本は余裕があるので関心が向かないのかと考えます。韓国では人々がより圧迫感を受け、仕事も勉強もさせられているんですね。

——韓国社会はより切迫した状況だから、ということでしょうか。

宮嶋 政治に関心はありませんでしたが、一連の事件を見て、日本人も関心を持たなければならないと感じました。また反日・親日問題は日本では大きな話題になりましたが、韓国ではそうではありませんでした。意識の差があるんです。そんなことを感じました。

ヒョンジョン 韓国社会について、階層に関係なく基本的に生活できれば、多様性が尊重されたらいいと思います。多くの人たちが大企業だけに行きたがって中小企業は尊重されず、(中小企業に入れば)生活していけないと思っています。

日本については、先日会った日本人の友人から聞いたのですが、平和憲法を改正しようという動きに対して何万人もが抗議デモをしたと聞きました。一方、なんで韓国人はデモに参加するのと聞かれました。私は未来を担うというより、既成世代が作った社会に責任を取れと言われている感じがして、デモに参加していることもあります。

以前、日本の(木村拓哉が首相を演じる)ドラマ『CHANGE』を見たのですが、「政治を変えましょう」といった内容でした。日本でも政治に不満があって韓国と似たような考えを持っている人もいると思っています。

——座談会を通して、また再びやり直すのが難しい社会というのが日本でも韓国でも同じようにあると感じました。今日の座談会では、これからの両国の未来について、不安や共感できる部分がたくさんあったように思えます。ありがとうございました。


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