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イラン大統領選は核開発にどんな影響をもたらすか?【専門家インタビュー】

2017年05月18日 20時43分 JST | 更新 2017年05月18日 23時15分 JST

イランは5月19日に大統領選の投票を控えており、結果次第でテヘランの国内政治情勢や外国との関係が大きく変わる可能性がある。

今回の大統領選は、テヘランと欧米諸国間の外交的な緊張が長年続いたあと、2015年にイランが6カ国と核開発について合意に達して以来、最初の選挙となる。アメリカはバラク・オバマ前大統領の下で、合意の交渉に重要な役割を果たした。イランは重荷となっている経済制裁の解除と引き換えに、核開発を制限することに同意した。

2期目再選を目指す現職のハサン・ロウハニ大統領は、核合意によって雇用や経済成長・繁栄をイランにもたらすと約束していた。しかし、多くのイラン国民はロウハニ大統領が約束を果たせていないと感じている。

オバマ前大統領の後任であるドナルド・トランプ大統領も核合意を批判しており、イランに「警告」して合意を「破棄する」と脅し、アメリカとイランの関係をすでに悪化させている。トランプ政権は合意の再交渉や破棄に向けた措置はまだ取っていない。

(イランの弾道ミサイル発射実験を受けて)イランは火遊びをしている。彼らは、オバマ大統領が自分たちにどれだけ優しかったのか理解していない。私は優しくない!

超保守派の宗教指導者アーヤトッラー・アリー・ハメネイ師はイランの最高指導者で、最高位の権力を持つ。ハメネイ師は、大統領候補の出馬を認可する「監督者評議会」を統括している。ハメネイ師はトランプ大統領の挑発的な発言に対して「アメリカの『本当の顔』をさらしてくれたトランプ大統領に感謝している」と辛辣に応じている。

ロウハニ大統領は残り3人の挑戦者と対決する見通しだ。主要なライバルは保守強硬派のイブラヒム・ライシ師だ。テヘラン市長のモハンマド・バーゲル・ガリバフ氏は5月15日、選挙戦から撤退し、ライシ師の支持を呼びかけた。その直後にはイランのエスハーグ・ジャハーンギーリー副大統領がロウハニ大統領への支持を撤回した。もし1回目の投票で過半数を獲得する候補者がいなければ、5月26日に2回目の決戦投票で決定する。

19日にライシ氏が勝てば、世論調査の結果を覆す政治的なサプライズとなるだろう。ロウハニ師が当選した2013年の選挙と状況は大して変わらない。ブルッキングス研究所のイラン専門家スザンヌ・マロニー氏によると、ライシ師が勝てば核合意はゆるやかに解消へと向かい、トランプ政権からイラン政府へのへの圧力が高まると予想されるという。

ハフポストUS版は16日、マロニー氏にインタビューし、投票日が迫る中、何が予想されるかを尋ねた。

――ロウハニ氏が核合意についての公約を着実に果たしたと、有権者は感じていると思われますか?

公約を実現したと言っても間違いないと思います。経済状況は改善し、経済制裁の少なくとも一部は解除されて、イランが国際金融システムと取引をする上での最大の障害が緩和されたわけです。イラン国民の日常生活に直接影響する、他の制度上の問題をいくつか改善する点でも非常に優れた実績があります。

核合意の内容が履行段階に移ってから1年半の間に、ロウハニ氏が実現できていないのは、イラン経済の完全な変革です。理由の一つには、イランの経済成長の足かせとなっている部分の多くが、過去38年間の間に積み重ねられてきた、構造的な問題だからです。たとえば、金融システムが機能不全なこと、労働法の中身が雇用創出にあまり役に立たない仕組みであること、現行の教育制度が現在の世界経済で必要なスキルセットを持つ人材を育成するのにあまり適したものでないことなどが挙げられます。しかも、これは構造上の問題のごく一部にすぎません。

こういった問題の解決には長い時間が必要です。ロウハニ氏には問題の内容を正しく認識できるブレーンがいると思います。でも、核開発合意について政治的エリート層と一般国民両方にアピールしたとき、合意のメリットを大げさに訴えかける傾向がありました。多数の国民に過大な期待を抱かせたという批判をロウハニ氏が免れることはないと思います。

――ロウハニ氏は現職の大統領なのに、既存の政治権力層に対抗する政治的なアウトサイダーのような選挙活動をしているように思えるのですが。ロウハニ氏の戦略について少し解説してもらえますか?

私はロウハニ氏が2013年の選挙戦で、国民の共感を得る様子を目にしました。その時には、全政治生命をイラン・イスラム共和国の政治体制内で過ごしてきたのに、実際の選挙戦になると自らをアウトサイダーだとアピールし、改革派の声を取り込もうと努めているように思えました。大統領就任前は、改革派と直接のつながりがあるとみなす向きはなかったのですが。

今回の選挙戦でも全く同じ戦術を採用しています。現体制に不満を持ち、政治的、社会的自由のなさにフラストレーションを感じている人々の共感を得るような、巧みな演説を駆使しています。この点も落とし穴になっています。というのは、イラン国民はもちろん、ロウハニ氏が初めて大統領に就任してからの4年間に、こういった分野でほとんど進歩が見られていないという事実を認識していないわけではないからです。改革を再び訴える選挙戦術が今回も功を奏するかどうかは、必ずしも明らかではありません。

――もしロウハニ氏が当選すれば、同氏のリーダーシップ・スタイルは劇的に変化するとお考えですか?

いいえ、私たちは1期目と同じロウハニ氏を目にすることになると思います。つまり、抜け目のない政治家であり、イラン・イスラム共和国の抱える非常に複雑な問題――イデオロギー的にも、官僚的な面でも――をどう舵取りしていくか心得ており、経済改革と、国際社会におけるイランの地位回復を最優先事項に据え、それによっていずれは政治的・社会的な変革がもたらされるだろうと考えているが、政治・社会の変革を優先事項として真剣に取り組むつもりはない、という人物です。

イランのハサーン・ロウハニ大統領(左)は5月19日の投票で国民の信を問う。再戦に立ちはだかる最有力の対立候補は、保守強硬派のエブラヒム・ライシ氏だ。

――大統領候補として、ロウハニ氏とライシ氏の最も大きな違いはなんですか?

両者には多くの共通点があります。どちらも聖職者であり、イランの政府高官としてキャリアを積みました。しかし、ロウハニ氏はイラン・イラク戦争中の経験、また5期にわたって国会議員を努めた経歴と、長年にわたりイランの国家安全保障顧問として積極的な役割を果たしたことからイランが日々直面する政策決定上の困難に関して、かなり広範な知見を有しています。

ライシ氏はこれと対照的に、キャリアの大半を司法界で過ごしました。司法部門は、支配力を維持し、宗教的、政治的な変化を抑止するという点で、政権の中でもかなり強権的です。ライシ氏の経歴は全くもって恐ろしいものです。 イランの抑圧政治の中でも最も暗く、流血の事態となった出来事のいくつかに、ライシ氏は関わっていました。それは1980年代に始まり、2009年に起きた抗議デモの際には、参加者が投獄され拷問を受ける事態になりました。

イスラム政権と、国際社会におけるイランの役割の両方に関して、ライシ氏の理解はロウハニ氏とはかなり異なっています。このような経歴を持つ人物を国の統治者に選出すれば、イラン国民は過去に大きく逆戻りしてしまうことになるでしょう。

――選挙を目前に控えた最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の立ち位置はどこにありますか?

最高指導者はイランで究極の権威を握っており、安保、行政および司法に直接の支配権を持っています。つまり、イランの政治を本当の意味で独占しています。私は、彼がライシ氏に力添えしていることは明らかだと思います。過去6~9カ月に他の保守派の候補を選挙戦から撤退させようとする継続的な働きかけがなければ、ライシ師が先頭集団に躍り出ることはなかったでしょう。

彼が保守派の候補をライシ氏に一本化するためどこまで役割を果たしたか、私たちは何とも言えません。イスラム革命警備隊の報道機関による世論調査には、実際にはライシ氏がリードしているという結果もあり、有力な世論調査会社の結果とは対照的です。この選挙戦をライシ氏に有利になる材料があるのは極めて心配です。

ライシ氏が選挙の地盤を持っていないわけではありません。ライシ氏には明らかに少なくとも1,000万から1,200万人の投票者がいると思います。しかし、今回の選挙母体は5,500万人です。ライシ師が公明正大に勝つとしたら、私はショックを受けます。

――この選挙は、核合意とアメリカ-イラン関係にどんな意味があるでしょうか?

大統領選の候補者は全員、実は核合意を支持しています。それは、最高指導者が核合意を支持しているからです。核合意が承認された事実からみても明らかでしょう。ハメネイ師の支持がなければ、核合意はありえなかったはすです。とはいえ、もしロウハニ氏が敗北し、核合意を主導したモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相が職を離れるとすると、核合意に伴って増加したイランの投資は大きな影響を受けるでしょう。

核合意はイランの外交と経済成長に必要で、有益でもある条件になる――こうしたある種の暗黙の了解が、ロウハニ氏は公約の中核としていますが、ライシ氏の公約にはありません。ハメネイ師はこれまで、時間が経過するにつれてイランが合意の利益を得ていないと感じれば、撤回も示唆しています。

ですから、ライシ氏が勝利する場合、合意が翌日や翌月に白紙に戻ることはないと思いますが、イランは合意の履行に後ろ向きになり、トランプ政権は圧力をかけていくでしょうから、ほぼ間違いなく核合意は崩壊するでしょう。

ライシ氏は撤回はしないでしょう。ハメネイ師が、いつ、どのようにするかの問題です。ハメネイ師は、核合意を手がけなかった大統領と共に、撤回すれば楽になるでしょう。

さらにライシ氏が大統領になれば、トランプ政権からの圧力がかかるきっかけになります。経済制裁かもしれないし、イラン国内の抗議デモかもしれません。手を血に染め、無責任で非難されるような発言を使う人間に煽られたイラン人は、世界各国に影響を及ぼすような話をでっち上げることになるでしょう。

時間はかかるでしょうし、外交努力が必要になります。おそらく、トランプ政権にこれまで以上に一貫した対イラン政策が必要になります。しかしトランプ政権は、ロウハニ氏が大統領の時よりも、ライシ氏が大統領なった時、イランへの圧力を強めるでしょう。

――トランプ大統領は、イランの有権者の気持ちやハメネイ師の考えに影響を与えるでしょうか?

答えにくい質問ですが、イラン国民は大半の人々と同様、自分の日々の暮らしに関わる問題にもとづいて投票すると思います。今のところ、トランプ大統領は将来脅威をもたらす可能性があり、イランに暗い影を落としています。そしてトランプ大統領の行動は人々の娯楽の一つにもなっています。しかし、イラン国民が個人の生活や暮らしの中でトランプ大統領の影響を感じることはまだありません。ですから、彼らは世界中の大半の人々と同様、自分の利益、つまり金銭的損な損得にもとづいて投票すると思います。

最高指導者ハメネイ師については、いい質問です。ハメネイ師はアメリカが態度を硬化させているのを見て、同じように態度を硬化させて応じることを望んでいるのだ、と主張する人もいるでしょう。それはハメネイ師が考えていることの一部かもしれません。しかし、ライシ氏が突然出現したことをどのような形で説明するにしても、私の考えでは、ワシントンで起きていることよりも、ハメネイ師自身の寿命や死への意識に影響することの方が大きいと思います。

ある意味、ハメネイ師にとっては、全てのアメリカの大統領は、干渉や制裁、地域分断といったことを仕掛ける存在でしかありません。ライシ氏が立候補したことで、ハメネイ師が自分自身の遺産やそれを確実に残す最適な方法について考えているのだと思います。

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

イラン大統領選

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