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日野皓正さん往復ビンタ 「体罰容認」の空気を作ってしまう日本

"愛のムチ"はあるのか。考えてみた

2017年09月05日 10時39分 JST | 更新 2017年09月05日 21時43分 JST
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日野皓正さん (Photo by Jun Sato/WireImage)

世界的なトランペット奏者の日野皓正さんに、ドラムを演奏していた中学生が髪をつかまれ、往復ビンタされた

この中学生が、ジャズバンドの演奏中、ドラムのソロを叩き続けたため、日野さんが"指導"したのだという。日野さんは70歳を超える音楽界の大御所。きちんとした言葉で説得できないほど、和を乱した中学生が許せなかったのだろうか。

一方、日野さんに叩かれた中学生もその保護者も、日野さんには怒っていないようにみえる

今回は、日野さんと中学生に"たまたま"信頼関係があり、結果的に誰も大きく傷ついていないのかもしれない。「周りが騒ぎすぎだ」という声もあるし、「なめてますよ」とむしろ中学生の行為を非難した俳優もいる。

しかし、そうやって「体罰が場合によっては、許されることもある」というメッセージを発してしまう空気はどこか怖い。子どものためと思って手をあげる"愛のムチ"。そのことについて、専門家と考えてみた。

そもそも何が起きたの?「馬鹿野郎」と叫ぶ日野さん

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世界的トランペット奏者の日野さん(中央右) September 6, 2015 in Tokyo, Japan. (Photo by Jun Sato/WireImage)

日野さんの往復ビンタは、週刊文春が8月31日発売号で報じた。8月20日、世田谷区教委の主催で『日野皓正 presents "Jazz for Kids"』が開かれた。

2005年から毎年恒例で行われており、2017年で13回目。地元の中学生による「ドリームジャズバンド」が日野さんとともに、成果を発表する場だった。

週刊文春によると曲の後半でドラムのソロを叩き続ける男子中学生に対して日野さんが近寄り、スティックを奪い取った。

男子中学生は、それでも素手でドラムを叩き続けたため、日野さんは「馬鹿野郎!」と叫びながら、多くの観客の前で往復ビンタをしたのだという。この様子は、文春がネットにのせた動画(有料)でも確認できる。

また、当時の状況を撮影した動画を、週刊新潮が公開した。

大人たちの反応は?「日野さんには感謝している」

Kiyoshi Ota / Reuters
イメージ写真 REUTERS/Kiyoshi Ota (JAPAN)

日野さんへの批判の声が上がる一方、往復ビンタされた中学生に対して、「なめている」「本人側はむしろ感謝している」という反応もあった。

俳優の梅沢富美男さんは8月31日、日本テレビ系で放送された「情報ライブ ミヤネ屋」で、(映像を)見てて分かりますよ。スティック取られても、まだ叩いてますから。なめてますよ!」と非難

「僕だって、人前では殴ったり叩いたりしませんから」としたうえで、「人前で日野さんが叩くなんて、おかしいじゃないですか。よっぽど、だと思います」として、日野さんの気持ちに理解を示した。

コンサートは世田谷区教委の主催だった。ハフポスト日本版が保坂展人・世田谷区長に今回の件について取材したところ、8月31日に広聴広報課を通して、コメントを出した。

今回、発表会のアンコールの場面で、ソロ演奏を長い間、続けていた子どもに対して、日野さんが制止をするために行き過ぎた指導をしたという出来事がありました。
今後は改めていただくように、教育委員会を通してお伝えをしています。 注意を受けたお子さんの保護者からも、「日野さんには感謝している。素晴らしい事業なので、やめてほしくない。」とも伺っています。

(コメントのその他の部分はこちら の記事から)

ちなみに保坂区長はいじめや体罰、生きづらい子供達の支援にも取り組んできたジャーナリストだ。

9月2日に放映されたテレビ朝日系「サタデーステーション」。メインキャスターの高島彩さんは「少年の心への影響みたいなものも心配だったんですが、インタビューを聞いていますと、結構、日野さんの思いも伝わっているようですし、反省もしている。で、何よりも、『一生、ドラムを叩き続けたい』というその少年の言葉を聞いて、安心しましたね」と述べた。

保坂区長も、高島キャスターも、"一件落着"だと思っているようだ。

専門家から批判① 「体罰を受けて自殺をする子どもを忘れてはならない」

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「世田谷区長は体罰を厳しく批判してきた教育ジャーナリスト出身なのだから、あのような日野さんの行為には厳しい態度を表明してほしかった。日野さんの事後の態度も事の重大性を考えているようには見えなかった」。

「体罰はなぜなくならないのか」(幻冬舎新書)や「僕たちはなぜ取材するのか」(編著)(皓星社) などを執筆してきたノンフィクション作家の藤井誠二さんはそう話す。

今回の「ビンタ」について、日野さんは「軽く触っただけだ」と説明している。また、日野さんが生徒を特に可愛がっていたため、一種の「愛のムチ」だったと考えることもできる。

朝日新聞デジタルによると、生徒にけがはなかった。

それでも藤井さんは「『愛のムチ』は場合によってはいいという考え方が認められてしまうと、他への悪影響が大きい。愛と信頼さえあれば体罰や、暴力的なしつけはゆるされるという、大人の側の一方的な思いだけを正当化する親や教師が出てきてしまう。過去の体罰死事件や虐待死事件はそういう「愛のムチ」許容論が根底にある」と話す。

今回、日野さんの主張通り、激しく殴ったわけではなかったとしても、どこまでが軽い体罰で、どこまでが重い体罰かを見極めるのはむずかしい。

「体罰を受けて自殺をしたり、不登校になったり、苦しんでいる子どもも多くいることを私たちは忘れてはいけない。いま体罰で苦しんでいる子どもがいたら、しかるべき機関に相談するか警察にかけこんでほしい」と藤井さんは呼びかける。

専門家から批判② 「言葉で止めることも出来た?」

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日野さんは腕力以外の手段で、中学生を"指導"するべきだったと語るのは、元文科省大臣官房審議官の寺脇研さんだ。「生徒が演奏を延々とやって他の子供達が困る場面だったとしても、それは『やめろ』と言葉で止めないと」。

寺脇さんは、日野さんと直接面識がないと断ったうえで、「人を殴るというのは感情的な側面を否定できないと思う。殴るというのは感情的に普通の精神状態ではやらないことですから」と苦言を呈する。

一方、日野さんを責めるだけで終わってもいけないのではないか。

寺脇さんは「(大人達は)子供と一緒にテレビを見たときに、『子供が悪いと認めているから、暴力が許される』と伝えてはいけない。(何か非ががあれば)もちろん子供が反省するのは大事だが、それとこれは別問題だ」と話し、きちんとしたメッセージを子供に届ける大切さを訴える。

専門家からの批判③ 「体罰は効果あっても、ずっと"連鎖"する」

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学校での事故防止を研究し、「ブラック部活動」(東洋館出版社 )などの著書がある名古屋大学大学院の内田良准教授(教育社会学)は、生徒に手をあげて言うことを聞かせる「体罰」には、「これまで一定の効果はあった」と話し、あえてその"効き目"を認める立場だ。

それでもなお、と内田准教授は言う。

「効果があるからといって、それをそのまま今の子ども達に当てはめてもいいのか、考えないといけない」。

殴られた恐怖によって誰かに従った経験がある人は「自分には、体罰の効果があった」と思い込み、それを次の世代に「体罰」として繰り返してしまう可能性がある。

児童虐待や家庭内暴力と似たところがあり、体罰は「連鎖」するのではないか。

内田准教授は「現代社会では、問題を暴力ではなく言論で解決しようとしている時代だ。安易な解決策に逃げるのではなく、大人達の力量と工夫が問われている」と話す。

たとえば、今回の日野さんの指導を受けた生徒がもし本当に逸脱行為をしていたとしたら、演奏を止めてゆっくりと諭したり、しばらく演奏への参加を中止させたりして、「反省してもらう」方法が考えられるという。

一方、今回のケースとは違うが、生徒がほかの生徒に殴りかかるなど暴力をふるったときはどうすればいいのか。そんなときは話し合うことは当然難しく、警察に頼るなど、「時と場合によって、学校以外の関係機関の範囲で問題を解決することが大事だ」と話す。

ハフポスト日本版は保坂展人世田谷区長に改めてインタビュー取材を申し込んでいます。