目の当たりにした虐待の現実。駒崎弘樹さんが、特別養子縁組に本気で取り組む理由

一枚の写真に、言葉を失った。

「子どもの虐待を解決する方法として、特別養子縁組がある」

そう考えて、特別養子縁組の事業を立ち上げた男性がいる。社会課題の解決に取り組むNPO法人「フローレンス」代表理事の駒崎弘樹さんだ。

駒崎弘樹さん
Kaori Sasagawa
駒崎弘樹さん

駒崎さんは、病児保育などフローレンスの活動を通して、小さな子どもたちの虐待案件を目にしてきた。ある日、おねしょをした罰として、熱湯をお尻にかけられた3歳の女の子の写真を見て言葉を失った。当時同じ年齢だった自分の娘と重なった。

虐待案件は、児童相談所や役所につなぐなどの支援をしていたが、もっと根本的な解決があるのではないか、と悩んだ。

思いついたのが、産んだ親が育てられない赤ちゃんと、子どもを欲しいと願う親をつなぐ、特別養子縁組だった。

2016年4月に「赤ちゃん縁組事業」を立ち上げた駒崎さんに、事業の内容や、特別養子縁組が社会にとって大切だと考える理由を聞いた。

――「赤ちゃん縁組み」は、具体的にどんな活動をしているのですか?

まず産んでも育てられない人のために、相談窓口「にんしんホットライン」を設けています。電話やWebで相談でき、相談員が話を聞きます。LINEの方が話しやすいという人たちも結構多く、LINEでも支援しています。

――どんな方から相談がありますか?

下は中学生から上は40代まで、色々な方から相談があります。中には、「彼氏とセックスしかけて手に精液がついたんですけど、妊娠するでしょうか?」という相談をしてきた中学生もいます。基本的な知識を教えられていないんですね。きちんとした性教育の必要性を強く感じています。

その他にも、相手の男性が妊娠を伝えた途端にいなくなってしまった貧困世帯のひとり親の方など、本当に様々な相談があります。

Kaori Sasagawa

――相談してきた人たちに、特別養子縁組を紹介するのですか?

すぐに特別養子縁組を紹介するわけではありません。特別養子縁組が相談者にとって一番良い解決策にならない場合もあるからです。実は、自分で育てたいと思っているかもしれません。そういう方とは、まずは育てる方法を一緒に考えます。

相談者にとって一番良い方法を探った上で、どうしても自分で育てられないという場合は縁組をする、そういった"ソーシャルワーク"こそが特別養子縁組には大切だと思っていますし、それがなければ人身売買と同じになってしまいます。

あっせん件数をただ増やすやり方は、子どものためにも、親のためにもなりないと思うので、私たちは養子縁組の件数を増やすことを目標にしていません。

また、養親も誰でもいいわけではありません。中には、お金をだせば親になれると思っているような人もいますが、そういった方にはもちろん子どもを託せません。

――養親には、どんなことが求められますか?

子どもを育てることに対して、きちんとした覚悟を持っているかどうか。そして子どもの幸せという視点を持ってくれているかどうかが、親になる上で大切な基準だと思っています。

例えば「障害があったら返せるんですか?」と聞かれる方もいらっしゃるんですが、それは子どもからの視点ではありません。子どもが障害を持っているかもしれない可能性も含めて、受け止められるか。それを親になる人には求めています。

――特別養子縁組とソーシャルワークは、必ずセットなんですね。

はい、それは養子縁組をした後にもソーシャルワークは必要だと思っています。生みの親の中には、特別養子縁組で赤ちゃんを委託したとしても、本人が抱えてきた問題が解決されない場合もあります。

例えば貧困世帯の方は、委託をした後も貧困状態が変わらない人もいます。その場合は、福祉課に一緒に行って生活保護を申請するというところまでが求められると思います。

また、二人目の妊娠で相談してきた方の話を聞いて、一人目の子が発達障害を持っているとわかったケースもあります。そういう場合は、児童相談所や、発達支援センターにもつなぐ支援をします。

ソーシャルワークには、実親と社会をつなぎ、彼らが抱える問題を解決するところまでが求められると思っています。

一方、育ての親も、親としては一年生なので戸惑われることも色々あります。例えば子どもが泣き止まない時に「産みの親じゃないからうまく子育てできないんだろうか」と悩む方もいます。そんな時は、「どんな子どもでも泣く」と伝えるなど、子育てに伴走したいと思っています。

イメージ画像です。
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——2018年春に施行予定の「特別養子縁組あっせん法」では、特別養子縁組をする民間団体が「許可制」になり、そのうえで「補助金」が出るようになりますね。この法律で、特別養子縁組をめぐる環境は変わりますか?

答えはイエス&ノーです。

民間支援が0から1になるという意味ではすごく大きい。ただ、国がどの程度支援するかで、あっせん法が本当に実効性を持つかどうかが決まります。

きちんとした児童福祉をするには、人も雇わなければいけないし、それなりのお金がかかります。現在、特別養子縁組にしっかり携わっている団体は約20団体で、一団体につき2、3000万あれば、かなりきちんとした活動ができるようになると思います。それを厚生労働省の担当官にも伝えてきました。

ところが先日、厚生労働省の担当官と面会したところ、考えている予算が桁外れに小さいことがわかりました。

補助金が、総額で年間2800万円くらいになりそうだというのです。団体別に直すと年間140万円です。これでは、きちんとした活動は到底できません。

ーーどうしてですか。

あっせん法で許可制になるぶん、規制が増えてペーパーワークも増えます。十分な補助金がなければ、事業者は人件費が増えて経済的により困窮させられますし、人手を増やすこともできません。

そうなると、養子縁組団体は立ちいかなくなるか、もしくは養親からの手数料を引き上げざるを得なくなります。

そうなるとどうなるか。特別養子縁組が一部の所得の高い人のものになってしまいます。さらに悪いのは、補助金がなければ団体は案件をこなさなければならず、それが不適切な縁組みが増える要因になってしまいます。

先ほどお話ししたように、実際には、支援をしていくうちに「やっぱり自分で育てたい」と気持ちが変化するお母さんはいます

ところが手数料のみに頼るとなると、養子縁組をしなければお金にならないので、団体はなにがなんでも特別養子縁組と考えてしまいかねない。はたしてそれでいいのでしょうか。

Kaori Sasagawa

——厚労省は、児童相談所(児相)を中心に、特別養子縁組を進めようとしているのでしょうか?

厚生労働省は、「特別養子縁組は児相がやるから民間は手数料でやればいい」と考えているようですが、児童相談所は虐待の対応でとても忙しく、特別養子縁組をするだけの余裕がありません。だからこそ、僕は民間が頑張らなければいけないと思っています。

特別養子縁組は"子どもの虐待予防"です。子どもを育てられない親の相談にのって支援をすることで、虐待を受ける可能性のある子どもを事前に救います。

児相の"いま虐待を受けている子どもの保護"とは、支援のフローも専門性も違います。

厚労省は8月に出した「社会的養育ビジョン」で、「子どもたちの家庭養護を進める」という姿勢を打ち出しました。

家庭養護は、里親と特別養子縁組しかありません。このままだと片方の柱である特別養子縁組が死んでしまいます。そうなるともう、社会的養育ビジョン自体が成り立たなくなってしまいます。

このまま特別養子縁組が日本でダメになってしまわないために、政治家にもちゃんと動いてもらいたいと思っています。

イメージ画像です。
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――赤ちゃん縁組を始めて1年半ですが、今後取り組みたいことはありますか?

そうですね。養子が当たり前のことと受け止められる社会になり、またどんな境遇にあったとしても、生まれてくる子どもたちが養子縁組によって家族と出会える社会になってほしいと思っています。そのために必要なことを事業としてやります。

まだ民間の事業者数も少ないし、それを支えるインフラもありません。だから自分たちでインフラをつくるために活動してきました。

今後、特別養子縁組の制度がしっかり機能するようになったら、さまざまな人が親になれるということを伝える、ソーシャルアクションをしていきたいとも思っています。

今は、児童相談所と民間団体の間にはまだまだ溝があるのですが、本当は、民間と行政でデータベースを共有しながら、ひとりの子どもにとって一番いい方法を考えていくのが理想です。今後は、民間と行政が連携するのが当たり前となるようなモデルケースもつくっていきたいです。

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