アート&カルチャー
2018年01月16日 07時00分 JST | 更新 2018年01月16日 18時19分 JST

これは感動…ポスターを逆さにしただけで「挑戦」の文字が「勝利」に変わるワケ

画家の挑戦が、実を結んだ。

佐賀県の唐津競艇場のポスターが、SNSで話題を呼んでいる。ポスターを180度逆さまにすると、それまで「挑戦」と読めた文字が「勝利」に変わるのだ。

西広
「挑戦」と書かれた文字が...

西広
逆さまにすると「勝利」になる

この手法を「アンビグラム」と呼ぶ。ある文字を回転させたり、反対にしたりして見る向きを変えると、別の文字に読める技法だ。

どんな方法で作っているのだろうか。このポスターの題字部分を製作した、富山市の画家でアンビグラム作家、野村一晟さん(27)に聞いた。

野村一晟
野村一晟さんの自画像。HBの鉛筆で書いた細密画も得意だ

野村さんがアンビグラムを知ったのは、美術を学んでいた大学3年生の時に見た映画がきっかけだ。その不思議さに魅入られ、アルファベットで表記した自分や家族の名前を、アンビグラムの技法で別の言葉にするようになった。「そのうち、日本語でもできるじゃないかと気づきました」。

以来、イベントや注文に応じる形で次々と作品を生み出してきた。

野村さんは、どうやって日本語のアンビグラムを作っているのだろうか。コツは、文字を構成する線の強弱の付け方にあるようだ。

「元の文字と、対にしたい文字を構成している線を見比べ、両方の文字を構成するのに共通している線を見つけるんです。二つの文字に共通する線は太く残し、180度逆さにして文字を読む際、この文字だと明確に認知される印象を残しておくのです。対の文字にない線は強弱(太い・細いの違い)をつけて配置を考慮し、文字が180度回ったときに無視できるようにします

こうやって試行錯誤を繰り返しながら、自分で手法を作り上げていった。

野村一晟
「ただいま」をさかさまにすると「おかえり」となる

野村一晟
「おじいちゃんおばあちゃん 敬老」と書かれた文章を逆さにすると...

なかでも作品の一つ、「陰と陽」が評判になり、テレビ番組などで紹介されるようになる。

野村一晟さん

テレビ番組で野村さんの作品を知った福岡市の広告代理店「西広」から2017年、唐津競艇場(佐賀県唐津市)のポスターに使う題字製作の依頼が来た。

アンビグラムの手法を使い、「勝負にかける思い、闘志が伝わるメッセージを文字に託して欲しい」という要請だった。

野村さんは数十もの二字熟語を前に、どうしたら一番最適な熟語の組み合わせができるかを2、3日を費やして考えた。

まず、数十の熟語を、「激戦」「奮闘」など、勝負や闘いのイメージが浮かぶ熟語グループ、そして「勇者」など、名誉が連想されるグループ、「挑戦」「希望」など、気持ちが連想されるグループの3つに分けた。その上で、この3つのうち2つのグループの熟語でうまく組み合わせることができないかを試した。

ただ、全部で数十の熟語を一つ一つ組み合わていくと膨大な作業になる。

このため、対になる熟語を構成する文字の画数が近かったり、形が似ている文字をあらかじめ見つけた上で対を組み合わせた。「挑戦」と「勝利」に関しては、画数が比較的近く、また文字を構成する線の密度が鍵になる。

「線が多い熟語と少ない熟語を掛け合わせるのは難しいんです。線の密度が近い漢字に目をつけ、よく見比べながら組み合わせていきました」

3つの熟語のグループ分けが功を奏し、組み合わせた文字は「挑戦」 「勝利」、「戦場」「最強」とストーリー性のあるメッセージになった。西広の担当者は「傑作」と手放しで喜ぶ。

野村さんは「文字の構成に共通点を見つけて組み立てていくのはパズルのような楽しさがある。1つの単語に2つの意味が込められるのは、言葉に隠された別の気持ちを伝えられる。ものごとをいろんな向きで伝えることの楽しさがいい」と、魅力を話す。