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2018年02月08日 07時00分 JST | 更新 19時間前

公立小「アルマーニデザインの標準服」を導入 校長の独断、全部で9万、親から批判も

「大人の思惑ばかりが先立ち、子どもが置き去りにされている」

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RIO HAMADA/HUFFPOST JAPAN
東京都中央区立泰明小学校。銀座の繁華街に建つ

2月は、春に入学を控えた子供の制服の注文や支払いが本格化するシーズンだ。

東京都中央区に住む女性も、子どもの制服を買いに、デパートへ出向いた。

子どもが入学を予定している区立泰明小学校(和田利次校長)では、今春入学する1年生から、新しい標準服(制服)に切り替える。イタリアの高級ブランド「アルマーニ」に依頼してデザインを監修してもらったものだ。

洗い替えのシャツまでそろえると、全部で9万円だった。学校の説明によると、いまの標準服は、上着、長袖シャツ、ズボン、帽子をそろえて男子で1万7755円、女子で1万9277円。夏服が加わったこともあり、洗替えの価格を加えても、3倍以上の値上がりとみられる。

MASAKO KINKOZAN/HUFFPOST JAPAN

子どもは身長120センチに満たないが、上着は130センチ、下は140センチのサイズを買った。

「大きすぎてかわいそうだと思ったけれど、高いので少しでも買い替えの回数を減らしたい。いまの制服と同じくらいの値段なら、本人のサイズにあったものを買ってあげられたのだけれど」

同小学校は、中央区の「特認校」の一つだ。銀座5丁目という繁華街の一角に校舎があり、今年で140周年を迎える。本来なら、公立学校は指定された通学区域に住む子どもが通うが、商業地域で住んでいる子どもが少ないなどの事情がある「特認校」は、区内全域から児童を受け入れている。

女性が、新標準服がアルマーニのデザインになるようだと耳にしたのは、2017年夏、同じ小学校に入る予定の保護者たちからだ。

「驚きました。公立小学校の制服なのに、なぜそんな高級ブランドのデザインを選んだのかって」

他の保護者たちと「制服なのに高いよね」と言い合った。

それ以来、女性は「ずっともやもやしている」という。

「価格だけがおかしいのではない。高いブランドの標準服を子どもに着せること自体、よいことだと思いません。この服を着て、校庭で遊ぶこともあるでしょう。高いものを着せて、子どもらしい生活に制限が生まれないでしょうか。大人の思惑ばかりが先立ち、子どもが置き去りにされていると思います」

「わざわざブランドを選ばずに、素材の良さで選ぶこともできたはず。高いからいいもの、安いのはダメ、という間違った刷り込みが子どもの中に生まれないか、心配しています」

「この制服に決まるまでの経緯や理由がまったく見えず、唐突でした。保護者向けの校長の文書も読みましたが、何がやりたいのか分かりませんでした」

●9月に公表

学校や区教委に、新しい標準服に決まるまでの経緯を取材した。

泰明小学校が、新標準服の検討を始めたのは2015年ごろからだったという。だが、入学希望者の保護者に初めて新標準服に切り替えると公表したのは、入学まで半年を控えた、2017年9月22日。在校生に伝えたのも9月4日だった。

新しい標準服について、校長はこう説明する。

「時代の変化を体感させつつ、泰明小学校の児童であるというアイデンティティを育成していくための一環」

「これまでの歴史や伝統を守りつつ、小学校での『英語教育の導入』や、『地域との密接な連携』という新しい教育プログラムの導入と並行して行われていく泰明小学校の新しい時代に向けた変化であり、進化でもある」

「学校とは、学問だけでなく、倫理的な考え方や、集団生活でのあり方も同時に学ぶ場であると考えている。『服育』という考えに基づき、装うものからも学びの機会を得てもらいたい」

●校長がひとりで決めた

学校制服の決め方に、特段のルールはない。だが、近年は、学校関係者、保護者、地域住民などを交えた協議の組織を立ち上げ、保護者や生徒に素材や値段、デザインについての希望を聞くアンケートをとり、結果なども踏まえて、製造業者が複数集まったコンペでの提案から選ぶのが一般的だ。

だが、同校では、協議の組織や事前調査はなかった。和田校長がほぼ単独で働きかけ、決めたのだという。

なぜ校長一人で決めたのか。和田校長はハフポスト日本版の取材にメールでこう説明した。

「新標準服の導入は、泰明小学校の現在の教育状況を見つめ直し、泰明のよさを残しながらも、これからの時代に対応できる教育の具現化を目指し、教職員、児童の意識改変のために、学校の方針として必要であると判断して決めた。従って、校務をつかさどる校長が決定した。PTAの関わりは、おおよそのことが決まってから、PTA会長や役員の方々にご報告をいたしましたので、選定過程で関わることはなかった」

なぜアルマーニ社なのか。

「銀座に本社を構える海外ブランドの一つ。実際に、銀座にある百貨店にも、店舗内の服飾事業者と提携できないものか、また、数社の服飾事業者にも相談したが、『服育』という教育方針に賛同し、本社の協力体制が得られそうだという意思表示をしてくださったのがアルマーニ社だったので、デザインの監修をお願いした。アルマーニ社は子供服も手掛けており、実用性と機能性を重視した標準服を制作するにあたりふさわしい事業者だと思っている」

なぜ、新標準服への切り替えを2017年秋まで公表しなかったのか。

「公表できなかったという表現が合っているかと思う。アルマーニ社は最初、検討をしてみますということだった。社の決裁システムは詳らかには分からないが、検討を始めて、デザインや縫製、販売ルートの確保など、それぞれに時間がかかったのではないかと推察している。とにかく、販売も合わせてできそうだと報告いただくまで、確かなお話となるまで公表できなかった」

保護者からの意見は。

「平成30年度入学の保護者からは、新標準服の導入を進めていただきたいという意見はいただいているが、それ以外のご意見はいただいてない。また、在校生の保護者からは、価格等について批判の意見もあったが、新標準服導入について肯定的なご意見もいただいている」

●教育委員会の判断は?

RIO HAMADA/HUFFPOST JAPAN
中央区教育委員会の入る区庁舎=東京都中央区

中央区教育委員会は、泰明小の決定にどう関わったのか。

伊藤孝志・庶務課長によると、小学校の和田校長から新標準服について「アルマーニ社がデザインする」と区教委に直接説明があったのは、2017年夏前だったという。

伊藤課長はこう説明する。

「標準服は、各校の教員やPTA、保護者など、いろんな人が関わり、決めていくべきもの。卒業生などが幅広くデザインや価格についてよく話し合って決めるように、と伝えた」

「標準服は、地域で決めるものだと考え、その後は特段関与しなかった」

●寄せられた苦情

ところが、新しい服が公表された後の10月になると、何件かの苦情が保護者から区教委に寄せられた。

「価格が高い」

「きょうだいがいるので負担がかかる」

「これまでの決定に至るまでの説明が不足している」

「そもそも変更の理由が理解できない」

ーーといった意見だった。

こうしたことを踏まえ、伊藤課長は「校長を中心に説明や意見をかわしながら決定のプロセスをすすめてきたと思っていた。だが、数件とはいえ、(苦情が)出てきたのはそこまでのプロセスでは、十分に意見を交わしていなかったのだと認識した。教育委員会としてとった(学校との)距離感に反省点がある」と話す。

10月になっても、価格ははっきり決まっていなかった。教育委員会は10月、和田校長に保護者に事情を改めて説明し、不安を払拭するよう伝えた。和田校長も標準服についての思いを保護者に宛てて文書にまとめると教育委員会に答えた。

そして11月、「平成30年度からの標準服の変更にあたって」と題した長い文書が在校生の保護者に配られた。

ハフポストの取材に対し、校長は経緯を振り返り、次のように答えている。

「校長としては学校経営方針のもと、適切に進めてきたと考えておりましたが、教育委員会から、標準服の変更に関する情報提供が不十分であり、保護者を始め関係の方々へ十分説明をするよう指導を受けました。振り返ってみると必ずしも十分とはいえなかったと考えています」

●制服の負担感

泰明小学校が、価格の高いブランドの標準服を選んだことは、特殊な事例だからと簡単に片付けられない。日本の公教育が本腰で改善してこなかった「保護者負担」(私費負担)の課題が浮き彫りになっているからだ。

1つ目は、合意形成、説明責任のプロセスの欠如だ。

「標準服」は、絶対にそれを着なければいけない、という位置づけのものではない。

しかし、子どもを通わせる親にとっては、事実上買わなければいけないと思わせる点で、「制服」とほとんど同じ意味を持っている。

今回も、保護者がお金を出して買わなければならない物品でありながら、業者からデザイン、価格などの選考・決定に、保護者がまったく関わることができないまま、校長の一存で決められてしまった。議論の場すら与えられていない。

2つ目は、多様な子どもを受け入れている公立の学校で、高価格のものを標準服に決めたことの妥当性だ。

高額な標準服は、それがハードルになって入学を阻む、「逆選抜」を引き起こす危険性もある。 

仮にこれが、税金を元手に購入する物品だったら、こんなプロセスはいまどき許されない。当然、議会のチェックを受け、金額の妥当性、高級ブランドの標準服を公立学校の子どもに着せるべきかどうか、教育上の妥当性が問われただろう。

公立学校の事務職員を長く務めた経験を持つ、「教育行財政研究所」主宰の中村文夫さんは、泰明小学校のケースについてこうみる。

「校長が服装による教育効果を強調していることは、標準服も『教材』の一つとして見なしていることがうかがえる。文部科学省は『学校における補助教材の適切な取扱について』という教育委員会向けの通知で、『補助教材の購入に関して保護者等に経済的負担が生じる場合は、その負担が過剰なものとならないように留意すること』と求めています。同様のことは『中央区立学校の管理運営に関する規則』第33条第2項にも記されている。また、校長は教材の選定に当っては教育委員会に承認または届け出を要すると記されている」

「この趣旨をふまえるなら、普通教育を税金で実施している義務教育の区立小学校で、高額の標準服で『服育』をするという校長の判断はバランスを欠いた試みと言えます。貧富の差なく誰でもが学べることが本筋の公立学校にあって、価格の高い標準服は、中間層の保護者も含め、特認校を選ぶ際の壁になるのではないでしょうか。中央区には、就学援助費の支給対象となる「要保護、準要保護児童」は、13.19%にあたる577人(2014年度文部科学省調査)いる。誰一人として『服育』によって排除することは許されません」

●海外では...

日本では、制服選びが、基本的に学校の判断に任せられてきた。文科省は、制服の選び方や決め方について、特に通知や案内をしていない。

一方、海外では、制服の取り扱いについて、政府が指針を示している国もある。

多くの学校に制服があるイギリスでは、2013年9月、自治体や政府関係者、教職員に向けた「制服ガイダンス」をまとめた。

その中で、「制服を大幅に変える際には、保護者や生徒の見解を取り入れる」などと強く薦めている。

また、「価格考慮の重要性」という章では以下のように明記している。

「価格ゆえに、生徒やその家族が入学を申し込めない、通えないと感じてしまわないよう、高すぎてはいけない。従って学校運営組織は、価格について最優先に考慮するべきだ」

「ブランドアイテムの強制は最小限にとどめ、高額なコートなど、高価なアイテムの指定は避けるべきだ」などとしている。また、2015年には「学校の制服価格」についての調査レポートもまとめている。

つまり、学校が制服を選ぶ際の基本的な考え方を、政府が「ガイダンス」として示しているのだ。保護者の関わりや価格の考慮は、「踏まえておくべき点」として、そのなかで明記されている。

かたや日本はどうか。

文部科学省に尋ねると、過去に同様の通知などはないという。

学校が選んだ制服を、一方的に買わされる。そこに異論が差し挟めないというのは、消費者問題の構図に近い。

そのため、2017年11月、公正取引委員会が、公立中学の制服の取引実態に関する報告書をまとめている。

報告書は、全国約450の公立中の制服の価格や販売状況を分析し、制服価格はこの10年で5000円ほど値上がりしていることを指摘。さらに一歩踏み込んで、「制服を安くする方法」も提案した。

制服という「保護者負担」は、古くて新しい問題だ。

「子どもの貧困」に立ち向かう最前線として、学校の重要性は増すばかり。なのに、もっとも重い「保護者負担」の一つ、制服についての議論は不足している。

学校制服の負担額は、いくらぐらいが妥当なのか。そして、制服はそもそも何のために必要なのか。こうした問題に正面から向き合う時期に来ている。


ハフポストでは、制服の価格が妥当なのか、制服は何のために必要なのか、決定までのプロセスの透明性について考えます。Twitterのハッシュタグ #制服を考える か masako.kinkozan@huffpost.com に声をお寄せ下さい。