【絶滅危惧種】市民の意識を変えた1羽の「くちばしの折れたコウノトリ」 40年の軌跡

2015年08月10日 00時01分 JST | 更新 2015年08月10日 00時01分 JST

かつては日本で数多く生息していたコウノトリ。しかし、明治以降の近代化にともなって数は減少、自然繁殖は見られなくなった。絶滅したのだ。そんなショッキングなニュースから約30年が経とうとしている現在、人工繁殖ではあるものの、コウノトリの数は増えつつある。その現場の1つが福井県だ。

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福井県越前市の山あいにある白山・坂口地区。住民らでつくる「水辺と生き物を守る農家と市民の会」は、野生下で絶滅した国天然記念物のコウノトリを、この地に再び呼び戻すべく環境保全に取り組んでいる。これまでに、地元新聞社と連携しながら街なかに住む人に自然農法での米作りを体験してもらう「田んぼファンクラブ」や、飼育ケージの「見守り」などを行ってきた。

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「水辺と生き物を守る農家と市民の会」会長の夏梅敏明さん。本業は大工。さらに兼業農家でもある。

きっかけは、1羽のコウノトリ「コウちゃん」

兵庫県、千葉県に続く全国3カ所目となる放鳥に向け、この地で福井県によるつがいのコウノトリの飼育が始まったのは2011年12月。夏梅さんは、ケージが設置され、2羽の姿を初めて見た時の感激を忘れられない。「それはもう、うれしくてね。家にお嫁さんを迎えたような気分だった」

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白山地区に設置されたケージで飼育されているつがいのコウノトリ

この地とコウノトリの関わりは40年以上前にさかのぼる。高度成長期まっただ中の1970年。国内のコウノトリが数羽を残すまでに減る中、くちばしが折れた野生の一羽が飛来し保護された。「コウちゃん」と名付けられ地域の人々に愛されたという。その様子はメディアで大きく取り上げられ話題となった。

「当時は、正直言ってコウノトリにそれほど関心が向かなかった」。20代後半だった夏梅さんは、親方として多忙を極める大工仕事の合間を縫っては、家の田んぼを手伝っていた。イネの害虫や病気を防ぎ農作業の負担を減らしてくれる農薬や化学肥料は、農家にとってありがたい存在だったからだ。コウノトリは、カエルやドジョウなどが生きる里にしか生息できない。そのため、農作業の効率を重視することは、コウノトリが「生きられない」環境を作ることにつながってしまう。たくさんの農作物を、より安価に届けたい生産者にとって、生物の多様性にまで頭をめぐらせるというのはなかなか難しい話なのだ。とはいえ、夏梅さん自身、年々田んぼからカエルやタニシが減っていくのを感じながら、「このままでいいんかな」という思いがずっと頭から離れなかった。

時は流れ2004年。絶滅危惧種アベサンショウウオの国内最大の生息地であるこの地域が国のモデル地区に選ばれ、住民の間に環境への関心が高まった。水辺の会ができたのはその2年後だ。

声をかけられるまま活動に参加した夏梅さんだったが、コウノトリを知れば知るほど愛着が沸いた。「この土地を、再びコウノトリがすめる環境に戻したい。この空を飛ぶ姿をまた見たい」。そこには、時代の流れだったとはいえ彼らの住処を追いやってしまった罪滅ぼしをしたいという思いもあった。

地域が一丸となって取り組んだのは、エサとなる生き物がたくさんすむ水田を目指すための環境調和型の米づくりだ。自分の田んぼでも減農薬や「冬水たんぼ」を実践しつつ、家々に頼み歩き賛同者を増やしていった。

コウノトリが地域にもたらした意外なもの

コウノトリを迎えてからは地域の連携はさらに広がった。地道な取り組みが認められ、夏梅さんが会長となった2012年に、水辺の会の活動が日本ユネスコ協会連盟の「プロジェクト未来遺産」に登録された。自然に優しい農法にこだわった米は、「コウノトリ米」と呼ばれるほど人気のブランドとなっている。

夏梅さんに限らず、地域の人々がふるさとを誇る気持ちは、これまでにないほど強くなった。コウノトリを呼び戻すための粘り強い取り組みは、農業を強くし、人々の絆を強くし、土地の魅力を高めることにつながった。「今ではね、オタマジャクシでもヘビでも、田んぼで生き物を見るとすごく愛しいんや。増えてくれてありがとうって」。夏梅さんは、そんな優しい気持ちをも取り戻させてくれたコウノトリに感謝している。

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自然農法の田んぼで捕まえた生き物たちを観察する「「田んぼファンクラブ」の子どもたち

飼育ケージの2羽は残念ながらまだ有精卵を生んでいないものの、豊岡から預かった卵を〝托卵〟し、無事育て上げることに成功している。ケージで育ったひなたちは、今年の秋にこの地域で放鳥される予定だ。

住民たちにとって、それは一つの大きな区切りだが、終わりではない。「この場所を、コウノトリにも人間にとっても、もっともっと住みやすい土地にするために、これからもみんなで努力を続けていきたいね」

水辺と生き物を守る農家と市民の会は、トヨタのハイブリッドカー「AQUA」が全国各地で展開する環境保全活動のAQUA SOCIAL FES!!に参加しています。無農薬で育てた黄金の稲穂を収穫する稲刈りに参加しませんか?

開催は9月26日(土)、募集締め切りは9月11日(金)まで、定員は100人です。

詳細は公式ホームページを御覧ください。(http://aquafes.jp/projects/169/

(取材・執筆:福井新聞社 渡辺宏和)

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