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大学教授が主宰するNPOは、なぜ独自で水質調査するのか? 九州ワースト1の水質だった大淀川

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大淀川は都城盆地から宮崎市が広がる宮崎平野を経て日向灘に注ぐ一級河川だ。

かつて宮崎市中心部には観光ホテル群が立ち並び、観光客を誘ったが、現在はマンションが林立し一変した。今となっては想像しがたいが、1972年までは、宮崎市役所下に、「大淀川市民水泳場」があり、多くの家族連れや市民でにぎわった。

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大淀川の清流復活を願う杉尾さん

自宅から10分歩けば川に着いた。竹を切ってきては木綿糸を結び、捕まえたミミズで魚釣りに興じた。堤防に立った竹竿の先で白色の旗がたなびけば遊泳が許される。草むらに身を隠して水着に着替え飛び込んだ。大淀川は格好の遊び場だった。 

水泳場は、当時校内にプールがなかった学校の体育の授業でも使われた。危険な場所は学校の先生から学び、滞留する温かな水が心地よい鉄橋の橋脚周りの「秘密の場所」は一緒に遊んだ上級生から教わった。

NPO法人大淀川流域ネットワークの代表理事・杉尾哲(71)さんも少年時代、水泳場に足しげく通った一人だ。杉尾さんは、2009年3月まで宮崎大学工学部の土木環境工学教授として、インフラ整備のための学術研究の第一線に立っていた。大学教授は、なぜNPOでの活動を始めたのだろうか?

「私は川の楽しさ、危険さは、縦のつながりから学びました。でも今の子どもたちは、同級生とゲーム機を囲んでいますよね。それでは得るものが少ないと思います」と、杉尾さんは自然に身を置く重要性を説く。「幼少期に思いっきり遊んだ経験の少ない世代が親になり、自分の子どもたちに原体験を伝えられないでいるんだと思います」。

川は遠い存在となってしまったという。それは物理的なものではない。「蛇口の向こうに大淀川があるんです。でも、自分たちと川がつながっている感覚が薄れれば、『川を守ろう』という意識も生まれません」。河川浄化への意識の高まりは、川との密接度合に関係するというのが杉尾さんの持論だ。

新しい川の守り方 アカデミシャンが立ち上がる。

川を管理するためには河川法という法律がある。もともとこの法律は1964年に「治水・利水」を目的に作られた河川管理制度だった。しかし、環境汚染の深刻化に伴い、河川工事に「環境保全」「地域住民の意見の反映」が1997年に盛り込まれることになった。この改定をきっかけに河川の生物多様性が脚光を浴びるようになったという。

奇しくも、この年に宮崎県延岡市を流れる北川が大雨で氾濫した。改修の際に、改正された河川法を反映する形で杉尾さんら土木に加え、魚類、ほ乳動物などに精通した九州の有識者約20人が集い、研究会が発足することになった。こうして環境保全を重視し、「まち、人、生物」に配慮した川づくりが始まったのだ。

杉尾さんたちによる環境負荷を軽減する土木技術は、その後さまざまな場面で重宝されたという。その功績が認められ、2013年度の土木学会の環境賞を受賞した。高千穂町で現在計画中の三面をコンクリートで覆った河川を昔の姿に改修する「自然再生」の取り組みにも生かされている。

こうしたアカデミックな「土木の川づくり」への知識と経験に加え、生態に配慮した河川研究が、大淀川浄化を願う市民レベルの取り組みの布石となっていったという。それが現在代表を務めるNPOでの活動だ。

水質ワースト1。ここからどう持ち直せばいいのか?

大淀川は、1991年の国土交通省の水質調査で、九州の一級河川の中でワースト1を記録。これを契機に1993年、当時の16市町村の住民・事業者・行政関係者が水質改善を探る会合「大淀川サミット」が始まった。10回目を迎えた2002年ある決定打が杉尾さんを動かす。登壇者の一人が「宮崎には大淀川に関するNPOはあるのか?」と指摘したのだ。この言葉を受け、杉尾さんは「大淀川の清流を取り戻すために多くの団体がバラバラに活動するのではなく連携しよう」と発起。1年半の準備期間を経て2004年に、「NPO法人大淀川流域ネットワーク」を立ち上げた。

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大淀川を満喫できるカヌー体験は人気のプログラム

大淀川流域ネットワークでは、国が行う水質調査とは別に「化学的酸素要求量(COD)」という水中の有機物の量を指標にした調査を10年間続けている。わざわざ別の指標を用いた調査を自発的に行う理由を「広範囲の継続したデータを持つことで行政にも振り向いてもらえるから」と杉尾さんは言う。

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五感を使った水辺調査は多くの学校も参加

環境保全には、大人だけでなく子どもたちも巻き込む必要がある

このような、調査やアカデミックな動きだけでなく子どもたちも巻き込んだ活動も行っている。これまで、カヌー体験、親子ウォーキング、源流探検などを企画してきた。カヌー体験は告知後すぐに定員に達するほど好評だという。

また、2005年からは県と協働で、五感を使って水辺の環境を調べる独自の指標を開発。小学校や地域単位での申込が多く、2013年度は約2400人が参加、調査地点は58にのぼる。子どもたちへの教育はもちろん、活動を通して貴重な資料が積みあがっていった。

水質は2013年度の調査では九州内でワースト5。水質改善は、一朝一夕にはいかない。これは杉尾さん自身、百も承知だ。「憎まれても『きれいにしよう』と言い続けますよ」ときっぱり。「家庭でつくるみそ汁は適量を心がけ、台所から流さない。わずかな気遣いで少しずつ川は変わると確信しています。多くの人に呼びかけていきたいですね」。

杉尾さんにとって大淀川は「原風景のシンボル」だ。ふるさとの川への強い思い入れがこれまで突き動かしてきた。「子どものときに、川の思い出を刷り込んでおかないと、川を大事にする気持ちを抱けない。川を好きになる子どもが一人でも増えるといいですね」。

60年前に杉尾少年が遊んだ大淀川に戻る日を夢見て――
次代へのリレーは続いている。

杉尾さんが中心となって「大淀川市民緑地」の清掃・観察を行うイベントが宮崎県で7月26日(日)と8月30日(日)に開催です。参加を希望する方は、公式ホームページを御覧ください。

(取材・執筆:宮崎日日新聞社 猪八重俊樹)

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