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東京五輪 招致委員会に学ぶ、土壇場で負けないチームの作り方と誰もができるリーダーのふるまい

2013年11月14日 17時49分 JST | 更新 2014年01月13日 19時12分 JST

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2020年の東京オリンピック・パラリンピックを実現させた招致委員会チーム。このチームを現場のリーダーとして引っ張ったのが、ミズノ前会長で招致委員会副理事長の水野正人さんです。招致委員会のメンバーは東京都庁と民間企業などから出向のかたちで招集された方々の混成チームで総勢約130人。それぞれ仕事のやり方も考えも異なるメンバーをまとめていくには、様々な工夫が必要でした。

水野さんはいかに出向者の多いメンバーをチームとして1つにまとめ上げて、東京招致という成果を生み出したのでしょうか。今回、『人はチームで磨かれる』など数多くの著書をもつ明治大学の教育学者であり、ベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会 委員長を務める齋藤孝教授が、水野さんの方法を分析しつつ、その秘密に迫りました。そこにはチームのまとめ方や動かし方など、仕事に役立つヒントが一杯詰まっています。(後編:東京五輪招致チームに学ぶ「成果を出すプレゼン」の秘訣――「ペラペラしゃべらない」「シンプルを極める」はこちら。)

■ミッションがうまく機能するには期限と目標設定が重要になる

齋藤孝(以下齋藤):オリンピック招致委員会のチームメンバーは出向的な立場でかかわった方が多いと聞きましたが、彼らをチームとしてまとめていくうえでどんな工夫をされたのでしょうか。

水野正人(以下水野):まず非常にわかりやすいのは、ミッションが明らかだったということですね。泣いても笑っても2013年9月7日に招致結果が出るわけです。そのゴールに向かってどのようなことを積み上げて、いかに東京オリンピック開催という成果を出すのか。それが我々のミッションでした。

そのためにチームを組んで、目的を達成していく。ミッションが明らかですから、あとはどうやってみんなで力を合わせていくかが重要になりました。

齋藤ミッションを与えると通常の会社でも仕事への意識は高まります。ミッションを出すときのポイントは期限、それに目標設定。この2つが大切になりますね。

水野:2年にわたる招致活動では、乗り越えなければならない目標がいくつもありました。そのつど、ひとつひとつの小さな目標をみんなでクリアして結果を積み上げていくことが必要でしたね。

齋藤:最終的なミッションの前に、乗り越えるべき小さなミッションがたくさんあったわけですね。大きなミッションを立てて、逆算方式でやるべきことを一つひとつクリアしていく。それ自体、モチベーションを高める効果があると思います。

水野:スケジュール表に基づいて、誰がいつまでに何をしなければならないのか。ひとつひとつ期限を決めて動かなければなりません。各担当者はどうやって成果を確実に上げていくかを求められました。高校野球のように勝負は一度かぎり。みんな真剣でした。

■チームが連携するためのバックアップ機能をいかにつくるか

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齋藤:うまく目標をクリアできない部署が出てきた場合はどう対応したのでしょうか。

水野「私たちはチームだ」ということを繰り返し語ってきました。チームであるならば当然チームワークがなければなりません。では、チームワークとは何か。

例えば、野球でバッターがショートゴロを打ったときキャッチャーはどうするか。即座にマスクをとって一塁のうしろに走りますね。なぜなら万が一、ショートが暴投したり、一塁手がミスしたときでもバッターを二塁に行かせないようにするためです。

これをバックアップと言います。もちろんミスをゼロにすることが理想です。しかし、生身の人間ですから、ミスがゼロになることはない。ミスが発生したときに誰がどのようにバックアップするのか。それには誰が今何をしているのかをみんながしっかり把握することが必要になってくるのです。

齋藤:しかし、なかなかうまくいかないケースも出てきませんでしたか。

水野:チームは得てして"サイロ"になりがちです。サイロとは干し草を入れる円筒のことです。欧米では行政などタテ割の組織の弊害を表すときに象徴的に使われる言葉ですが、タテ割だとチームはうまくいきません。

齋藤:ヨコのネットワークが良くないわけですね。

水野:要するに連携がとれていないということです。自分のセクションのことだけを考えて、ほかのセクションとの連携がとれない。今回のチームづくりでは絶対にサイロにしないということを心がけました。

また、しっかりタテヨコの連携がとれるようにするために、プロジェクトごとに各セクションから人材を抜擢してタスクフォース(特定の目的のために一時的に編成されたチーム)をつくるようにもしました。

■ワンフロアに各セクションをすべて集約し、連絡しやすく

齋藤:セクションが異なると連絡がとりにくい例は通常の仕事でもあることですが、連絡をしやすくするための工夫やシステムづくりはあったのでしょうか。

水野:一番はそれぞれのセクションの長が一同に集まって、自分たちの進捗状況をそれぞれ説明することです。みんなが各セクションの状況を知ることで、自分たちが今何をしなければならないのかがわかるからです。

そしてもう1つ、現場の担当者同士が気軽に話せるように、ワンフロアにすべてのセクションを集約したことで、お互いのコミュニケーションをとりやすくしました。

齋藤:フロアが違うと情報が遮断されがちです。ワンフロアであれば、出会った人がそれぞれいろんな話をすることで、その場の雰囲気も良くなりますね。

水野:懇親会もよくやりましたね。お互いに知り合うことは大事ですから。事あるごとに飲み会のように集まってワイワイやっていました。

齋藤:仕事以外にもインフォーマルな飲み会などをすることで、お互いを分かり合える機会が増えるのはいいことですね。

■ どんなことがあっても誰かが代替できるシステム

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水野正人 招致委員会副理事長・専務理事。1943年生まれ。甲南大学経済学部卒、米ウィスコンシン州カーセージカレッジ理学部卒。70年ミズノ入社。88年よりミズノ社長、会長を歴任。2011年より現職



水野:私も部屋を持たずに、大部屋の隅っこに座って全体を見ていました。垣根がないため、みんなもいろいろと気軽に相談に来てくれたり、世間話もよくしました。そんな何気ない話の中でも互いに仕事の関連があるものならば、私が違うセクションに協力をお願いして調整したり、たくさんの相乗効果が生まれました。

齋藤:チームづくりにおいては、さきほどおっしゃったバックアップという考え方はキーワードになるものですね。

水野:私は会社経営に長年携わってきましたが当時、よく社員に聞いていたのは、例えば、課長さんが病気をして会社を休んでも、その課は支障なく動きますかということでした。その答えとして、もし「俺がいなければ課は動かない」という課長さんがいるなら、その課長さんはアウトです。課長さんがいなくても1~2週間は確実に動くという課が本当の仕事をしていると言えるでしょう。

齋藤:なるほど。課長がいなくても、ちゃんとシステムとしてバックアップが効いているのかが大切なのですね。

水野:つまり、どこでどんなことがあっても、誰かが代替できることが大事なのです。そして同時に言っていたのは、「風邪ひいたらあかんで」と。誰かが休めば、みんなの負荷が増えるからです。まあ、そう言っている自分が風邪をひいていましたが(笑)。

■仕事とチームスポーツは構造的に似ている

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齋藤孝 明治大学教授。1960年生まれ。東京大学法学部卒。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。「齋藤メソッド」という独自の教育法を実践。著書に『声に出して読みたい日本語』『雑談力が上がる話し方』『人はチームで磨かれる』など多数。



齋藤:そもそも私の考えでは仕事とチームスポーツは構造的に似ていると思います。単なる比喩ではなく、チームスポーツが高度化すればするほど、仕事で必要な能力とすごく似てきます。サッカーでは1人が複数のポジションにつけることをポリヴァレント(多機能)と表現しますが、バックアップできる機能こそポリヴァレントということなのでしょうね。

水野:招致委員会のメンバーはプロの集まりです。だから、私の役目は比較的簡単で、プロが言っていることは認め、「もっとほかのセクションと連携したらいいよ」といったことをアドバイスすることだけでした。

齋藤:プロは自分のやり方に慣れていますが、無茶ぶりに近いリクエストを出すと、プロとして刺激されてもっとがんばるところがあるようですね。

■リーダーは笑顔でどっしり構えておく

水野:私がチームメンバーにいつも言っていたのは、勝つという目的にちゃんと今の戦略が合っているかどうか。そこを意識しようということです。例えば、セクション同士で揉めても、その結論はどちらでもいい。問題はどちらのほうが勝つために近いやり方なのか。それさえ考えてもらえればいいんですね。

齋藤:今回の仕事は、まさに勝負ごとですね。負ければあとがないわけです。だからこそ、ひとつひとつの仕事に対し真剣に取り組むことが必要だったと思います。

水野:だからこそ、私は和を大切にするということを重視していました。意見が違えば調整して、いかにコンフリクト(衝突)を起こさないようにするかに力を尽くしました。その意味で、招致委員会は非常に良いチームだったと思います。

齋藤:その場にいれば、雰囲気で和があるチームなのかどうかすぐにわかりますね。その和をつくる大きな要素というのは、やはりリーダーの雰囲気なのでしょうか。

水野:リーダーが怒鳴り散らしたり、イライラしたら、みんなに伝播しますよ。リーダーはどしっと構えて、ニヤッと笑って、事をしっかりやっていかなくてはなりません

リーダーの顔色を周りが伺うようでは、びくついたり、これでいいのかと疑心暗鬼になってしまいます。だから、メンバーにさかんに言っていたのは「これまで積み上げてきたものがあるのだから、びくつかずに、どっしり構えていなさい」ということでした。

■戦うチームには安心できるリーダーがいる

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齋藤:リーダーは勝つという意識を常にもたなければなりません。そのために、勝つという感情を支えるには笑顔が必要になってくるのでしょうね。水野さんは、その"笑顔力"がすごくあると思ったのですが、チームづくりで笑顔はどれくらい重要なファクターなのでしょうか。

水野:笑顔でいれば、みんなが安心します。リーダーがいつも恐い顔をしていたら、みんなもピリピリして大変じゃないですか。リーダーの顔色を伺いながら仕事をすることほどつまらないものはないですよね。一生は1回しかないのに。

だからこそ、楽しく毎日を過ごさなければ、もったいない。我々も大きなミッションをもったチームだったけれども、考えてみれば、その期間は人生の一部分に過ぎません。

しかし、そうであればこそ、何かのご縁でみんなが集まったのだから、チームワークをもって一枚岩になり、1つの目的を達成する意識が生まれたのです。

齋藤:それはまさに笑顔のリーダーシップの賜物でしょうね(笑)。

水野:でも、リーダーもつらいときはありますよ(笑)。こんなときにニヤッとしてアホかと。でも、そんなものを周りに見せてもいけませんから。

齋藤:会社経営をされているときから、戦うチームには安心できるリーダーが必要だという考えはあったのでしょうか。

水野:歳を重ねるごとに積み上がってきたものはあると思いますが、今回はみんなと仕事ができること自体がご縁じゃないですか。これを大事にしなければならない。揉め事にしても意味がないんです。

(執筆・校正:國貞文隆/撮影:谷川真紀子/編集:藤村能光)

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(この記事は、2013年11月13日のベストチーム・オブ・ザ・イヤー「東京五輪 招致委員会に学ぶ、土壇場で負けないチームの作り方と誰もができるリーダーのふるまい」から転載しました)