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国際保健医療の体験談を聴く場「とちノきセミナー」とは?

2015年09月12日 21時18分 JST | 更新 2016年09月08日 18時12分 JST

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国際保健医療に従事したい人と、途上国で医療活動を経験した人が集まり、つながる場があります。とちノきセミナーは、タイの大学での研究と日本の地域病院での診療を両立をさせてきた森博威先生が開催しました。途上国の医療に携わるためには、前例のない中、自分自身で進んでいく道を設計しなければなりません。経験者の話を共有し、海外と日本の地域を行き来しやすくすることがねらいです。

第1回目となる「とちノきセミナー」が7月25日、26日の2日間で開催されました。今回は2日目にお邪魔してきました。

セミナーは、第一部から第三部に分けて行われました。第一部は、「とちノきネットワーク」の世話人6名による講演でした。海外医療の現場についてや、医療と政策、保健活動、研究活動のつながりの重要性についてお話がありました。

「途上国の医療現場で働くには、まず第一歩を踏み出すこと。不安定な収入でやっていけるか? 自分の役割はきちんとあるか? 言葉の壁は乗り越えられるか? 家族に反対されないか? いろんな心配をしていると身動きが取れなくなり、日本で働き続けて終わってしまう。さまざまな障壁はありますが、第一歩を踏み出さないと何も始まりません。

次に必要なことは、行く先での居場所の確保です。途上国にも医師や看護師はいます。彼らは本当によく勉強していますし、非常に優秀です。その中で自分の居場所を確保する方法の一つは、専門性を持つことです。現地の医師は感染症や産科には詳しいですが、慢性疾患や専門分野には弱い。専門性を持てば、病院での自分の役割が明確になります」

(医師 坂本 昌彦先生 / 佐久総合病院)

「私の父は医療支援のためバングラディシュに行っておりました。事故にあって息も絶え絶え、しゃべることもままならない状態で帰国した事がありました。海外医療に行く人たちは、自分たちがそうなる可能性があるという事、家族がどのような思いでいるのかを意識しておいて欲しいと思います。」

(医師 宮崎 雅先生 / 愛知国際病院)

「シリアに派遣されている時、爆弾を受けて運ばれてきたのは、名前も年齢も分からない小さな子どもでした。彼女は結果的に命は助かりましたが、子どもの命をただ助けるだけでいいのか? 親がどこにいるかも分からない状態で、この先どうやって生きていくのか? そういうところまで手が回らず『とにかくこの戦争を止めてほしい』との思いばかりが募って、看護師を辞めてジャーナリストになり、この惨状を報道して戦争を止めたいと思いました。しかし、ジャーナリストになりたいと言っても門前払いされるばかりでした。『あなたには看護師として現場でできることがある』と。そして悶々としながら2度目のシリア派遣に行くことになりました。

この時一人の少女と出会いました。少女とは派遣期間中、交流を続けました。彼女は爆撃で負傷した両足の治療中で、もう二度と歩けないかもしれないとずっとふさぎ込んでいました。派遣期間終了の前日、明日帰国することを彼女に伝えに行くと、最後だから一緒に写真を撮りたいと言われました。写真の中の笑顔を見て、『これだ!』と思いました。そして『看護師でよかった』と。

私は、看護師として負傷した人たちを助け続けることができます。敵国への怒りや憎しみを、看護する人への感謝に変えていくことで戦争を止めることができるのではないかと思ったのです。ジャーナリストではなく、看護師で本当に良かったと思った瞬間でした」

(看護師 白川 優子さん / 国境なき医師団)

続く第二部はディスカッションでした。国際保健医療の経験者は、どのような軸足を持って海外活動をしてきたのか。それを聞くことで、活動に必要なことを考えてもらうのが目的です。実際の体験談は、これから国際保健医療に携わろうとしている人にとって、具体的で役立つアドバイスとなるでしょう。

何度も話題にあがったのは、日本の職場の理解を得ることや金銭面での覚悟の必要性でした。また、国際保健医療に進むためには、家族の理解が何よりも大切です。この点はほとんどの人が一度はぶち当たる壁のようですが、とちノきセミナーでは、このような悩みを経験者に相談することも可能です。また、女性の参加者も多いため、女性ならでは視点でアドバイスを聞くこともできます。

第三部の情報ナビでは、病院、大学、NPO法人などの19団体が設けたブースを参加者が自由に訪れました。病院と行政機関や大学、民間団体が一堂に会する場は、まだあまりありません。主催した森先生は、「このような場で国際保健医療をさまざまな視点から捉えてもらいたい」と話していました。

また、今後の展望については次のように語っていました。

「今、海外から戻ってきた方から『こういうことをしたいです』と言われたら、今日ブースを出している4病院の中から紹介できます。親交の深い顔なじみの病院同士だからです。しかし、これを4病院だけで完結していてはいけないと思っています。もっと多くの病院がとちノきネットワークに加わり、内側からむくむくと活動の輪が広がって大きく盛り上がる、そんなネットワークにしていきたいと思っています」

とちノきセミナーでは、経験者の話や、大学、病院、国際保健医療に携わっている民間団体の話を聞き、途上国で医療活動をしたいという夢を実現可能なところまで落とし込むことができます。必要があれば、帰国時の受け入れ先紹介などのサポートを受けることも可能です。この輪に加わる人が増えるほどネットワーク機能が活発になり、途上国や日本のへき地で病気に困っている人の助けとなります。

とちノきネットワークはまだ始まったばかりですが、これからどんどん広がっていく可能性を秘めています。次回のとちノきセミナーは来年の夏の予定です。参加者、ブースの数はどれくらい増えているのでしょうか。楽しみです。

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(取材 / 北森 悦)

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医師プロフィール|森 博威(もり ひろたけ) 内科

2002年地域医療を経て、タイのマヒドン大学に留学した。ディプロマ、博士課程を終了後、現在マヒドン大学熱帯医学部で非常勤講師として研究を続けている。同時に内科医として余市で地域医療に携わり、北海道とタイを行き来している。途上国志向のある医療従事者を支援する活動として2014年に余市病院に地域医療国際支援センターを立ち上げた。様々な情報が集まり、人が繋がる場作りとして2015年に「とちノきネットワーク」を発足し、2015年7月25,26日に「第一回とちノきセミナー」を開催した。

【とちノきネットワーク】

http://tochinoki-net.com/index.html