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トランプ「アジア歴訪」中間決算(中)韓国の「立場」と「弱み」--平井久志

「コリア・パッシング」「日本カード」「DMZ訪問中止」

2017年11月15日 11時54分 JST | 更新 2017年11月15日 11時54分 JST

ドナルド・トランプ米大統領は11月7日に韓国入りしたが、この日、日本での特別な行事はなかった。これはトランプ大統領の日程が、「日本は2泊3日なのに韓国はなぜ1泊2日なのか」という批判にさらされた韓国政府が、7日の行事をなくすことで「実質は日本も1泊2日」という言い訳をするために、日米両政府に要請した結果だったようだ。

「コリア・パッシング」への過剰反応

韓国では、「当事者であるはずの韓国が議論から外される」という意味の「コリア・パッシング(KOREA PASSING)」ということが必要以上に語られる。ばかげたことだ。韓国が中心的な役割を果たさなければならないという気持ちは理解できるが、そのためには、そうした環境を作らなければならない。その環境がない中で、形式的な韓国中心主義の主張を続けることは、逆に韓国軽視の雰囲気を作ってしまう。

トランプ大統領は7日、ソウル南方の在韓米軍・烏山空軍基地に到着し、康京和(カン・ギョンファ)外相などの出迎えを受けた。ここからヘリコプターに乗り換え、京畿道平沢市にある米陸軍基地キャンプ・ハンフリーに移動し、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の出迎えを受けた。米韓両国の大統領が共に在韓米軍基地を訪問したのは初めてだ。

キャンプ・ハンフリーでは、ビンセント・ブルックス在韓米軍司令官(韓米連合軍司令官を兼任)から、在韓米軍の現状や北朝鮮軍の最新の情報などの報告を受けたとみられている。在韓米軍は2003年から、ソウルなど各地から平沢へと移転作業中で、まもなく終了する予定だ。

「北との交渉」にも言及

トランプ大統領と文在寅大統領は同日、青瓦台で首脳会談を行い、その後、共同記者会見を行った。

両首脳は、北朝鮮が核兵器を断念するまで最大限の圧力をかけ、制裁と圧力をさらに強化する方針で一致した。トランプ大統領は共同会見で、米国や同盟国の防衛に必要であれば「比類なき軍事力を使う用意がある」と述べた。

さらに、原子力空母や駆逐艦などで構成される3個の空母打撃群や原子力潜水艦を、朝鮮半島近海に配備していることを強調し、「実際に使用することがないことを望む」と北朝鮮を威嚇した。その上で「中国やロシアを含む世界的な行動が必要」と、中ロに協力を求めた。

これまで「交渉は時間の無駄」としてきたトランプ大統領だが、ここでは「北朝鮮が交渉のテーブルに着くことは理にかなっている。一定の進展もある」と、北朝鮮に対話を促すことも忘れなかった。

一方の文在寅大統領は、「北朝鮮が対話に応じるまで最大限の制裁と圧力を加える」という、これまでの路線を再確認した。さらに「北朝鮮核問題を平和的に解決し、恒久的平和体制を定着させる」とし、「トランプ大統領の訪韓が北朝鮮問題を解決する転換点になると期待する」と述べた。

「トランプ」に押し切られた形

文在寅大統領は11月1日に国会で行った施政方針演説で、(1)朝鮮半島の平和定着(2)朝鮮半島の非核化(3)韓国主導による南北問題の解決(4)北朝鮮核問題の平和的解決(5)北朝鮮の挑発への断固たる対応――という5原則を明らかにした。この演説は当然、文在寅大統領のトランプ大統領に対する原則提示でもあった。

中でも特に重要なのが、(4)の「平和的解決」だ。文大統領は国会演説で「いかなる場合でも、武力衝突はあってはならない」「朝鮮半島での韓国の事前同意のない軍事行動はあり得ない」と断言し、トランプ大統領の軍事行動も辞せずという姿勢に、明確な歯止めをかけた。

文大統領は、北朝鮮の挑発には断固として対応し、制裁や軍事的圧迫も辞さないが、朝鮮半島での戦争だけは容認できない、という立場だ。朝鮮半島で戦争が始まれば、韓国が甚大な被害を受けることが明白だからだ。

しかし、文大統領は今回の米韓首脳会談で、米韓の一致した姿勢を優先させるために「北朝鮮核問題の平和的解決」というレベルにとどめて、これまで強調してきた「朝鮮半島での戦争は容認しない」という強い姿勢を示すことは控えた。

会談を成功させるためには、「比類なき軍事力を使う用意がある」という強い姿勢を示したトランプ大統領と対立しているような姿を見せるわけにはいかなかったのだろう。その意味では、トランプ大統領に押し切られた形となった。

そのためか、文大統領は7日の夕食会の挨拶で、「朝鮮半島で戦争は2度とあってはならない」と語り、夕食会という一歩引いた場で戦争反対の姿勢を示した。

しかし米韓首脳はB1B爆撃機など、戦略兵器の朝鮮半島へのローテション配備や、韓国の弾道ミサイルの弾頭重量制限の撤廃などで最終的に合意し、北朝鮮への軍事的な圧迫強化を確認した。

「武器商人」トランプ

今回の日本・韓国訪問で浮かび上がったのは、「武器商人・トランプ大統領」の姿だ。

トランプ大統領は安倍晋三首相との共同記者会見でも、「首相は大量の(米国製)軍事装備を購入するようになるだろう。そうすれば、ミサイルを上空で撃ち落とせるようになる。先日、サウジアラビアが即時迎撃したように。米国は世界最高の軍事装備を保持している。F35戦闘機でもミサイルでも、米国で多くの雇用が生まれ、日本はより安全になるだろう」と語り、F35最新鋭戦闘機やミサイルの購入を迫った。

安倍首相は想定外の武器セールスに少し慌て、「防衛装備品の多くを米国から購入している。安全保障環境が厳しくなる中、日本の防衛力を質的にも量的にも拡充していきたい。米国からさらに購入していくことになるだろう」と歩調を合わせながらも、踏み込んだ発言は控えた。米『ニューヨーク・タイムズ』などは「米兵器が日本守るとトランプ氏」と、皮肉まじりでこれを報じた。

日本での発言で勢いづいたトランプ大統領は、韓国でも武器セールスに励んだ。ソウルでの共同会見でも「戦闘機でもミサイルでも米国のものが一番優れている」とし、「韓国は数十億ドルの装備を購入するとした」と成果を公表した。

稚拙な「日本カード」

文在寅大統領が7日の夕食会で、元従軍慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんを招待したりメニューに使ったエビを「独島エビ」とわざわざ紹介したことは、稚拙な「日本カード」と言わざるを得ない。

文在寅政権は、歴史問題では安倍政権と基本的なスタンスを異にしているが、対日関係そのものを悪化させてはならないという立場でもあった。しかし、今回の「日本カード」はいただけないものだ。

現在の韓国では、対日問題がホットイッシューになっている状況ではない。むしろトランプ大統領の訪韓をめぐり、保守陣営が歓迎、進歩陣営左派が反対の立場で集会やデモをするなど、対立が深まっていた。トランプ訪韓反対を主張する勢力は、反日色が強い。韓国政府が今回、元慰安婦の李容洙さんを招待したり、あえて「独島エビ」などを強調したりした背景には、日本批判を演出することで、トランプ訪韓反対勢力のガス抜きを図った感がある。米韓関係をめぐる国内の対立を、「日本カード」を使って希釈しようとする意図が見えるのだ。こうした動きは、問題を複雑にさせるだけの実に稚拙な対応だ。

だが、これに抗議した日本政府もどうかと思う。大人の対応をすべきだ。

日本も韓国も、北朝鮮の核ミサイルに対しては共通の立場にある。両国は北朝鮮の非核化を求め、圧力をかける必要がある一方で、いざ朝鮮半島で戦争が起これば、被害を受けるのも韓国と日本だ。その意味では日韓両国は、日米韓の連携を強めながらも、トランプ大統領に対して「戦争はするな」と強く働きかけるべき立場だ。ところがそこに稚拙な「日本カード」を持ち込んだために、問題を余計に複雑にしてしまった。

中国の「黄砂」に阻止されたDMZ訪問

トランプ大統領と文在寅大統領は翌8日午前、南北軍事境界線のある板門店の非武装地帯(DMZ)を訪問しようとしたが、濃霧と黄砂という気象条件のために実現しなかった。

当初は、日程の都合上トランプ大統領のDMZ訪問は計画されていない、ということであった。結局はこれを実行しようとしたわけだが、米韓の説明は食い違う。

韓国側は、当初は予定になかったが、文在寅大統領が前日の首脳会談の席で「自分も同行するからDMZを訪問しましょう」と提案し、トランプ大統領がこれを受け入れたと説明している。一方米国側は、公表しなかったが当初から計画されていた、という説明だ。

文在寅大統領は青瓦台を、トランプ大統領はソウル市内の龍山基地をヘリコプターで飛び立ってDMZに向かう予定だったが、濃霧と黄砂で視界が悪く、ヘリコプターの着陸が困難となった。

米国の大統領はこれまで、訪韓した際には板門店を視察しているが、米韓の大統領が共に訪れたことはない。韓国としては、初の米韓首脳の同時DMZ訪問を実現し、米韓同盟を誇示しようとしたのだが、気象条件のために挫折した。

だが、もしこれが実現していれば、北朝鮮が強く反発するのは必至だった。その意味では「中国発」の「黄砂」がこれを阻止したわけで、中国の環境汚染が北朝鮮を支援する、という結果を作り出した。

韓国政府は、トランプ大統領がDMZを訪問しようとしたこと自体が北朝鮮へのメッセージだ、とするが、この訪問には、軍事境界線からソウルまでがいかに近いかをトランプ大統領に知ってもらいたいという思惑もあったのではないだろうか。ソウルが北朝鮮の火力攻撃でいつでも「火の海」になり得るということを体感してもらいたいという意図も隠されていたが、それも挫折してしまったようだ。(つづく)


平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
関連記事 (2017年11月14日フォーサイトより転載)